夕方5時過ぎに霞が関で仕事を終えて表に出ると、近くの交差点で信号待ちをしている東急バスが目に入ったので、反射的に青信号の横断歩道を渡って停留所に並んだ。入ってきたのは、等々力操車所行きの東98系統で新型エルガ。後部の2人掛けシートに腰掛け、終業の開放感に浸りながら外の景色を眺める。
バスは内幸町から芝、三田へ抜けるルートを辿り、沿線には樹木の緑や愛宕山、東京タワーなど車窓を彩るあれこれが目を楽しませるが、停留所ごとに帰宅客が乗ってきて、かなりの混雑に。ゆっくり座っていられるなら等々力まで乗ってもいいかなぁ、なんて考えていたが、通路まで客が一杯で、この後もたくさん乗り込んで来そうなので目黒駅で下車。
降りると、すぐ後ろの乗り場には東急バス三軒茶屋行き新型エルガミオが発車待ち。こりゃ途中の祐天寺で降りてモツ焼きの「ばん」でレモンサワーだな、なんて思いながら新型エルガから新型エルガミオに乗り継ぐ。
バスは満席で権之助坂を下り、大鳥神社を左に見てから坂を上がると、目黒通りから右折して油面方面に進路を取る。と、右折車線停車中、進行左最後部に座る私の視界に「鳥繁」の看板が目に入った。
またも反射的に停車ボタンを押し下車。ひとつ先のバス停から歩いて戻り、鳥繁に初入店。

カウンターにひとつあった空席に腰を落ち着け、まずは生ビール。
メニューに目を通すと焼き物10本コースというのがあったので、そちらを注文。
すぐに出てきたサラダはオリジナルドレッシングがおいしく、ビールとともにすぐに器が空になる。
続いて、目の前の焼き場で串を手繰るマスターらしき男性が、わさびを乗せたササミを焼き物用の皿にちょこんと載せてくれる。ササミは表面を軽くあぶった鳥わさ風の柔らか食感で鶏肉の旨味が濃厚。
期待を裏切らないコースの幕開けにたまらず熱燗を注文して、次なる串焼き、スナギモに手を伸ばす。フレッシュかつ濃厚な鶏の旨味ウェーブは、この後のネギマ、レバーでも絶えることなく、そんな波の高さに合いそうな山形の地酒「十水」をお願いする。
串焼きの中堅どころを担うカワは濃厚そのもので胃弱の私には少し重く、シラスおろしによるレスキューを発動しつつ、次の日本酒に福岡の駿を注文。
腹も落ち着き、酔いも程よく回ってきたので、あらためてゆっくりと店内の雰囲気を味わう。カウンターには、三組の夫婦らしきシニアカップルが優雅な時間を過ごしており、座敷ではマスコミ関係らしき賑やかなグループが盛り上がっている。
私は今回が初入店だが、実は以前に店の前まで来たことがある。その時は定休日で涙を呑んだが、1年以上を経た再訪で入店が叶い嬉しい。たまたま新型エルガと新型エルガミオを乗り継いだ結果に過ぎないのだが、そのたまたまの先にこんな素敵な時間が待ってるかも知れないから、バスや電車のたまの衝動乗りはやめられない。
駿をなめながら、店の雰囲気を味わっていると、マスターが先ほどふんわりと形を整えていたダンゴ(ツクネ)が存在感を持って登場。普段はツクネを食べないけど、こちらのだったら、お代わりしても平らげられそう。とは言いつつもゴールの迫った串焼きリレーに胃もたれ気味なので、ウーロンハイとトマトを頼み、串焼きのアンカーを務める手羽先を迎える。
これまた旨味が濃厚な手羽先を骨までしゃぶり終えて腹をさすっていると、最後に鶏スープが出てコース終了。
どれもうまい串10本にサラダ、スープが付いたコースが2850円とは恐れ入る。目黒でこれだけの内容なら5000円超でも何の不思議もないだろう。シラスおろし300円、トマト400円なども下町居酒屋価格で良心的。地酒も一杯600円程度で正直な商売だ。
満足して鳥繁を後にして、大鳥神社への坂をゆっくり歩いて下ると、道沿いの家具屋さんや照明具屋さんからこぼれる柔らかい灯りが目黒通りの歩道を優しく照らしてくれた。