ルーブル美術館展 愛を描く、国立新美術館、六本木 2 | ワインは素敵な恋の道しるべ

ワインは素敵な恋の道しるべ

白ワインは天使の如く貴方の心を解き放ち、赤ワインの真紅のグラスの底には悪魔が潜む。そして貴方は天使の如く大胆に、悪魔の如く繊細に、新たな恋の道を歩み始める。

六本木の国立新美術館で開催された「ルーブル美術館展 愛を描く」の鑑賞記の続き。

一緒に鑑賞した友人達は、かずみさんご夫妻、KEiさん、しづちゃん、mayuさん。

(国立新美術館での展覧会は終了し、現在は京都市京セラ美術館で9月24日まで開催されています。)

 

Ⅲ.人間のもとに-誘惑の時代

オランダでは17世紀、フランスでは18世紀になると、神話や聖書ではなく、現実世界の人間たちの恋愛が盛んに描かれるようになる。

 

Ⅲ-1 室内と酒場-オランダ絵画における愛の悦びと駆け引き

オランダでは世俗の人々の人間味あふれる愛の情景が描かれるようになる。

17世紀の多くの風俗画を観ているが、あまりに世俗的過ぎて好みではないものが多い。

でも寓意が随所に散りばめられた絵は、謎解きのようで面白くもある。

 

ハブリエル・メツー「《ヴァージナルを弾く女性と歌い手による楽曲の練習》、または《音楽のレッスン》」(1659-1662年頃)

音楽を奏でる男女は17世紀後半のオランダで好まれた画題の一つ。

共に楽譜を見ながら話し合う二人は恋人同士と考えられる。

 

サミュエル・ファン・ホーホストラーテン、「部屋履き」(1655-1662年頃)

レンブラントの弟子が描いたオランダ風俗画。

人物は登場していないが、慌てて脱ぎ捨てられた部屋履き、鍵が差し込まれたままの錠前。

オランダの人々はこの暗示的な表現に秘められたエロティシズムを感じ取っていたようだ。

 

Ⅲ-2 優雅な牧歌的恋愛-フランス流の誘惑のゲーム

18世紀のフランスでは、自然の中で上流階級の男女が話しをしたりダンスをする中で誘惑の駆け引きをする場面の画題が人気となる。

 

ニコラ・ランクレ、「鳥籠」(1735年頃)

長閑な牧歌的風景の中で、男女が仲睦まじく寄り添っている。

女性が持つ鳥籠は、恋の虜となる幸福の寓意。

伝統的に鳥のモチーフは、エロチックな意味と結び付けられている。

 

Ⅲ-3 エロティシズム-《かんぬき》をめぐって

18世紀後半になると、女性の性的魅了を強調した絵画が知的エリートの美術愛好家の間で流行となる。

 

ジャン=オノレ・フラゴナール、「かんぬき」(1777-1778年頃)

今回の企画展を代表する作品。

18世紀のフランスでは自由奔放な性愛の快楽を肯定する”リベルティナージュ”という思想・生き方が上流階級の一部の知的エリートの間で流行した。

この作品はまさに”リベルティナージュ”の風潮を体現した作品。

男性の熱情に抵抗しながらも身を任せる女性。

他にも色々な寓意が描かれている。

かんぬきは男性性器の暗示、壺は女性性器、薔薇の花は処女喪失の暗示。

ベッドサイドに置かれた林檎は、エバの誘惑と原罪のモチーフ。

奔放な愛の賛美でもあり、道徳的警告でもある、考えれば考えるほど意味深な絵だ。

 

フランソワ・ブーシェ、「褐色の髪のオダリスク」(1745年)

究極のエロティシズムと言える作品。

モデルは13歳年下の妻。

オダリスクは、トルコ、オスマン帝国のハレムで奉仕する女奴隷のことで、18~19世紀のヨーロッパのオリエンタリズムで流行ったテーマ。

 

Ⅲ-4 夫婦の幸福の演出

Ⅲ-5 結婚の絆か、愛の絆か?

一方で18世紀後半になると、夫婦間の愛情や子供への思いやりといった家族の絆を尊重する作品も描かれるようになった。

 

ギヨーム・ボディニエ、「イタリアの婚姻契約」(1831年)

イタリアに魅了されたフランスの画家の作品。

裕福な農家の婚姻契約の場面を描いたもの。

公証人は婚姻契約を作成し、婚姻契約をする男性は許嫁を真っすぐに見つめ、女性は恥ずかしそうに顔を伏せ、母親は優しく娘の手を握る。

一方で公証人の横に座る父親は召使の若い女性に目を奪われているという面白い構図。

 

Ⅳ.19世紀フランスの牧歌的恋愛とロマン主義の悲劇

驚いたことに、第Ⅳ章は撮影可能。

展示作品8点を撮影。

その中から4点をピックアップ。

 

Ⅳ-1 アモルとプシュケ

 

フランソワ・ジェラール、「アモルとプシュケ」または「アモルの最初のキスを受けるプシュケ」(1798年)

美しい絵だ。

アモルはプシュケに触れているようで触れていない、そしてプシュケはアモルが見えていないような表情をしている。

二人の物語を書くと長くなってしまうので省略するが、幾多の試練を乗り越えて、二人は天空で結ばれるのだ。

 

Ⅳ-2 ロマン主義における男性の情熱

 

クロード=マリー・デュビュッフ、「アポロンとキュバリッソス」(1821年)

アポロンと美少年キュバリッソスの愛の神話を描いた絵画。

キュバッソスの身体は両性具備的に表現されており、当時はこの身体が思春期の若者の理想的な姿だった。

 

Ⅳ-3 死に至る愛

 

ウジェーヌ・ドラクロワ、「アビドスの花嫁」(1852-1853年頃)

イギリスの詩人バイロンが1813年に発表した「アビドスの花嫁」に基づく絵画。

オスマン帝国時代の高官の娘ズレイカと、その従兄で海賊の首領セリムの仲を引き裂く悲恋の物語。

ズレイカを政略結婚させるために取り返そうとする高官の軍隊に追い詰められ、死に瀕しながら応戦しようとするセリムをズレイカが引き留めている。

ドラクロワらしい力強い絵画だ。

 

アリ・シェフェール、「ダンテとウェリギリウスの前に現れたフランチェスカ・ダ・リミニとパオロ・マラテスタの亡霊」(1855年)

14世紀イタリアの詩人、ダンテの「神曲」の「地獄篇」に登場するパオロとフランチェスカの悲恋の物語。

不義の恋の結果殺された二人の亡霊が永遠に地獄を彷徨っている姿を、ダンテとウェリギリウス(古代ローマの詩人で、地獄でダンテを案内している)が見つめている構図。

ダンテの「神曲」は19世紀前半、ロマン主義の時代に流行していた。

 

今回の企画展も素晴らしかった。

鑑賞を終えた一行は、ディナーに向かうこととする。

友人達と過ごす、国立新美術館での楽しい午後は続きます。