彼女に会食の予定が入っている夜。
一人で寂しく食事を済ませ、待ち合わせ場所に向かう。
何時ものように遅れてくるだろうと思いながら銀座八丁目のバー、『シェイク』のドアを開ける。
すると、オーナーの古田土さんと楽しげに話す彼女の声が耳に飛び込んできた。
「遅い、もう先にカクテルを頼んだわよ」
急いで時計を見ると、待ち合わせ時間にまだ1分ある。
でもそんな野暮なことは言わない。
「ごめん、銀座の灯りを楽しんで歩いてきたから時間がかかってしまった」
古田土さんに何を造ってもらったのかわからないが、綺麗なグリーンの液体が彼女の前に出される。
古田土さんのシェーカーを振る姿は、何度見ても美しく飽きない。
私も自分でシェーカーを振ることがあるが、古田土さんの振り方とは異なり、上下で細かく二回振っている。
私の前のカウンター上には、キープしてあるボトルが三本並べられている。
好きなアイラ・モルトと、スカイ・モルトである。
まずは、アイラ・モルトのポート・エレン、5thリリースを味わう。
57度以上もある、シングル・カスク。
アイラ島のポート・エレンは1821年設立。
その蒸留部門は、1983年に閉じてしまった。
残った樽のモルトを用いてボトリングされるこのリリース物は、ファン垂涎の希少品なのだ。
ポート・エレンのあとは、アイランズ・モルトの中でも個性が強い、スカイ島のタリスカー25年。
これもピートに混ざった海藻由来のヨード香が強烈なワイスキーである。
彼女と過ごす銀座の夜は楽しい。
今夜も『シェイク』の夜は素敵に更けていきました。