「カルマ/ムック」レビュー | brilliant-memoriesのブログ

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お疲れ様です。今回はムックの10thシングル「カルマ」のレビューしようと思います。メンバー、ファン共に「問題作」として語り継がれるこのアルバム、「このアルバムを最初に勧めるファンは信用しない方がいい」と語る人がいるほどの超・賛否両論を引き起こした事で有名となっております。先行シングル「フォーリングダウン」ではデジタルアレンジを施し、リズム隊を打ち込みにするという一線を越えたチャレンジをしたムック。果たしてどんな世界がひろがっているのでしょうか?

 

アルバム「カルマ」のポイント

 

・「MUCC最大の問題作」ということで、アルバムの前半は打ち込みを使ったデジタルな世界観を展開、確かに前回とは作風とは全く違う方向性で攻めてくるので、これは困惑した人が多そうです。ミヤがDJをやっていて学んだことを音楽に注いだとのことで、デジタルを使ったいろいろなアプローチを楽しめます。志恩の頃は、まだチャレンジした音楽性のひとつであったデジタルさをここまで構築してしまったのはシンプルに凄いなと思いました。中間のインスト「業」を挟んで、その後はいつも通り幅広い音楽性にチャレンジした楽曲達が続きます。

 

・そして、このアルバムのもうひとつのポイントとして触れないといけないのが、達瑯の作曲家としての大覚醒。これまではアルバムの中でも1曲のみの提供が多かった達瑯の楽曲ですが、今作ではシングルの「約束」を始めとした4曲が採用されており、アルバムのおよそ3分の1を占めます。提供した楽曲も今作の作風に沿った電子ロック、バラード、ジャズ、ポップと幅広いのが特徴ですね。

 

それでは参りましょう。

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青→シングル曲 黒→アルバム曲)

 

1.「Chemical Parade」(作曲:ミヤ)

 

インスト。前半戦スタートを告げるのは、ファッションショーが始まりそうなデジタル全開のダンスミュージック。志恩の頃に比べると、かなりレベルアップしたデジタルワールドを楽しめるのが特徴です。

 

2.「フォーリングダウン Organic Edition」(作詞:ミヤ 作曲:ミヤ)

 

24thシングル。先程も書いたように、SPACE WALKERSとのリミックス音源をシングルカットしたため、リズム隊が打ち込みという、ある意味一線を越えてしまったシングルですが、アルバムに収録するにあたり、YUKKEとSATOちが奏でる生音に変更されました。こちらがオリジナルバージョンということでシングル版とはかなり異なるアレンジとなっています。

 

楽曲はデジタルディスコサウンド。ベースがスラップをかましたり、ドラムが迫力のある音を奏でたりと生音でしかできないことを強調していて、思いっ切りシングルとの差別化を図ろうとしています。特に2番の間奏の2ビートになる部分はMUCCならではの荒々しいサウンドを楽しむことができるのでMUCCが好きな方はこちらのバージョンの方が好きという方の方が多いでしょう。

 

タイトルの訳が「堕落」ということ、デジタルな用語がとことん織り込まれていることで、これまた様々な考察ができそうな歌詞ですが、現実世界で生きることが辛くなり勿論恋人もいないため、2次元のキャラクターに深く深く依存するというシンプルな物です。この曲が世に放たれた2010年当時は、丁度サブカルチャーが浸透して、アニメ、ボカロがニコニコと共に流行り始めた時期という時代背景を踏まえての考察でした。あれから時は流れ現在では”推し活”という用語が生まれる程にオタク文化が日本を象徴する時代になったので、2024年現在にも通じる楽曲ですね。

 

3.「零式」(作詞:達瑯 作曲:達瑯)

 

前曲から間髪入れずにイン。達瑯が今作のコンセプトを踏まえて生みだしたということで、バンドサウンドにデジタルが入り乱れたカッコいいデジロックナンバーとなっております。ボーカルのエフェクター加工、ギターのエフェクトを駆使した変幻自在な音色が煌めきますね。ドラムは完全にデジタルですが、これは生音を加工しているのか全部打ち込みにしてしまったのか、どちらにも取れる音色のため気になります。メロディラインは、サビよりもAメロの「無~いやいやい」の部分、ここがなによりも耳に残ります。

 

歌詞にもバーチャルな単語が飛び交っている状態となっていて、”君”に依存する主人公が映るのですが、タイトルの「零」や、歌詞に出てくる「ポイズンウェーブ」「孤独の眠り姫」「壮大なゲーム」という単語から、主人公は2次元のキャラクターへ堕ちているという考察ができます。

 

4.「ケミカルパレードブルーデイ」(作詞:ミヤ 作曲:ミヤ)

 

デジタルはデジタルでも、この楽曲はEDMの要素が1番濃いかなという感じで、ミヤのDJとしての編曲が光りますね。スリリングなストリングスとシンセや打ち込みが混ざり合って生まれる電子的で都会的な世界観、それに負けじと激しく音を奏でるバンドサウンドのぶつかり合いに酔いしれることができます。逹瑯のボーカルにもエフェクトがかかっている部分があり(特にハモリパート)、彩りを添えていますね。嵐の「Trust」やセカオワの「ドラゲナイ」「Error」辺りが好きな方は絶対ハマるナンバーですよ。

 

歌詞はクラブで生まれる一夜限りの男女の関係を描いていると推測できます。ミヤがDJやっている際にフロアで踊り狂う人達を観て思っていたことでしょうか?

 

5.「A.」(作詞:達瑯 作曲:達瑯)

 

ここで、達瑯のミディアムバラードナンバーが登場。前半戦の中で唯一、デジタル要素がほぼ皆無で、バンドサウンド中心の楽曲となっています。明るいハズなのにどこか曇った感覚も漂うこの世界観、アコースティックギターと曇った音色を施したクリーンギターの音色がかなり良いです。僅かなながらに使われた打ち込みも温かさをイメージした音色になっており、楽曲の世界に彩りを添えておりますね。

 

歌詞は夢と恋をどちらかを捨てないといけない中で、夢を選択してしまったその後のストーリー、結局、主人公の夢は叶うことは無く、夢と残骸と失ってしまった恋に多少後悔しながらもラストは前向きに歩いて行く姿が映ります。

 

6.「アイアムコンピュータ」(作詞:ミヤ 作曲:ミヤ)

 

前半戦のフィナーレを飾るこの曲も今作のコンセプトに則ったデジタルナンバーですが、今回はバンドサウンドを中心としたアナログな制作をしているようです。リフ以外にもエフェクターを駆使して様々な音色を作り出しシンセのようなフレーズを奏でるギター達が注目ポイントでしょう、この世界の核を築き上げています。そのギターをより輝かせるためにずっしりと支えるリズム隊の四つ打ちリズムも生音じゃないと出せない迫力がありますよね。更にそのバンドサウンドにいかにもユーロ感のあるシンセがスパイスとして加わることで、今度はユーロビート感が強いダンスミュージックが完成しました。

 

タイトルはレディオヘッドのアルバムの「OKコンピューター」からつけられています。この世界に憧れた無機質なコンピュータに心が宿るというファンタジアなストーリーを展開、しかしながら「01」だけのこの現実の冷酷な様を見て、所々が壊れていきラストはサイバー大暴走を始める一歩手前の部分でこの楽曲は終了します。どことなく「2000年問題」やサザンの1997年の楽曲「01MESSENGER」を彷彿とさせますね。

 

あれから14年、時は流れ完全にインターネット社会となった現代、改めてボーカロイドやVtuberにこの曲をカバーさせたら、この楽曲がより生々しく化けると思うのです。アルバム曲故に一般的な知名度は少ないですが、是非カバーして欲しい楽曲ですね。

 

7.「業」(作曲:ミヤ)

 

タイトルは「カルマ」、インストですが、デジタル全開な前半戦から後半戦の始まりを告げる重要な楽曲です。全編打ち込みのデジタルな世界観ですが、コンピューターの中にいるのか近未来なのか、なにかと耳に残る音色が使われていて素敵です。なんとなく、スペースマウンテンに流れていそうな感覚がします。

 

8.「堕落」(作詞:達瑯 作曲:達瑯)

 

前半戦と後半戦で展開がガラリと変わるこのアルバム。インストを挟み、後半戦最初の楽曲が「フォーリングダウン」の日本語訳であるこのタイトルなのは達瑯が狙って付けたのかたまたま同じになってしまったのか、気になるところです。

 

さて、楽曲ですが、まさかの本格ジャズナンバー、しかもほぼ全英詞というなにもかもが新しい楽曲です。富樫先生が奏でるピアノの音色を中心としたもの凄くお洒落なサウンドを楽しむことができます。達瑯が英語を歌うというのもコレまで無かったので本当に新鮮で、低音から高音まで駆使して歌います。あんなにデジタルにまみれた世界を堪能した直後に、何もかもが新しいにまみれたこの曲が飛び出してくると言う驚きと音楽性の広さに、ただただ驚くばかりです。

 

この深く酔いしれる世界観に似合うのは勿論ラブソング、愛しい恋人に愛を捧げ求め続ける主人公が映ります。

 

9.「サーカス」(作詞:ミヤ 作曲:SATOち)

 

SATOち作曲。エネルギッシュなファンクナンバーです。ここに来て、やっとMUCCらしいナンバーがでてきた印象です。まさにサーカスの舞台のようなファンタステックさに、どこかロマンティックさも感じる世界観、それを上手く演出しているのが、生のブラス隊が奏でる音が彩る音色なんですよね。地味に両チャンネルから攻めてくるワウギターを活かしたギターの音色も好きです。

 

歌詞は、このくだらない現実世界に疲弊する主人公をファンタジーな世界へ連れ出す支配人視点で展開、「レ・ミゼラブル」や「シンデレラ」といったファンタジアなワードも登場し、振り切っております。楽曲の世界観ともピッタリなんですよね、「毛糸のカービィ」のランプキン戦を思い出しました。

 

 

10.「ポラリス」(作詞:達瑯 作曲:YUKKE)

 

YUKKE作曲。かつて「雨のオーケストラ」や「小さな窓」で追求してきたオーケストラとの融合ですが、遂にそれが完成した楽曲と言っても良いでしょう。今回はストリングス以外にも木管楽器が参加しており、バンドサウンドと交わることで深い森林にいるような神秘な世界観が壮大に構築されていきます。メロディラインは歌謡観が強くしっかりとメロディアスになっており、相性バッチリですね。

 

タイトルのポラリスは北極星を意味する言葉、星空を舞台とした男女2人のストーリーが展開していきます。最初のAメロでは言えなかった「愛してる」が最後の最後のアウトロで再び訪れるAメロで遂に言えたという部分がかなりエモくないですか!!、これは「雨のオーケストラ」の歌詞にも使われていたパターンなのですが、序盤に置いた伏線をラストで回収するという達瑯の小説のようなリリックの書き方が素敵ですよね。

 

11.「ライオン」(作詞:ミヤ 作曲:ミヤ)

 

前作「球体」から引き継いだ荒々しいサウンドを堪能できる楽曲、今作の中ではかなり珍しいMUCCのらしいナンバーです。重厚なリフ、デス気味の歌い方、サビの男臭い雄叫び、主張の強いギターソロ、完全に「全てが待っていました!」と聴き手の心境を読み取ったような登場、完全に読まれてます(笑)。ライブでも盛り上がること間違いなしです。

 

歌詞は夢から堕落した人間が空へ向かって叫ぶシチュエーションとなっており、おそらく「ライオンは子供を崖から落として這い上がってきた子供を家族にする」という習性から取ったと思われます。楽曲との相性がバッチリですね。

 

12.「羽」(作詞:ミヤ 作曲:ミヤ)

 

冨樫先生のピアノとバンドサウンドのみで構成されたバラード。アコースティックな哀愁とバンドサウンドで表現する哀愁、2つの展開が続くことにより切なさ倍増、まるで卒業する時の切なさそのものです。

 

歌詞は恋人を探している主人公がバスに揺られて夜の闇へ消えていくのですが、主人公はこの後自殺することをほのめかすような終わり方をするのが印象的です。恋人がいなくなってしまった詳しい理由が書かれていないのが考察を奥深くしますが、「主人公を捨てていなくなってしまった」説よりも、「恋人と死別してしまって現実を受け入れられない主人公が旅立つために最後の場所へ向かうまでのお話」という説を推しています。

 

13.「約束 Original Lyric ver.」(作詞:達瑯 作曲:達瑯)

 

24thシングル。アニメ「閃光のナイトレイド」にOPにも起用されました。これは最初から完全に耳に残るメロディラインですよね!、始まりから見事に聴き手を掴みに来てます。サビ以外のメロディラインもかなりキャッチーなので、かなり馴染みやすいです。バンドサウンドにストリングスが彩りを添えるポップロックナンバーとなっており、サビでは4つ打ちダンスビート、終盤では転調してクライマックスへ向けて突き進むというJ-POPの特徴的な部分を色濃く出した楽曲です。改めて、今回の4曲を聴いてみて達瑯の作曲家としての覚醒っぷりが半端ないですね。

 

歌詞は強い関係があった大切な相手と離ればなれになってしまうという内容で、離ればなれになってしまうけど前向きに歩いて行こうとする勇ましい姿が映ります。どうやら達瑯が飼っていた大好きな猫が亡くなってしまったことも歌詞に込められているとのことです。オリジナルリリックバージョンということで、「僕が」から「僕等」に変更されました。

 

14.「フリージア Karuma Edit」(作詞:達瑯 作曲:ミヤ)

 

23rdシングル。kenちゃんプロデュース。バンドサウンドと共に交わるデジタル要素、重厚なシンセパッド、ストリングスに包まれたシリアスな雰囲気が支配するアドベンチャーゲームのエンディングのような壮大なバラードとなっております。広く展開してきた世界をBメロで1度ヒップホップ調にして切り替えて、サビで再び壮大に花開くという展開が注目ポイントですね。終盤には、kenちゃんのアイデアによって、1分以上にも及ぶミヤのギターソロが待ち受けており、かなりテクニカルなソロを堪能することができます。kenちゃんとミヤのインタビューにてkenちゃんが「100回聴いたら100回鳥肌が立つ」と発言していたのが印象的でした。

 

タイトルのフリージアは花の名前で、花言葉は「親愛の情」「友情」「感謝」などがあるようです。社会に染まり、歌詞の中にも出てくるように恋を始めとした様々な物を失ってしまう行く中で、自分の自我だけは失わないようにと歩いて行く姿が描かれています。

 

 

かつて志恩のレビューにて、このアルバムに軽く触れた際、「まだ見ぬ世界に果敢に攻める姿勢を貫く姿は中期ムックの強みですが、それが果てしないところまで言ってしまった作品」とレビューしましたが、概ね間違って無かったですね。いつものMUCCらしさをほぼ捨てて、前半のデジタルワールド、後半1発目が超本格ジャズナンバー、「ポラリス」において遂に完成されたオーケストラ...これらが1つのアルバムで起きているこという事実に、とんでもないチャレンジ精神を感じることが出来ました。

 

また、前半のデジタルワールドにおいても、ただデジタルとの融合を図った訳では無く、「ディスコ」「デジロック」「EDM」「ユーロビート」といったデジタルというワードで括られる中でも、実は1曲1曲で様々なジャンルに挑戦していたということを強調したいです。機会があれば前半戦の楽曲のジャンルに注目して聞いてみてください。ここで見事にデジタルを武器にできたからこそ、そして行きすぎたからこそ、これからの楽曲にも良い感じにデジタル要素を加えることができたのかもしれませんね。

 

やはりMUCCらしいナンバーが皆無だったこと、そして「実験音楽」を強調しすぎた故に、問題作という角印を押されてしまったアルバムですが、現在のMUCCのデジタルな音楽性を完成させたアルバムでもありました。「良くも悪くも」MUCCの歴史を語るに於いて欠かせないアルバムとなりましたね。

 

次回は「アルバム未収録曲をレビュー①(2001~2010)」のレビューとなります。今回もありがとうございました!