老い鉄 | 酔いどれパパのブログ

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「お風呂」と「酒」と「路線バス」に関する駄文を書き連ねております。

過日、久々に小海線に乗ろうと思い立ち、所用を終えた甲府で乗り込んだ中央本線の普通列車から小淵沢駅のホームに降り立った。

小海線ホームには、すでに列車が据え付けられていたので、席を確保してから駅弁を買いに行こうと、一人掛けが向かい合うクロスシートに月刊誌と折り畳み傘、ペットボトルのお茶を置いて駅の階段を上がった。小諸行きの発車までは22分あるので、トイレを済ませて駅弁を買ったら、ホームに戻って高原の空気をゆっくり楽しむことができそうだ。

と、列車が動く音がしたので振り返ると、先ほどの車両が排気ガスを上げながら、発車していった。

唖然としたが、立ち止まって少し考えてみると、あれは小諸行きではなく、その前に出る野辺山行きの臨時列車だったのだと理解できた。

典型的なローカル線の小海線で、わずか20分ほど前に列車が出るとは思わず、コロナの影響で何となく臨時列車の存在感が薄れていたとは言え、迂闊だった。

そういえば、車両から出るときに運転士さんが振り返ってこちらを見ていたが、そういうことだったのか。それにもかかわらず、こちらはヘッドフォンでラジオを聴いており、駅の案内放送も耳に入っていなかった。

完全にこちらの落ち度なので、傘も月刊誌も諦めようかと思ったが、車内に物を放置したようで気がひけるので、改札で正直に申告すると、親身な対応で受け取りの方法を検討して下さる。駅弁を楽しむ気分ではなくなったので、とりあえず立ち食いそばで昼食を済ませて改札に戻ると、荷物の受け取り場所を後ほど連絡してくれるとのこと。申し訳ない気持ちで、今度こそ小諸行きに乗り込む。

中央本線から小海線への乗り継ぎは、小学生の頃から何度もやっており、それゆえ何も考えずに小海線の車両に居場所を確保したわけだが、その経験則が裏目に出た。加えて、ヘッドフォンによる駅・車内の音声情報遮断や、加齢に伴う注意力低下が今回の失態につながったのだと思うが、落ち込んでいるだけでは、せっかくの小海線が油断と老いを見つめる旅路になりかねないので、気分を入れ替えて発車を待つ。

発車時刻になり、座席の2割程度の乗客を乗せて、すぐに上り勾配に挑んでいく。大きく右カーブを描く築堤を上りながら中央本線から離れ、八ヶ岳の東麓に向かっていく線形は小海線の旅立ちを感じさせ、何度乗っても気分が盛り上がる。中央道をくぐり、さらに高度を稼ぎながら木立の中を進むと、ますます高原列車の雰囲気が高まるが、遺失物受け取りのことが頭にあるので、どこか落ち着かない。

次の甲斐小泉を出ると、小淵沢の駅員さんから連絡があり、中込で受け取って下さいとのこと。恐縮してお礼を言って自席に戻ると、少し気持ちが落ち着いて、あとは中込までのんびり過ごそうと深く座ってひと息ついた。

清里で満席の小淵沢行きハイブリッド車と行き違い、宇宙電波観測用の巨大パラボラアンテナが見えると、間もなく日本一標高の高い野辺山駅に到着。先ほどの臨時列車は、ここ野辺山まで営業運転を行ったのち、車庫のある中込まで回送するので、遺失物の受け取りも中込になったのだろう。

野辺山を発車すると、列車はレタス畑の中を軽やかに下っていき、信濃川上に停車。ここは、川上犬の故郷で1度会ってみたいが、ヨソ者には大変厳しい性格らしいし、列車を降りると2時間半後までないので、今回も降りずに先へ進む。

右手に千曲川の源流のような細い川が現れるが、下るに従って山からの流れが合流してきて川幅が広くなってくる。その奥には、いつも気になる少し尖った形の山が見えているが、名前を知らないまま、今回も通り過ぎる。
小海で小淵沢行きと2回目のすれ違いを済ませ、八千穂、羽黒下、龍岡城と何となく小海線らしい名前の駅を過ぎると、小淵沢から1時間50分で中込到着。

乗ってきた列車は、中込で2分ほど停まるが、遺失物の引き取りには書類への記入が必要なので、次の列車に乗ることにして、落ち着いて改札に申し出て荷物を受け取り、駅前に出る。
中込は、小海線の中枢駅で、ここから小諸までは列車の本数も増えるが、駅前に人通りはなく、ひっそりしている。
次の列車までは、30分ほどあるので、酒蔵を訪ねようと駅前通りを歩くと、千曲バスの8Eに遭遇。
あまり時間に余裕がないので、急ぎ足でお目当ての土屋酒造店を目指す。
住宅地を抜け駅から片道10分ほどで到着。

こちらは「亀の海」をメインに醸す酒蔵で、最近ではANAの国際線ファーストクラスでも提供された「茜さす」の評価を東京あたりでも耳にすることがある。江戸時代からの酒蔵を引き継いで1900年に創業されたそうで、小海線の前身である佐久鉄道の誘致にも関わったということだから、呑み鉄としては寄らざるを得ない。

とは言え、時間がないので秋上がりの4合瓶を買って退散。途中に日本酒の銘柄である「初鶯(はつうぐいす)」を掲げる店があるが、酒蔵ではなく販売店とのこと。
駅に戻ると、すでに列車は入線しており、今度はしっかり行き先を確認して乗車。中込をガラガラで発車したが、岩村田では高校生が大量に乗ってきて立ち客多数。何種類かの制服が混じっているので、付近に高校がいくつかあるのだろう。

次の佐久平で降りて、新幹線につながる連絡通路を歩くと、山の中腹に千曲錦の看板と工場が見える。佐久には先ほどの土屋酒造店を含めて13の酒蔵があるそうで、新幹線の改札内にはそれらの蔵の4斗樽が展示されている。
駅に併設された「物産ふれあい処 プラザ佐久」でも、それらの蔵の酒が扱われており、種類も駅構内とは思えない充実ぶり。ここでも4合瓶を購い、次は酒蔵巡りを目的に佐久を訪れようと心に決めて新幹線に乗り継いだ。