アンティノリ:ティニャネッロ 1982 その3 | 古きイタリアワインの魅力を読み解く

古きイタリアワインの魅力を読み解く

イタリアンワインガイド ガンベロ・ロッソ 1988-1989
イタリアワイン界に多大な影響を与えるガンベロ・ロッソ Gambero Rossoですが、この初期(1988や1989当時)のレアなイタリアワインと古酒の数々を、掘り下げて解説します。

Vini d'Italia 1988 Gambero Rosso Vol. 47
Antinori-Tignanello 1982 その3

 

私にとって、Tignanelloは『ザ・イタリアの赤』であり、原点且つ中心です。

例えばChiantiはAma、SoaveはAnselmiのS.Vincenzo 等が私の基準になりますが、広義の赤の基準はTignanelloです。価格・高級感・(Sv主体の)イタリア感・味のブレが無い事。更に20年以上の経年変化に耐え、綺麗に熟成する事も魅力です。Tignanelloのファーストヴィンテージ・71年を飲んだのは96年でしたが十分に若々しかった。これほど綺麗に熟成するかと驚きました。その時は現在のCSとCFが入った品種構成だと信じて疑わなかったのです。エティケッタを眺めていた時に、文面が現在の物と違っている事に気付き、和訳をして漸く品種構成が違う事に気付き、驚嘆した事をよく覚えています。
 

今でも、あくまでもSv主体で、過度なカベルネの影響力を感じず、きちんとイタリアらしい雰囲気を醸します。

初めて白ブドウを抜き生産に苦心した1975年を除き、現在は35万本。当時の生産者が必死になって狙っていたTreBicchieriを、表題の82ヴィンテージでは25万本生産しながら獲得します。化け物ですね。供給量の増やし方と美味いワインとのさじ加減、アベレージヒッターの造り方は、さすが商売上手なAntinoriです。その商売っ気がラベルの向こうに透けて見えると、我々も意識的に遠ざかってしまうのでしょう。先日の問い『Tignanello飲んでますか?』でドキッとした人は、こんな気持ちだったのでは?でも、非常に単純に考えて、とても良いワインじゃないですか。

 

Antinori(&G. Tachis)はこれだけの量のワインを造っていても、『サンジョヴェーゼ命』という雰囲気になりません。自然環境を整え、畑に白石を砕いて撒くだの、ここに書ききれない位の様々な工夫を凝らしながら、やはり上品でおっとりした雰囲気がそこはかとなく漂います。Sv100%を造る事に命を懸けている人は、やはりちょっと『違う世界の人』かも知れません。

翻って、Tignanelloの魅力は、違う世界の手前で止まっている事。やはり『陰陽や躁鬱の気配なく、いつも明るく正しい事。我々が飲みたいと思った時に、襟を正して臨む必要が無い事』でしょうか。いつも小綺麗、キリリと身構えており、背筋も伸びて、ニコニコしている様をセラーやカウンターで見かけると、なんか『こいつはいつも変わらず明るく正しいけど、肩の力が抜けていて、塩梅良いなあ』と嬉しくなります。更に、世界中どこにでもおり、更に更に、変わらず美味しく元気に年を重ねている姿もいろんな場所で見る事が出来ます。それがTignanelloの魅力でしょうね。

 

美味いワインを世界中に安定供給してもらえるなら、それに越したことは無い。
おかげで、遠く離れた東の小さな島国の、とある消防官がTignanello85に巡り合い、イタリアに引っ越すきっかけになったのです。
彼にとっては幸せな巡り合いとなったのだと思います。

 

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