
『オーベルジュ・ド・ぷれざんす 桜井』を出ると、長谷寺に向かう。
彼女が長谷寺に行ったことが無いと言うので、奈良に戻る前に寄ることにしたのだ。
長谷寺は、西国三十三所観音霊場第八番札所。
紫陽花が美しいことでも有名。
そして丁度、ご本尊の重要文化財十一面観世音菩薩の特別拝観中である。

修復中の仁王門をくぐり、屋根が付いた長く緩い階段、登廊に至る。
一段の高さが低く勾配も緩やかなので、お年寄りも上りやすい。
はるか先まで真っすぐに伸びる造形が美しい。
この階段を登り切ると、右に折れ、更に左に折れて登廊が続く。

登廊の左右には石組みのひな壇が設けられ、大きな石灯籠が並べられている。
この階段を上るうちに心の雑念が払われ、清らかな霊に満たされていく。
と思ったが、十段ほど先を上る彼女の後ろ姿を見上げた途端、煩悩の淵に真っ逆さまに落ちてしまった。

ようやく山の中腹の本堂に辿り着く。
徳川三代将軍家光の寄進によって建立されたもので、国宝に指定されている。
中には本尊の十一面観世音菩薩が納められており、普段は外からお顔を拝むだけだが、特別拝観により本堂内に入り、御足を触って拝むことができた。

登廊を登り切ったところには、鐘楼がある。
下から見上げると、芸術的な木組みが美しい。
長い登廊を登り切り、肩で息をしている段階では、この鐘楼に気が付かない。
一息つき、本堂から目を巡らせて初めてこの存在に気が付くのだ。

本堂の中には内舞台が、そして外には外舞台がある。
外舞台は、清水の舞台を小さくしたような造りである。
外舞台から下を見下ろすと、山の中に御坊が点在しているのがわかる。

本堂から更に山を登ると、古いお堂に至った。
ここは本長谷寺(もとはせでら)で、天武天皇の勅願により道明上人が造営したものだそうだ。

その隣には色鮮やかな五重塔がある。
バランスの良いとても綺麗な塔だ。
調べてみると、昭和29年の建立で、「昭和の名塔」と言われているそうだ。

来た時とは別の道で山を下る。
鬱蒼と茂った大木の間に見えるのは、長い登廊。
登廊を登った先には、本堂の大屋根が見えている。

長谷寺を出ると、桜井市の旧市街、三輪に向かい、地元の造り酒屋を訪問。
三輪素麺で有名な三輪である。
訪れた酒蔵は、今西酒造。

今西酒造は、万治三年(1660年)創業。
醸す酒は、三諸杉(みむろすぎ)。
三諸(みむろ)とは、三輪を表す古い言葉なのだそうだ。

この奥に蔵があり、井戸から汲み上げる三輪山の伏流水で酒が仕込まれている。
時間があれば見学したいところだが、帰りを考えると無理のようだ。

彼女は、父親へのお土産に純米大吟醸を購入。
山田錦を50%まで磨きこんで醸した酒である。
私は、蔵人が自ら栽培した奈良の米、露葉風で醸された純米吟醸を購入。
そろそろ京都経由、東京に戻ることにしよう。
彼女と過ごす、USJと奈良への楽しい旅でした。