昼下がりの甲府駅前に佇み、出入りするバスを眺めるが、お目当ての古バスは現れないので、山梨交通生え抜きの中型バスに乗って、伊勢町(いせちょう)営業所を初訪問。
長いこと、松本市街にある通り名と同じ「いせまち」だと思っていたので、車内アナウンスで初めて間違いに気付いた。営業所まで15分ほどの道のりは、動物園を併設する遊亀公園やいくつかの寺院が沿線にあり、それらを訪ねながら、ゆっくりと駅まで戻るのも、いい散歩コースになりそう。
伊勢町営業所に着くと、埼玉県から移籍してきた1994年製造の古参大型リフトバスや、ブドウ色のオリジナルカラーをまとった山梨交通生え抜きのリフトバスなどが休んでいる。

(道路上から撮影)
それらのバスは当分動きそうにないので、隣接する住吉神社の前を通って、身延線の甲斐住吉駅を目指して歩く。15分後に出る甲府行きに乗ろうと、スマホの地図を見ながら住宅地を歩くが、袋小路に阻まれたりして、駅には発車時刻ギリギリに到着。

やれやれ間に合ったと思いながら乗車口で待つが、列車の来る様子がない。無人駅なので案内放送はないが、遅れているのだろうか。念のためと思い、待合室に貼られた時刻表とスマホの時計を照らし合わせると、次の列車は30分後。
伊勢町営業所で15分後に出ると思った列車は、1時間前に発車しており、単に15時台と16時台を勘違いしていたのだった。
前回の小海線に続く凡ミスで、またもや加齢を実感させられる。落ち込みながら伊勢町営業所まで歩いて戻り、始発のワンステップバスで中央4丁目まで乗車。人通りの少ないアーケード街を抜けて、お目当ての居酒屋さんへ。

訪ねるのは「くさ笛」さんで、5年ほど前に店の前まで来たことがあるが休みで入れず、今回はリベンジ。飲み屋街の小道を迷いながら進むが、先ほどの住宅地と違って、このあとの一杯への期待感が高まって楽しい。「オリンピック通り」の入り口に「銘酒コーナー くさ笛」の緑の看板を見つけ無事到着。

開店間もない時間だったが、カウンターのみ15席の店内は、ほぼ満席。隅っこの席に腰掛けて、生ビールを注文。
甲府に着いてから、何も飲み食いせずに暑い中駅頭に佇んだり、早足で住宅地を迷い歩いたり、老化に落ち込んだりしたので、普段はあまり吞まない生ビールが格別にうまい。
お通しで生ビールを空け、腹が冷えたので熱燗をお願いすると、先ほどから正調甲州弁で常連さんと賑やかに会話を交わしながら忙しく注文を捌いている白割烹着の女将さんが「銘柄は何がいい?」と尋ねて下さるのでお任せすると、「そんなら谷桜がいいかね」と仰り、燗付けにかかる。
私以外の客は、みな常連らしく女将さんとの会話を楽しみにやってきていることが店全体の雰囲気から分かるが、初訪問の私も不思議とその雰囲気に包まれる安らぎがあり、疎外感は覚えない。
「ぬるかったら言ってね」と仰りながら注いで下さった谷桜は、程よい燗具合でしみじみ。「やまかけ、もちょっと待ってね」と私のお願いしたマグロやまかけの注文も気にかけていて下さり恐縮。
威勢のいい店員さんが多い店は苦手だが、こちらの女将さんのように快活と気遣いを兼ね備えた接客は酒の味わいを深めてくれる。
たっぷりの山芋が載ったマグロぶつをワサビと醤油を絡めていただくと酒が進み、燗酒お代わりと鳥もつ煮を今度は外国出身と思しき店員さんに頼むと、「七賢でいい?」とのことで、それに従う。
皆さん酒を片手に盛り上がっているが、隣で独り吞んでいる初老の男性は、アジ塩焼きを肴に春鶯囀(しゅんのうてん、これも山梨の銘酒)の常温をコップで楽しんでおり、かっこいい。
鳥もつ煮で七賢を味わうと、昼間の凡ミスで落ち込んだことなど忘れて、心も体もじんわりほぐれた。