ノースカロライナの州都、シャーロットの郊外に、ヒルトン・アット・ユニバーシティ・プレイスというホテルがある。
その前に広がる人造湖の対岸に、一軒のレストランがあった。
メイン料理はもちろんビーフ・ステーキ。
日本人が珍しかったのか、店のオーナーがテーブルに来てくれた。
メイン料理に合わせる赤ワインについて聞かれると、迷うことなくオーパス・ワンと答えた。
その頃は、日本でもボルドー中心に飲んでいたので、アメリカでも常にオーパス・ワンを注文していたのだ。
ところが、オーナーは少しうんざりした表情をすると、ついてくるように言って歩き始めた。
何事かと思って急いで後を追うと、オーナーは壁に埋め込まれた鉄の扉を開け、地下に通じる階段に私を案内した。
その先には地下セラーがあり、大量のワインが眠っていた。
オーナーが選んだワインは、ローゼンブルム、ジンファンデル・サンフランシスコベイだった。(写真は新ラベル、当時は畑の絵が大きな黄土色のエチケット。)
それまで私は、ジンファンデルと言えば気軽に飲める安いワインとのイメージを持っていた。
ところが、ローゼンブルムはぶどうの果実味がギュッと詰まった、モンスターだった。
それ以来、ローゼンブルムは私のお気に入りの一本となった。
Dr.ケント・ローゼンブルム、ミネソタ大学獣医学部を卒業した獣医は、キング・オブ・ジンファンデルと呼ばれ、またジンファンデルの3Rと称されるようになった。
3Rとは、素晴らしいジンファンデルを生産する、名前がRから始まる三つのワイナリー、レーヴェンス・ウッド、リッジ、そしてローゼンブルム。
それでもケント・ローゼンブルムは、今も動物病院を経営している現役の獣医さんなのだ。
ローゼンブルムを飲みたくなると、『ジ・オレゴン・バー・アンド・グリル』(汐留)に行く。
そこには複数のローゼンブルム・ジンファンデルが常備されており、何時でも楽しむことができる。
特に、ロックパイル・ロード・ヴィンヤードは素晴らしい出来だ。
ところで、ジンファンデルはカリフォルニアの土着品種だと思われていた。
今では研究が進み、ジンファンデルは1824年にドイツ地方からニューイングランドに持ち込まれ、それがカリフォルニアに定着したとの記録が見つかっている。
また、遺伝子調査で、イタリア、プーリア州のプリミティーヴォと同一品種であることが判明しているが、プリミティーヴォの最初の記録は1870年であり、ジンファンデルより新しい。
更に近年、クロアチアの土着品種、プラヴァック・マリが、ジンファンデルと近親関係にあることがわかったそうだ。
この辺りにジンファンデルのルーツがあるのかもしれず、今後の研究の成果が楽しみだ。
ジンファンデルは、ブラッシュと呼ばれるピンクのホワイト・ジンファンデルから、軽い飲み口のワイン、そしてローゼンブルムに代表される素晴らしい重厚なワインに至るまで、多様な楽しみ方があるぶどうである。
獣医さんが造る、ローゼンブルム、貴方もお気に入りに加えてみませんか?
なお、私の彼女は、アルコール度数が強すぎる(15%程度)と言って、あまり好んで飲もうとはしません・・・。