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札幌駅のホームに上がると、乗車予定1本前の快速「エアポート」に乗る人たちの列が伸びている。
横のホームには函館行きのディーゼル特急「北斗」が発車を待っており、構内に軽油の燃焼臭が漂っている。

その匂いに混じって漂うつゆの香りに誘われて、快速エアポートの発車する5・6番線ホーム中央にある立ち食いそばスタンドで朝食。

札幌駅クラスのターミナルのホーム中央に立ち食いそばスタンドが残っているのは奇跡とも言えるが、次々と客が現れては丼を空けていくのを見ていると、存続している理由がおのずとわかる。
スタンド脇にはイートインスペースも用意されており、小樽発の列車から降りてきた客に混じってそばを啜りながら、北海道新幹線の乗り入れ時には札幌駅のホームや道内の鉄道網はどうなっているだろうかと考える。
前夜の酒が抜け切っていなかったので、東京に着くまで固形物を摂るのは難しいかと思っていたが、甘めのつゆと太くて柔らかめの麺がやさしく腑に染みていき、二日酔いが軽くなる。
体質の関係で飛行機に乗る1時間前から目的地到着まで国内線では基本的に飲食をしないので、今回は札幌駅が搭乗前最後の朝食チャンス。それだけに、汁物の丼をちょうどいいタイミングで手にできたのはありがたい。
よく空港ラウンジや機内で朝から積極的に飲食に励む人を見かけるが、丈夫な消化器系がうらやましいと思う。
食べ終わり缶コーヒーを啜っていると、乗るべき快速エアポートが入線。札幌と小樽の中間にある「ほしみ」駅から普通列車として通勤通学客を乗せて8時29分に到着し、5分停車ののち快速エアポート86号として新千歳空港を目指す。
車両は主力の733系で自由席は通勤車両そのもののロングシートとなっており、立ち客も多い。(新千歳空港駅到着後に撮影)

4号車の指定席「 uシート」も満席で、昨日の懇親会で一緒だった知り合いの顔も見える。
uシートは、JR東日本の予約サイト「えきねっと」で事前予約が可能なので、往復ともフライトに合わせ席を確保していたが、往路では羽田空港からの便が遅延したので、機内Wi-Fiの使用が終了するタイミングギリギリまで乗変をかけるか迷ったものの、発車15分前にスポットインしたので、予約していた快速エアポートには無事間に合った。
現在の快速エアポートは733系が大勢を占めるが、往路の列車はかつて主役を張っていた721系が充当されており、自由席車も方向転換可能なクロスシートを備えている。

更新理由についてJR北海道は、新千歳空港の需要拡大に対応した輸送力増強を挙げているが、733系は定員数こそ721系に比べて6パーセントほど多いものの、座席数は増えないことから、中期計画の示す内容はロングシート自由席車での立ち客増加による輸送力の底上げを意味しているとも言える。
733系の自由席車両では定員の8割の乗車率と仮定した場合、座ることができたとしても目の前には吊革につかまる立ち席であふれ、窓の外に広がる北の大地の景色を眺めようとすれば、隣の人に気を遣いながら首を背中の方向に向ける必要がある、という状況になる。
特に新千歳空港からの列車では、ターミナルの地下トンネルを抜けてから札幌に至るまでの間に初めて北海道の風景に接する観光客も多く、北の大地の第一印象が形成されるタイミングでもあることを考えると、ロングシートは「おもてなし」にはほど遠い。
自由席車両で立ったり座って首をひねるのがお嫌な方はuシートへどうぞ、という営業戦略かも知れないが、外国人観光客にはわかりにくだろうし、コロナ前には満席になることも多かったから、これからインバウンドが本格的な回復に達した折には、混雑を嫌ったビジネス客をはじめとする「えきねっと」ユーザーにuシートが独占されないだろうかと不安になる。
ちなみにuシートの指定席料金は、私が毎月札幌を訪れていた頃は310円で気軽に使うことができたが、2016年に520円、2019年には530円と値が上がり、2022年には840円に跳ね上がっていて、旺盛な新千歳空港関連需要を背景にしたJR北海道の強気の姿勢がうかがえる。
「取れるところから取る」のは、企業経営や財政当局運営の基本とは言うものの、北広島や恵庭、千歳などの沿線住民が途中駅から日常的に使うには躊躇する金額に違いない。
空港関連旅客と札幌のベッドタウン住民を運ぶ「二刀流」の快速エアポートは、将来的には新千歳空港駅スルー運転による増発や、現在6両となっている編成を7両に増強するなどの計画もあるようだが、インバウンド需要がコロナ前のレベルに復し、さらに超えていくタイミングは目前に迫っている。
逼迫した千歳線の線路容量や、切迫したJR北海道の経営状況を勘案しつつも、北の大地を訪れる世界各地からの観光客に喜ばれる空港輸送に知恵と力を絞ってほしい。
国や自治体にもJR北海道への経営支援に加えて、空港整備関連予算や観光税などの活用を含めた新千歳空港関連輸送の増強につながる支援メニューの拡充を期待したい。