彼女と一緒に、友人を招いてワイン・パーティを開くこととした。
各人が好きなワインを一本ずつ持ち寄る、飲み較べの会である。
男女4組の、計8人の会だ。
今夜の会場は、恵比寿のウェスティン東京のスイート・ルーム。
私の好きなホテルだ。
ワイン・パーティをホテルの部屋で開くと、ワイン・グラスもシャンパーニュ用、白用、赤用を必要なだけ準備してもらえ、ワイン・クーラーにも氷にも不自由しない。
食事も、前菜、パスタ、メインをその都度注文すれば、適温の料理を食べることができる。
ところで、ホストとしてどんなワインを準備するかは悩ましいところだ。
私と彼女の担当は、スパークリングと赤ワイン。
赤は、サン・ポリーノ、ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ、2001年を選んだ。
有機栽培で造られたワインであり、イタリアでも最高賞を受賞したグレート・ワインである。
この選択に異を唱える参加者はいないはずだ。
しかし、シャンパーニュの選択には悩んでしまう。
いくらプレステージ・キュヴェでも、メジャーなシャンパーニュでは面白くない。
彼女の尊敬を勝ち取り、四組の参加者の中で、私の同伴者であることを誇りに思うような選択をしなければならない。
そこで選んだのが、アルフレッド・グラシアン、キュヴェ・パラディ、ブリュットである。
キュヴェ・パラディはノン・ヴィンテージであるが、基本的には単一ヴィンテージのぶどうを用いている。
セパージュは、シャルドネ 65%、ピノ・ノワール 18%、ピノ・ムニエ 17%。
大手メーカーでは一次発酵をステンレス・タンクで行っている。
一次発酵を樽で行っているのは、今やアルフレッド・グラシアンとボランジェくらいと言われている。
ルミアージュも手で行うなど、伝統的な造り方を踏襲しているのだ。
フランスの三つ星レストランでは、必ずワイン・リストに収録されているという隠れた大物であるが、日本ではマイナーな、そして入手困難なシャンパーニュである。
彼女は、私がアルフレッド・グラシアンをテーブルに置いたときに、小さく驚きの声をあげ、誇らしげに私を見上げた。
他のメンバー6人が到着する前に、シャンパーニュ・グラス、白ワイン・グラス、赤ワイン・グラスがそれぞれ8個揃っているか確認する。
ワイン・クーラーも、花も届いている。
部屋の確認を終え、彼女を見ると、手持無沙汰な様子。
集合時間までには、まだ少しある。
彼女をやさしく抱きしめると、どんなシャンパーニュもどんなブルネッロも及ばない、素敵な彼女の香りを心行くまで味わった。