旧友を偲ぶ | 酔いどれパパのブログ

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「お風呂」と「酒」と「路線バス」に関する駄文を書き連ねております。

夜に路線バスに乗って外を眺めたり、街を散策したりしていると、昼間は灯っていない看板やガラス越しに漏れてくる光で、それまで気付かなかった店の存在を知ることがよくある。


過日、師走とは思えない暖かな夜に誘われて、最寄り駅ではない西八王子で中央線を降りた。


桜が咲く頃に似た空気に一杯やりたくなり、駅周辺の飲み屋街をウロつくが今ひとつピンとくる店がなく、何となく甲州街道を越えて住宅街を陣馬街道までぶらぶら。


もう飲食店は見当たらないので、八王子駅までバスで移動しようと近くの停留所に向かうと出たばかりで、次の便まで10分以上開いている。


西八王子駅に戻ろうかなぁ、と考えているうちに急にトイレに行きたくなり、コンビニを探すべく歩き出すと、すぐ近くにボンヤリした赤いランプの灯る蔦の絡んだ建物が目に入った。

先ほどから視界に入っていたはずだし、この場所は高校の登下校の際にも自転車でよく通っていた。魔法のように突如店が現れたと感じたのは、師走になってから色づきの盛りを迎えたイチョウの香りに酔わされたからに違いない。

一旦通り過ぎつつ、ドアのガラス越しに店内の様子をうかがうと、一見にはなかなかハードルが高そうな雰囲気。

反対方向にもう1度通り過ぎるふりをして再度チェックするが、まだ入る勇気が持てない。と、ドアのガラスに女性の顔が現れて外の様子をうかがっている。

このまま立ち去るのは不審者のようで気がひけるので、勇気を振り絞って店内に入り「初めてなんですけど大丈夫ですか?」と尋ねると、ヒゲを蓄えたマスターさんから「大歓迎です」と嬉しいお返事。

カウンター席に腰掛け、形ばかりにメニューに目を通してからジントニックをお願いして、無礼とは思いながらも入店早々トイレに立つ。

すっきりして席に戻り、ジントニックをいただきながらマスターに、いつ頃から営業されているのかを尋ねると、38年前からとのことで、私が小学生の頃から存在していたわけだ。

酒が吞めるようになってから約30年の間、この店の存在に気付かなかった迂闊さには我ながらあきれるが、陽気に誘われて西八王子駅からぶらぶら歩いてよかったと思う。

2杯目にアードベックのストレートを選んで、先ほどドアのガラス越しにご尊顔を拝した女性と話していると、「どこ中?」という八王子でのコミュニケーションでは避けて通ることのできない質問を受けたので、正直に中学校名を告白。同年代と見受けられるその方には、何となく見覚えがある気がしたが、中学も生活エリアも違うようなので、多分私の思い違い。

その方が帰られ、マスターにおすすめをうかがうと、「これがうまいですよ」とのことで、お願いすると氷の入ったグラスになみなみ注いで下さる。
「TIO PEPE」というシェリー酒で、ひとくち目は??? 、という感じだったものの、呑み進めるとゴクゴクいける。今のところ、再トライしたい気持ちは湧いていないが、呑みつけるとクセになるのかも知れない。

再度アイラのストレートに戻り、静岡ご出身というマスターとの会話を楽しんでいると、「高校はどこなの?」と、八王子でのコミュニケーションではあまり話題にならない質問を受けたので、略称ではなく正式名称を答えると、「ウチにもその学校に通ってたMって子がよく来てたんだよ」とのこと。

東京では珍しいMの苗字は同じクラスにもいたので、「もしかしてMTですか」とフルネームを挙げると、「そうそう」と、まるで最初からクラスメートだと知っていたかのようなお返事。

「彼はよく来てくれて、一緒に旅行にも行ったんだ」と楽しそうに話すマスターに、「最近はいつ頃来ましたか?」と聞こうと思ったら、「でもね、彼7年前に亡くなったんだ」とのこと。

グラスを落としそうになったが、今日偶然この店に入ることになったのは、彼が呼んでくれたのだと納得した。

マスターと私がそれぞれにM君の思い出を語りあってしみじみ偲ぶ。

7年も知らなかったのは申し訳なかったが、思い出すのが何よりの供養だと思うので、時折この店に足を運び、M君の人懐こい笑顔を脳裏に浮かべながら一杯やりたいと思う。