「鵬翼/ムック」レビュー | brilliant-memoriesのブログ

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ドエルさんでもあり、V系好きのギャ男でもあり、60〜00年代の音楽好きでもある私がお送りするこのブログ。アルバムレビューや自作曲の発表、日常、ブログなどいろんなことをします!

「大学に自分が凄く尊敬している教授がいるのですが、最近、自分のこれまでにレビューを読み返した際に文章の綴り方が授の話し方に似てきていることに気がついてしまった自分です。特に変えるつもりはありません。」

 

今作から中期ムックが始まります。先行発売されたシングルの3作から、既に大きな変化を感じたこのアルバムは「原点回帰」テーマに制作され、これまでのアルバムと比べると大きな変化が生まれているとのことです。果たしてどの様な世界がひろがっているのでしょうか!

 

アルバム「鵬翼」のポイント

 

・今作は「原点回帰」を掲げたため、初期ムックからの武器でもあるフォークや歌謡曲を更に追求した優しさとレトロさが溢れる音楽が中心となっています。また、これまでの荒々しさや激しいサウンドのエキスも上手いこと組み込み、改めてこれからのムック独特の世界観を構築しようとしている感じがしますね。真の意味でムック初心者向けのアルバムだと思います。

 

・今作から本格的に負の世界から輝く世界へ引っ越しを試みているように感じます。前回の圧倒的名作「朽木の灯」を経て、次に何をするべきかを考え、メジャーシーンを意識した故の決断なのでしょう。180度までは行かないものの、ここまで方向性を変更にはファンも賛否両論だったのではと、特に初期ムックのあの負の世界を精神安定剤として生活してきたファンには...。ですが、前作の完成されてしまった「朽木の灯」を越える絶望度を生み出すとなると、特に作詞を手掛けてきたミヤと逹瑯にかかる負の重圧は半端ないです。それこそ、最悪な事態になってしまってもおかしくありません。そうならない為にも、初期ムックの世界は「朽木の灯」で完結、今作以降は心機一転、「原点回帰」という選択をしたのでしょう。

 

・しかしながら、今作に於いてムックから完全に負が消えたかといわれたら、そうは行きませんでした。確かに70%弱の負は消えていますが、30%の負は残っており、その爪痕は今作の一部楽曲でも見られます。しかし、これまでに見られなかったシチュエーションの歌詞を増やしたり、1枚のアルバムの中でも収録するYUKKE・SATOちの楽曲を増やしたりしてバラエティさを強調したりとこれまでの最大の武器であった負の要素を強調しないようになったのが、かなりの変化だと思いました。

 

それではいってみましょう。

 

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(青→シングル曲 黒→アルバム曲)

 

1.「輝く世界」(作詞:逹瑯 作曲:ミヤ)

 

初期ムックを終えて、1stアルバムから一貫されていた、1曲目はインストというジンクスもここで崩れました。が、1曲目はまさかの初期ムックを延長線上にあるような世界観、ミディアムロックでズッシリと来る楽曲です。ただし、歌詞は負の世界から輝きの世界へ向けて歩き出す自分たちに映る場景、そして、この手の歌詞を書くならば、「人生のリタイア」を促していた彼らが、もがきながらも生きていこうとする決心を綴っているあたりがかなり大きな変化だと思うのですよね。

 

2.「サル」(作詞:ミヤ 作曲:ミヤ)

 

重苦しい世界観をそのままに2曲目へ、疾走感のあるハードロックナンバーが現れました。楽曲の荒々しさは勿論、ミヤの作詞のキレ味も健在ですね。そんな歌詞は、夢も何もなく社会の歯車として無気力に生活するサルの群れに紛れてしまった自分の好きな人に対して必死に呼び戻そうと奮闘する主人公が描かれています。

 

3.「赤線」(作詞:ミヤ 作曲:ミヤ)

 

1曲目、2曲目と続いてきて、僅かながらにムックの中に残っている負の感情がついに大暴走!!、前作を終え、かなり絶望度数がかなり抜けたように思えましたが、残ったこの絶望度数でも、ここまでの暗黒さを生み出せてしまう事、流石は負の世界出身のバンドという感じがします。ザクザクと刻むギターリフと不安定なコード進行、ハードなサウンドで疾走し、中盤にはセリフまで入るこれぞV系なダークロックナンバー。そこに漂う歌謡曲さ全開のメロもかなり絶妙で、摩擦と爽快感で二重に気持ちよさを感じます。

 

歌詞には、夜の東京にて、十分な愛を得られず、深い孤独感に囚われ、リストカットをしてしまう少年少女をテーマにした歌詞が特徴です。近年、トー横界隈、歌舞伎町近辺の話題をよく目にしますが、(憧れてとかは論外として)少年少女がここに集まるのには深い理由があります。もちろん、このアルバムが世に出た時はトー横なんて存在しません、しかしながら、今聴くと真っ先に此処にいる少年少女を連想してしまうのです。

 

冗談抜きでトー横キッズに届いて欲しい、ぶっちゃけた話、2005年当時よりも2024年現在の方が突き刺りるこの楽曲、改めて歌詞のテーマに考えさせられます。

 

4.「最終列車」(作詞:逹瑯 作曲:ミヤ)

 

11thシングル。イントロからズッシリくるので、ヘヴィな楽曲が来るかと思いきや、これまた懐かしさを感じるギタフレーズが現れ、一転してお得意な歌謡曲の世界観へ様変わり。ヘードさ、フォークさ、歌謡曲さのムックの持ち味が、見事なまでに混ざり合った絶妙な楽曲です。サビの列車が加速するようなバンドサウンドの疾走感に、シンセやアコギ、クリーンギターの音色が彩りを添え、夜を演出している部分が注目ポイントです。歌詞は恋人と共依存関係だった主人公が、最終列車に乗って彼女の元から離れていく様が映ります。「何かを見失ってしまった」としか書かれていないため、何故このような決心をしたのかハッキリと分からない部分が気になりますが、おそらく一定のラインを引いていたしっかりとした主人公なのでしょう。次の日の朝、目覚めた彼女がバグらなければいいですが...。

 

5.「1R」(作詞:逹瑯 作曲:SATOち)

 

前向きで明るい世界観が特徴のSATOち曲ですが、今回はしっとりとした歌謡曲を作曲。特に派手な技も入れずに、黙々と世界観を演出する楽器陣、そこに乗る歌詞と共に漂う哀愁がクセになりますよね。そんな歌詞ですが、なんと「九日」以来となる大マジ女性目線。タイトルの「1R」はワンルームのことですね。恋人が居なくなってしまった女性がワンルームの中で虚無観と悲しみに暮れる姿が映ります。この位置にこの曲を配置したのが絶妙ですよね。「最終列車」の続編とも取れるし、別の元カップルとも取れます。でも、これが「最終列車」の続編とするならば、あんなに共依存していたのに、あまりにも冷静すぎじゃないかなって感じも。

 

6.「昔子供だった人達へ」(作詞:逹瑯 作曲:SATOち)

 

前曲とは一転して、これぞSATOちの楽曲と思わせてくれる明るい世界観。この爽快感、青春パンクの香りも感じますよね。しかし、歌詞には今は失ってしまった子供の時の純粋な心、思い出が綴られており、年を取っていくにつれ、なくしてしまう感情、更には大人になって社会の歯車としてやつれながらも日々を乗り越えようとする自分も現れ、大人になった自分に対して問いかけるというシーンも登場するという、ストレートさ故に考えさせられる深い歌詞となっています。

 

確かに思っていたもんね、「あの頃の自分は何にでもなれた」って。

 

そして、大学3年生の自分、もう就活が始まろうとしている時期で、就職関連の講座やイベントにも積極的に参加する予定です。でも「夢」も「やりたいこと」も何もない自分はどうすればいいんだろう、最近そんなことを考える日が増えてきたように感じます。

 

この曲に出会えて少し気分が楽になりました、明日からも頑張れる気がするよ、きっと。

 

7.「鳶」(作詞:ミヤ 作曲:逹瑯・ミヤ)

 

逹瑯とミヤが共作した楽曲。全体的にはロック色が強めですが、フォーキーなハーモニカが現れたり、ファンキーなスラップが出てきたりと、かなり見所が多い楽曲となっています。タイトルの「鳶」はトビ、一種の鳥の名前です。歌詞には、要所要所に今の日常にも見られる光景が綴られてリアリティを高めつつも、核は「すりこまれた日常など笑い飛ばせ」の部分。どんな境遇でも、自分なりに自分のなりの道を飛んで行けという応援歌となっています。

 

8.「雨のオーケストラ」(作詞:逹瑯 作曲:YUKKE)

 

10thシングル。前回の「モノクロの景色」はミヤとの共作でしたが、今回はYUKKE単独で作曲した楽曲がシングルに採用されました。いかにもYUKKEの曲だと感じさせる歌謡曲観を下地に、叩きつける大雨を連想させるような荒々しいバンドサウンド、そしてこれまで以上に哀愁感を演出するために、生のストリングスの音色を採用したりと新たなチャレンジをしているのが印象的です。Aメロとサビの展開が同じであるという特徴も上手く使い、メロディラインも出だしからスッと入ってくるのも見逃せませんね。洗練されたバンドの音楽性を強調しつつも、新たなチャレンジを行ったこのシングル。個人的にムックの大きなターニングポイントとなった楽曲だと思っています。

 

歌詞は失恋がきっかけで出て行った元カノと主人公のストーリーを展開。外に降る雨と主人公の後悔を雨に例えた2つの雨が交わる表現が叙情的だなという感じがします。サビの「罪人行き交う街の中で」部分、別れの決定打となった「僕が君についた嘘」と重ね合わせ、自分と似たような汚い人間の群れの中で、余りに綺麗すぎた彼女を未練のままに探しているシーンをここまで想像させてくれるのが深いです。ラスサビでは「君を見つけられる」が「見つけられた」となっており、遂に元カノを見つけることができたのですが、そこにいたのは大人になってしまった別人な元カノ。それを知ってしまった主人公は記憶の中にあの頃の元カノを映しながら歩いて行くという解釈をしました。1つの小説を読んでいるみたいな気分になります。

 

もうすぐ梅雨時期です、この曲が似合う季節がやってきます。

 

9.「こもれび」(作詞:ミヤ 作曲:ミヤ)

 

Aメロでは漂う哀愁感がクセになり、ガラリと一転するサビの突き抜け具合は青春パンクを連想させるナンバーです。1番の中に「陰→陽」という明確なストーリー展開が起きているという部分が面白いですね。歌詞も突然に訪れた絶望から立ち直ろうと奮闘する主人公を、初夏と夕立に例えて展開。同じような状況の人に対して「背中を押す」リリックとなっています。

 

これまでは絶望した人の痛みに「寄り添った」リリックが多い印象でしたが、前作の「名も無き夢」も同様、痛みから立ち直ろうとする人へ「背中を押す」リリックは、ムックの歴史から考えても、かなり新鮮に感じるものです。

 

まさにこれからのムックの姿を提示したような楽曲でした。

 

10.「蜘蛛」(作詞:ミヤ 作曲:ミヤ)

 

イントロのギターのクサメロ全開な感じが、ほんっとうに久しぶり。まさに「原点回帰」というコンセプトが強く見える歌謡メタルが登場です。3拍子と4拍子の展開が入り乱れた複雑さもいいですね。サウンドは荒々しさがあるものの、それよりも要所要所に香る歌謡感が勝ります。歌詞はムックのこれからへ向けての決心が綴られていて、そこには初期ムックとの決別も綴られている気がします。

 

11.「モンスター」(作詞:逹瑯 作曲:YUKKE・ミヤ)

 

ここでヘヴィなサウンドが炸裂する楽曲キター!!、歪ませたギターベースのユニゾン、ハウるギター、荒々しさが生み出す迫力、禍々しい世界観ですが、「是空」「朽木の灯」みたいな脳天が抉られるような音圧が無く、あえて”抑えている”感じするのは、今作のコンセプト「原点回帰」に寄せた故の決断なのでしょう。サビの開いていく感じは、YUKKEの曲に現れる大きな特徴でもありますね。歌詞も人間そのものに対しての皮肉であり、まさに残った負の感情が大暴走、ここぞとばかりにダークに攻める姿がいいですね。

 

12.「優しい記憶」(作詞:逹瑯 作曲:ミヤ)

 

大暴走のあとに待ち受けていたのは、まさにタイトルのような、アコースティックとロックが共存した心地よい冬をテーマにしたバラード。アコースティックギターとエレキギターの絡み合いが粉雪の様に煌めき、リズム隊はゆっくりズッシリと世界観を演出していますね。

 

歌詞は失恋がテーマとなっていて、思い出してしまうあの夏の記憶を必死に忘れようともがく主人公が映ります。

 

13.「ココロノナイマチ ~Album Mix~」(作詞:逹瑯 作曲:ミヤ)

 

9thシングルのアルバムバージョン、再録されております。バンドサウンドを中心に明るくロックに展開していきますが、メロディーラインやエンディングのベースソロに溢れ出す哀愁さ、更にはフォーキーさ溢れるハーモニカも登場するという、ムックが得意としている音楽性をとことん強調しており、「原点回帰」というアルバムコンセプトにもピッタリハマった楽曲ですよね。

 

この曲の歌詞も、嫌な事しか起きないこの街で、いろいろなものを失ってしまったけど、それでも少しだけ笑ってみようよという背中をそっと押してくれるような応援歌となっております。

 

14.「つばさ」(作詞:逹瑯 作曲:ミヤ)

 

歴代のムックのアルバムのラストはトドメの一撃と言わんばかりの超絶に重い楽曲に毎回殺されたのが初期ムックのアルバムの特徴だったのですが、今回は中期ムックに入って最初のアルバムという事でどんな楽曲がトリを飾るのか、正体は王道のバラードでした。王道のバラードとサラッと書いていますが、ムックだとこれがどれだけ異例のことなのか分かりますよね。

 

ゆっくりとバンドサウンドが進行していく中で、包み込む様な優しいバンドサウンドと漂う懐かしさ、そして終盤ではメンバー全員の合唱に懐かしの合唱曲「翼をください」を思い出した人も多いと思います。

 

「傷だらけの詩を今翼に変えてゆけ」や「意味のない日々なんてきっと無いんだ」と聴き手を励ます様な歌詞がいいですよね。負の世界から引っ越しを試みて、僅かに残る負に葛藤しながらも前向きに生きようとする楽曲達が並んだアルバムの最後にこの曲は今後のムックの音楽性を決定づけた、まさにそ瞬間だと思いました。

 

「原点回帰」を掲げ、かなり大きな路線変更をした中期ムックのアルバム、いかがでしたでしょうか。たまにムックはこのアルバムから"ガラリと"明るくなったという意見を見ますが、実際は明るくなろうとしつつも、まだ自分達の負を払拭しきれてない部分があって、試行錯誤を重ねて、このアルバムと次回作「6」を通じて、今のMUCCになっていったんだなという感じが個人的にしました。サウンド面もキーボードや生のストリングスといったバンドサウンド以外の音が彩りを添えたりと大きな変化が見られたのが印象的でしたね。

 

さて、次回はミニアルバム「6」のアルバムレビューです。今回もありがとうございました!!