
写真のバスは、過日乗車したJRバス東北の日野セレガ。H677-19401の車番の通り2019年度導入車で投入は2020年3月。
トイレ付独立3列シートの長距離仕様で、大型セレガでは珍しいオートマ車。
杜の都に赴任したいとこと会った帰りに仙台から高速バスで帰京してみようと、乗車10日ほど前に東京駅八重洲口のバスターミナルで仙台駅1100発バスタ新宿行きのチケットを購入しておいた。
仙台は、しばしば訪れるが新幹線利用がほとんどで、特に仕事の際は時間的制約などこれあり、半ば受動的に新幹線に身を預けてきた。
今回は、若干の所用を口実にしつつ、有給休暇を絡めて知人やいとこに会う旅程を組んだことからスケジュールに余裕があるため、行きも帰りも新幹線を使わずに移動しようと思い至ったのだった。
いとこと女川などを訪ねた翌日、朝9時前に仙台駅西口のホテルを出て、軽い朝食を済ませてから朝市をブラつき、カフェで河北新報にゆっくり目を通してから、東口の高速バス乗り場に向かうと、すでに「仙台・新宿8号」が乗車改札を始めていた。
実は投入間もない19401号車への乗車を望んでいたので、心の中で「ビンゴ!」と囁きながら改札を受け、指定された席に腰を落ち着ける。
進行左側トイレ前の席は、車内を観察しながらエンジン音を楽しみつつ、ドライバーさんの腕前を遠くから感じることのできる私にとっての指定席。トイレが近い私の生理的ニーズを満たしてくれるのもありがたい。
それはともかく、乗車券購入時点では満席に近かった仙台・新宿8号だが、仙台駅発車時点では横3列で並ぶシートのうち、真ん中の列は1席を除いて空いており、窓側席は8割が埋まる程度で、乗車率は55%といったところか。
発車時刻になり仙台駅を後にして、一路新宿を目指す。と、言っても8号は途中、長町で乗車扱いを行い、東京側でも王子と池袋に立ち寄る。1本前の1000発東京駅行きは途中ノンストップで、そのせいもあってか10日前時点で満席だった。
市街地を抜け、広瀬川に沿うように南下して長町駅を目指す。旅先で滞在した街を列車や飛行機で後にする時の感覚は、多少の感傷が伴って嫌いではないが、バスでゆっくりと街に別れを告げるのも悪くない。
20分ほど走り、真新しい高層マンションが見えてくると、長町駅に到着。かつての長町は貨物や機関車が並ぶ無機質な駅という印象だったが、駅や周辺の再開発が進み仙台のベッドタウンとしての存在感を高めている。
長町駅から5人ほど乗車があり、窓側席が全て埋まる。さらに20分ほど走り、仙台駅発車から44分が経過した1144に仙台南インターから東北道に入る。ここまで安定した走りで、ゆったりした乗り心地を提供してくれていたが、本線へのループ状のアプローチ部分ではギクシャクした前後動とそれに伴うわずかな横G変化が発生する。
機械式オートマ車であるため、アクセルに乗せたドライバーさんのわずかな足先の戻りにセンサーが反応して不要なシフトダウンが発生したためだと思われるが、何の落ち度もないドライバーさんは気の毒だ。
小雨降る東北道を上っていくが、坂道の頂上手前でアクセルを緩めた時にも不要なシフトダウンが発生していることがエンジン音とわずかなショックからわかる。頂上手前からアクセルを緩めていってショックなく下り坂の惰性走行に移すというドライバーさんが長年の感覚で身につけてきた技術を、機械がいとも簡単に裏切っているようで残念だ。
東北道は、秋田に転勤していたサラリーマン時代の父が東京の実家との間を往復する際の交代要員として何度もハンドルを握ったことがあるが、勾配と曲線が多く、関東平野の直線に入るとホッとしたものだ。そんな環境の東北道を頻繁に往復しているプロドライバーさんは日々技量の向上に努めているだろうが、オートマチックやその他のASV技術がそうした努力を妨げることのないように願いたいものだ。
長町駅から約1時間10分ほど走り、安達太良サービスエリアで15分の休憩。車外に出て山あいの空気を吸い込んでいると、ドライバーさんが近づいてきたので、オートマ車の印象を尋ねると、「いやぁ、ダメ。乗りにくくて仕方ない」とのこと。そう言いながら、すぐに乗りこなしてみせる、との自負がほの見えた気がしたのは、こちらの期待のせいだろうか。
あっという間に15分が経過し、1308安達太良サービスエリア発車。相変わらずの雨模様で、周囲の山々も煙って見えるが、ヘッドフォンから流れてくる山下達郎の音楽が不思議とマッチしている。
旅先では、普段聴かないアーティストの楽曲や初めてのラジオ番組に耳を傾けると、後でその曲や番組のジングルを聴いた時に旅の風景を思い出すことができるので、昔からよくやる。今回はradikoのタイムフリーでTOKYO FMの「山下達郎サンデーソングブック」を聴いたのだが、今まで知らなかったのが恥ずかしくなるような良質な番組で今では毎週心待ちにするようになった。
1時間の番組を聞き終えて、20分ほど地元AMに耳を傾けると、上河内サービスエリアで2回目の休憩。バスにもトイレが付いているが、狭いからか、これまで使った人はおらず、そのせいか休憩では、ほぼ全員がバスを降りる。
トイレを済ませて、無料のお茶を啜りながら車の出入りを眺めていると、発車時間が迫ってきたのでバスに戻るが、車内では売店で買ったらしき物を食べる人がチラホラいて、それらしき香りが漂っている。
発車から約3時間半が経過し、そろそろ遅めのランチタイムといったところだろうが、自分はまだ腹が減らず下手に食べるとトイレが近くなるので、ほうじ茶で我慢。
本線に戻り、関東平野を走るが、所々で工事を行っており、車速が落ちる。すでに乗車から4時間ほどが経つが、深いリクライニングの独立シートや休憩のおかげか疲れはない。加えて、通路との間にカーテンを引くことができるので、空間の独立性が高められていることも無関係ではないだろう。意識していなくても、他人の視線というのはストレスにつながる。
東京が近づくに従って交通量は増え、雨脚も強くなってくる。夕方に雨が降ると、市街地の交通量が増えるので、大泉から王子~池袋~新宿と進む下道の渋滞が懸念される。
そんな懸念をよそに、蓮田サービスエリアでしっかり3回目15分の休憩。雨が強いせいか、乗客の半分も降りず、カーテンを閉めたままの席も多い。ドライバーさんから15分遅れとの案内があって1605に蓮田サービスエリアを後にする。定刻ならバスタ新宿には1653到着だが、このままの遅れなら1710頃の到着が見込まれる。乗り継ぎ予定の新宿1730の列車には間に合いそうだが、下道の状況によっては微妙なタイミングではある。
15分遅れなら蓮田サービスエリアの休憩を無くせば回復できそうだが、今は運行管理の厳格化などもあり、そうした対応は御法度。焦っても仕方ないので、最後の乗り心地を楽しむ。
このままだと、乗車時間が6時間を超えそうだが、全く疲れは感じず、もっと乗っていたいような気さえする。30歳を過ぎてから長い時間バスに乗るのが苦痛で、2時間を超えるような路線には長いこと乗っていなかったが、今年は1月の飯田~立川線に続いて仙台~新宿間をバスで移動する機会に恵まれ、いずれも快適に過ごすことができた。どちらも車内が空いていたことが大きいとは思うが、自分の中に長距離バスを楽しむ心の余裕が残っていることに気付けたのが何よりの収穫だった。
バスタ新宿には20分遅れで到着し、予定の列車には問題なく乗り継ぐことができた。