ちょっと以前のお話し、彼女と麻布十番で待ち合わせ、東麻布に向かう。
目的のお店は、昨年12月5日に開店したフレンチ・レストラン、『クラフト・ワイン N』。
東麻布の街からは、ビルの間に東京タワーが間近に見える。
住宅街の中にひっそりと佇むお店は、知っていないと来ることはできない。
店名は、料理のコンセプトを表す”クラフトマンシップ”と”ネイチャー”に、料理とワインのマリアージュを示すために”ワイン”を加えたもの。
店は奥行きが深く、厨房の前にはカウンター席。
忙しく料理に取り組むシェフは、『アピシウス』やフランスの一流店で修業を積んだ、志太龍之氏。
厨房のお隣、サービス・カウンターの前には、二人用テーブルと四人用テーブル。
サービスを担当するフロア・マネジャーは安田海氏で、ワインに関するお話しが楽しい。
入り口側には、四人用テーブルが二つ。
このお店を開いたのは、料理とワインに魅せられてエンジニアから飲食業に転身した大山真樹氏と、共同オーナーのシニアソムリエ、三角芳久氏。
今夜は、フルコース料理とワインのフル・ペアリングをお願いした。
最初の泡は、スペインのカヴァ。
カタルーニャのラヴェントス・イ・ブラン、ブラン・ド・ブラン、2014年。
スペインを代表するヴィンテージ・カヴァで、スペインのミシュラン三ツ星レストランの全てでオンリストされている。
瓶内二次発酵で造られており、勢いのある肌理の細かい泡が素晴らしい。
でも、フレンチでワインのペアリングの最初がカヴァとはちょっと意外。
セパージュは、マカベオ45%、チャレロ35%、バレリャーダ20%。
アミューズ・ブーシュは、ホタルイカと鮪のリエット。
春を告げるホタルイカが美味い。
リエットが鮪とは面白い。
二種類目のワインは、カリフォルニアの白。
ジラソーレ・ヴィンヤーズ、メンドシーノ・カウンティ、シャルドネ、2014年。
「このワインは一緒に飲んだね」と私。
「覚えてないけど、どこで飲んだの?」と彼女。
「汐留の『ジ・オレゴン・バー&グリル』だよ」
「あそこはもう閉じちゃったんでしょ」
「うん、去年の7月に閉店して、今は『アレクサンダーズ・ステーキハウス』になっているよ」
ふくよかな果実味とミネラル感。
レモン、ライム、リンゴ、そして洋梨のニュアンスを持ち、樽香も心地よい。
温度が上がっても甘ったるくならない、綺麗で上質のボディ。
ぶどうの樹齢は高く、オーガニック栽培されている。
冷前菜は、千葉産金目鯛のカルパッチョ。
菜の花、芥子菜、赤蕪、そして伊予柑が散りばめられている。
カルパッチョというより、炙りといった感じ。
旨味が凝縮された金目鯛が素晴らしい。
三種類目のワインは、とても面白い。
ドイツのピノ・ノワールのトップ生産者が造る、ロゼ・ワイン。
ファルツ地方のフリードリッヒ・ベッカーが造る、プティ・ロゼ、2015年。
ここのワインリストには、ドイツのシュペートブルグンダー(ピノ・ノワール)が5種類も記載されている。
私は数年前にドイツを旅した時に飲んだシューペートブルグンダー(またはブラウブルグンダー)が美味しく、すっかり気に入ってしまったので、次回はボトルで飲もうと思う。
ベリー系の香りを持ち、綺麗な酸を持つ辛口。
さすがフリードリッヒ・ベッカーだけあって、美味い。
セパージュは、シュペートブルグンダー50%、ポルトギーザー40%、カベルネ・ソーヴィニヨン5%、ドルンフェルダー5%。
ベッカーの醸造所はファルツの最南端、フランス国境にあり、畑の65%はフランス側にあるそうだ。
温前菜は、牛タンのプレゼ。
添えられているのは、葉たまねぎ。
牛タンは柔らかく、旨味が凝縮されている。
「フレンチのお店だけど、ワインがスペイン、アメリカ、ドイツだなんて面白いわ」
「この次にどんなワインが出てくるのか楽しみだね」
東麻布の『クラフト・ワイン N』で彼女と過ごす楽しい夜は続きます。