
元箱根の『オーベルジュ・オー・ミラドー』で彼女と過ごす素敵な一日の続き。
白ワインの次は、赤ワインを選ぶ。
私が膨大なリストから二本を選び、彼女に最後の選択を委ねる。

1本は、オスピス・ド・ニュイ、ニュイ・サン・ジョルジュ、プルミエ・クリュ、1998年。
もう1本は、シモン・ビーズのサヴィニー・レ・ボーヌ、プルミエ・クリュ、2009年。
この二本から彼女が選んだのは、ドメーヌ・シモン・ビーズ、サヴィニー・レ・ボーヌ、プルミエ・クリュ、オー・ヴェルジュレス、2009年。
シモン・ビーズはサヴィニー・レ・ボーヌを代表する造り手。
残念なことに4代目当主のパトリック・ビーズ氏は2013年10月に61歳の若さで他界されてしまった。
今は奥様の千砂さんが栽培・醸造責任者としてドメーヌを運営されている。
以前、千砂さんのフランスでの奮闘を描いたTV番組を観たことを想い出す。

自然なぶどうの果実味。
柔らかなタンニン。
複雑でしっかりとしたストラクチャーを持つ、ピノらしいピノだ。
2008年から千砂さんの進言により、ビオディナミを導入しているそうだ。
ぶどうは全房で醸造し、発酵は木樽、赤の熟成に新樽はほとんど用いていない。
「美味しい、さすが2009年のシモン・ビーズね」と彼女。

コルクは長さも充分で、状態がとても良い。
良いワインに出会えて、二人とも一層幸せを感じる。

魚料理は、石鯛のポワレ。
切り身の大きさから判断するに、かなり大物の石鯛だ。
大学時代は体育会系の釣友会に所属し、全国の磯を巡って石鯛を狙ったので、石鯛には思い入れがある。

肉料理は、地元の名産、天城軍鶏。
色々な部位の肉を違った方法で調理している。

左側が腿肉。
右側が胸肉。
どちらも旨みがぎゅっと詰まっている。

左側はもう一つの胸肉。
右側は、砂肝をミンチにして作った肉団子。

レバーで作ったパテ。
円柱状に成形されていて、皿の中のひとつのアクセントとなっている。

外は夕闇が迫っている。
箱根に到着した時は霧が森を覆い、時々小雨も降っていた。
今は雨も止み、青空がだんだんと暗闇に変わりつつある。

赤ワインがまだ残っているので、フロマージュを出してもらう。
どれも食べ頃で美味しそうだ。
彼女が詳しく質問するのを聴きながら、どれをカットしてもらうか選ぶ。

とろけるエポワースは必須アイテム。
ウォッシュド、青かび、シェーブルと万遍なく選ぶ。
産地と名前の説明を受けたが、何も頭に残っていない。

フロマージュを食べ終えピノ・ノワールを飲み終えると、最初のデセールが届く。
「タピオカ・ミルクみたい」と私。
「台北で食べたタピオカ・ミルクが美味しかったわね」と彼女。

メインのデセールは木の板に載せて出された。
フレンチの楽しみの一つは、デセール。
意匠を凝らした造形と、食べたときの美味しい驚きがたまらなく好きだ。

ミニャルディーズは、ちょっと変わっている。
「どこまで食べていいのですか?」
「籠と皿以外は食べることができます」
「この葉っぱも食用なのですね?」
「あ、それは残してください」
彼女に、「わかっていながらわざとそんなことを言うんだから」とたしなめられる。

食後のコーヒーを飲みながら、今夜の余韻を味わう。
「オーベルジュは本当に寛げるわね」
「お洒落した今夜の君は飛び切りに素敵だよ」
「ね、お腹がいっぱいだからまた温泉に浸かりましょうよ」
「食べ始めてもう4時間も経ってるね、そろそろ部屋に戻るとしよう」

今夜の食事には大満足。
ワインも美味しかった。
満ち足りた思いで、ダイニングルームをあとにする。

部屋のあるパヴィヨン・ミラドー前の噴水には照明が当てられている。
二階のホテルの部屋はどれも真っ暗。
今夜はレストランもホテルも温泉も全て、私たち二人の貸し切りなのだ。
箱根の『オーベルジュ・オー・ミラドー』で彼女と過ごす素敵な一日の続きは、また明日。