ガヤ:バルバレスコ ソリ サン ロレンツォ 1983 その3 | 古きイタリアワインの魅力を読み解く

古きイタリアワインの魅力を読み解く

イタリアンワインガイド ガンベロ・ロッソ 1988-1989
イタリアワイン界に多大な影響を与えるガンベロ・ロッソ Gambero Rossoですが、この初期(1988や1989当時)のレアなイタリアワインと古酒の数々を、掘り下げて解説します。

Vini d'Italia 1988 Gambero Rosso Vol. 13

Gaja-Barbaresco Sorì San Lorenzo 1983

1988年版TreBicchieriワインに因んで、今回はGaja三回目です。

 

 自分にとってのガヤは、1995年以前つまりLa MorraのGromis購入前、まだSellalunga内のイメージが強いですね。ガヤが積極的な業務拡張を行い且つ大成功している様は一ファンとして非常に嬉しく、Gromis, Pieve Santa Restituta, Ca’Marcanda何れも非常に高品質で真面目に作られていると思いますが、私が持つガヤのイメージとは少し違うかなと思っています(因みに買収前のPieve Santa Restitutaはとてつもなく美味でした。いつかお書きします。教会とあの帽子とマント。美味かった)。

 

 彼にオールドヴィンテージの質問や感想を投げても、あまり答えが返ってきません。1993年、伝手でオールドガヤを沢山入手しましたが、その中には赤文字でInfernotと明記されている初見物あり。ガヤにそのワインの事を伺った時も、帰ってきた答えは『ああ、あれは親父のワインだ』以上。以後、彼とは出会う機会も多く、其の度に彼の偉大なオールドガヤの話などをするのですが、反応はいつもこんな感じです。本当に常に未来を見据える彼らしい。

 

 ここから先は私の主観になります。

三つのクリュは、味わいの強さ順に1,SSL 2,ST, 3,CR。年の違いやこなれ方によって強弱や具合が変化しますが、畑の位置関係(写真参照の事)等は、クリュの性格を素直に反映していると考えます。決して格の高低には置き換えられないとも。SSL(1967~)は三つのクリュの中で異質、超熟、固く、たまに手が付けられない。CR(1978~)は比較的馴染みやすく、過度になりすぎない。一番華やかな薫りで味わいは甘い。ST(1970~)は力が抜けており、SSLより早く開き、バランスの良さがワインライターに人気でした(今はCRが人気高いですね)。

 乱暴な言い方をすると、ガヤの場合、エティケッタのデザインとワインの味やスタイルが比例している気がします。アンジェロ独特の細やかさがエティケッタデザインという細部までに行き渡り、結果ワインスタイルにもリンクしていると。

古き良き親父さん時代の面構えから、シンプルに洗練されつつも強い印象を残すデザインへの変化が、そのままワインのスタイルとリンクしていると。それでも当時から薫りも色合いも濃く、日本に比べ湿度が少なく薫りの拡散が激しいイタリアでは、薫りのこもりやすいグラスで飲むとむせるほど強烈。マルケージでは当時、ネッビオーロを直径15~20センチほどの二種の大きさのVal Saint Lambertでサービスしていましたが(写真参照)、ガヤにこそぴったりのグラスでした。

 

 この時代、ガヤでさえまだ今の様には洗練されていなかった。80~90年代の他の伊生産者の様に、リリース時には荒々しいタッチが特徴でした。時には暴力的でもあるその強い風味が、経年変化により丸く変わっていく。2000年以前のイタリアワインは、マイナー且つ生産本数が少ないといったある種のプレミアム感に値段の手頃感(もちろんガヤは高価格ですが)、更にはこの経年変化こそが私のツボだったのです。特にガヤの三つのクリュはリリースから追いかける事が楽しく、78年のCR参戦以降、78、82、85、88~90といった良年の三つ巴は三国志並みの盛り上がりでした。

 今は醸造技術も向上し、ガヤも含めどの生産者もヴィンテージのブレ幅が少なくなり、リリース直後から粒子の細かい濃密な味わいが、しかも長期間楽しめるようになり、経年変化も穏やかになりましましたが、初期は本当になんでもありだったのです。後年になってあのヴィットリオ・フィオーレでさえ『初期は醸造技術がおぼつかなかった為、Sv単独で造るのはしんどかった。だからSvとCS、Meの混醸品が多かったんだ』と告白したほど(いずれ書きます)、皆、試行錯誤しながらも夢中にワイン造りに励んでいたのです。

 

 ガヤの功績として称えたいのは、ワイン人として誰よりも夢中にワインを造り、しかもオープンな人だった事です。伊の生産者はひたすら己が道を究める為、自分の世界に浸り勝ち、固執しがちですが、彼は自らの耳を開放して、誰よりも消費者の声と生産者の声に耳を傾け、欧米ワインの伝統と新しい考え方をどんどん取り入れ、誰もよりも先に凄まじい速さと力でワイン造りに熱中した事です。

 

 そう、彼は『バローロボーイズ』よりも何十年も先に、『バルバレスコボーイ』だったのです。

御大78にしてEtnaに進出?しかもタッグを組むのはGraci??

ガヤはいつまでもガヤであって欲しいと思います。

 

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