「皆様、明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。先日成人式がありました。いろいろあったはずなのに、括ってしまうと20年ってあっという間なんだなと思いながら、懐かしの友人達と再会しました。ダイエットして、変わり果てた私の姿にみんなビックリしてました。」
さて、新年1回目。レビューするアーティストは決めておりました。「X」(現 X JAPAN)です。後のビジュアル系バンドにも、そして「V系」という言葉が存在しなかった当時の音楽シーンに大きな影響を与えたまさに時代を創ったアーティストだと思っております。勿論。私は当時生まれていなかった為、当時をこの眼で観たことはありませんが、だからこそ、調べていけば行くほどワクワクが止まらないです。今回は1988年に発売されたXの唯一のインディーズ時代のアルバム「VANISHING VISION」をレビューしていこうと思います。
アルバム「VANISHING VISION」のポイント
・YOSHIKI様がインタビューにて、「1音1音に思い入れがある」「最初で最後の、音楽だけに真正面から向き合ったアルバム」と答えていたように、全曲通して隙が無く作り込まれているのが特徴です。諸刃のようなキレッキレの楽曲が連発して、常に攻めの姿勢を忘れない。インディーズ時代ならではの尖り具合も音楽を通じて分かりますね。
・全体的に「葛藤」をテーマにしたリリックが多いです。「葛藤」というは心身に様々な影響を与え、扱い方次第ではハッピーエンドにもバッドエンドにもなります。このアルバムはその「葛藤」が降りかかる複数に人々にスポットを当て、それぞれのドラマが映っているという印象です。
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(青→シングル曲 黒→アルバム曲)
1.「DEAR LOSER」(作曲:TAIJI)
不穏なギターの音色からイン。他の楽器がインする頃には禍々しい雰囲気に様変わりして、まさに、これから何かが始まるという...という心境にさせてくる壮大なインストゥルメンタルでございます。深い霧の中からシルエットが現れ、Xのメンバーが登場するという画が見えるオープニングですね。中盤以降にきこえるバームミュートを生かした荒れ狂うギターパートはPATAの演奏によるものです。
2.「VANISHING LOVE」(作詞:YOSHIKI 作曲:YOSHIKI)
そして、「X」の代名詞であるメタルへ。メタルでもひたすらぶっ飛ばすのでは無く、盛り上がりの動静や流れるようなメロディラインなどといったまるで1本のドラマを観ているような、YOSHIKI様の楽曲に映る壮大な世界はこの時点で既に完成されていました。コールアンドレスポンスが楽しそうなAメロや首がもげるまで思いっきりヘドバンしたくなる破壊力、破天荒なギターソロ...たまらんです。歌詞は、失恋しても恋人のことが忘れられず狂う主人公が描かれています。
3.「PHANTOM OF GUILT」(作詞:TOSHI 作曲:TAIJI)
TOSHIが作詞、TAIJIが作曲した楽曲。自身の嗜好でもあるアメリカンな要素を取り入れたファンキーなナンバー。今作のTAIJIが作曲した3曲を聴いてみると改めてTAIJIのボーダーレスさって凄いなって思います。基本的にはギターリフを中心に進行していくのですが、それぞれのメンバーの見せ場も要所要所に用意されていて、掛け声もありファンも楽曲に参加できる...それぞれの要素のバランスの良さが特徴だなと思いました。歌詞はこのアルバム全体のテーマである”葛藤”が歌われていますが、TOSHIの描く真っ直ぐな歌詞にはリアリティがありますよね。
4.「SADISTIC DESIRE」(作詞:YOSHIKI 作曲:HIDE)
HIDEちゃんが所属していた「横須賀サーベルタイガー」で演奏していた「SADISTIC EMOTION」にYOSHIKIが歌詞をつけて誕生した楽曲です。(禍々しさがかなり強いですが)それでも、他の楽曲に比べて、曲の構成や曲調のキャッチーさがポイントだと思います。一方で攻撃的なリフや小技が多いギターソロ、アルペジオを紡ぐベースソロといった見所も多しです。歌詞はかなり過激を極めており、性行為だけでは満足できなくなり、ひっぱたく、壁に吊すといったSMプレイにレベルアップ、そしてそれにも満足できず、遂にギアが壊れしまった故に、身体欠損にまで発展。彼女を殺してしまった後に我に返った主人公が涙を流すといったシチュエーションが描かれています。
1991年には6thシングル「Silent Jealousy」のカップリングにて、「Sadistic Desire」としてリメイク。当時TAIJIとHIDEがかなり拘っていた音質の向上にも成功し、音が濃密に。その結果、楽曲の生々しさと殺気の表現がさらに際立っています。
5.「GIVE ME THE PLEASURE」(作詞:YOSHIKI 作曲:TAIJI・HIDE)
TAIJIとHIDEが共作したインスト曲。作詞クレジットがありますが、これは台詞が挟まれているからですね。さてさて、楽曲の世界観ですが、一言で言うと「カオス」そのものです。TAIJIのチョッパーが響き渡る中で音楽の枠をあえて崩したような進行が新しいです。終盤では陽気なパーカスの音色も鳴り響きカオス極まるのがたまらないですね。
6.「I'LL KILL YOU」(作詞:YOSHIKI 作曲:YOSHIKI)
1stシングルをリメイク。「Xの原点」といえば、まさにこの曲でしょう。シングルバージョンから大幅にテンポを上げたことから衝動に駆られて目前の物を破壊しながら突き進む3分30秒に生まれ変わりました。「貴様を殺す」というタイトルからしてかなりキレッキレですが、歌詞は「殺したくなる程の嫉妬」がテーマになっております。自分を捨てた元恋人に向かって嫉妬しながら狂う姿が描かれていますが、嫉妬なんて生ぬるい、この後マジで元恋人を殺めそうな殺気にまみれているのが印象的です。それにしてもシングルのジャケット、かなりコワいです....。
7.「ALIVE」(作詞:YOSHIKI 作曲:YOSHIKI)
「X」のもう一つの顔でもある「バラード曲」が登場です。ここで初登場のYOSHIKI様の奏でるピアノの音色や美しいTOSHIの歌詞の表現力もこの楽曲のポイントだと思います。バラード曲ですが、ストリングスを使用していない事やかなりツーバスを主張するドラムがいることから、メタルの血がより濃く溶け込んだ、他のどのXのバラード曲にも属さない”独特さ”を持っている感じがしました。全英詩の歌詞であり、人生どん底の真っ暗闇の世界で、自傷するレベルの精神状態で1人で葛藤しながらも、最終的には”生きている”ということを実感するというシチュエーションとなっております。
8.「KURENAI」(作詞:YOSHIKI 作曲:YOSHIKI)
あの「紅」ですが、今作では原型となる英語バージョンで収録。英語の発音に伴うメロディラインに若干の変化が見られる他、ギターの音色やギターソロなどにも変化があり、後の「紅」と比べてみて、変化を見つけるのも面白いです。みんな大好き日本語バージョンの「紅」は次作「BLUE BLOOD」に収録されます。
9.「UN-FINSHED...」(作詞:YOSHIKI 作曲:YOSHIKI)
ラストはバラード曲で締め。ピアノとシンセベルの音色とバンドサウンドに包まれ、眠りのような美しい世界に誘われます。「UN-FINSHED...」=未完成ということでプツリとぶった切られて終わってしまうのも斬新ですね。完成版は次作「BLUE BLOOD」のラストに「UNFINISHED」として収録されます。
伝説の始まりの象徴ともいえる1枚でした。ライブ会場を出禁になるほどの狂気のパフォーマンスを繰り広げたり、「たけしの元気が出るテレビ」で知名度が出てきた時期にリリースされたアルバムという背景も相まって、視聴者達に思われていたであろう色物バンドというイメージも見事にぶっ壊しました。野心的で破天荒な音楽、そして歌詞とTOSHIの表現力に映る痛いほどの「葛藤」が伝わります。これは、インディーズ作品ながらも当時は神聖だったオリコンチャートに入るのも当然ですね。アルバムジャケットもなかなか過激ですが、「SADISTIC DESIRE」のワンシーンを映しているとのことです。メジャーデビュー以降にファンになった方々は、ぜひこのアルバムの初期衝動に触れてみてください!
次回は「BLUE BLOOD」のレビューです。改めまして、今年もよろしくお願いします。