「あら、元気ないねぇ」

 皓一郎に声を掛けてきたのは、購買にいた販売員戸木 佳央璃(とぎ かおり)でした。

「色々悩みがあって」

 皓一郎は顔を窓の方に向けました。


「って言ってもね、何の効力も無いじゃないですか~!」

 教室。

 大西 三津子(だいさい みつこ)が、口癖の『って言ってもね、何の効力も無いじゃないですか~!』と少し怒鳴りぎみに言っています。

(ちょっと正直うるさいかも)

 皓一郎はあまりの彼女の声の大きさに、ため息をつきました。

「転校早々、大変だよね」

 東野依紅子(ひがしの いくこ)が皓一郎のため息に同調しました。

 しかし、依紅子も彼の本当の悩みは知るはずもありませんでした。

「皆のいる場所って……」

 紗季の言っていたその場所に、皓一郎は心当たりがありませんでした。


 放課後。

 教室に現れたのは、小紫菜々愛でした。

「帰ろっ」

 菜々愛に強引に引きずられるように去っていく皓一郎。

 そのあまりの手早さに、誰も皓一郎を助けることができませんでした。

 皓一郎に置き去りにされた佳弥。

 悲しいなぁと思った時、

「弥佳(やよい)ちゃ~ん」

 と一人の女子生徒が現れ、佳弥に抱きつきました。

「あのね、いーちゃん。私は佳弥、弥生じゃないし」

 佳弥の注意も彼女には聞こえていません。

 いーちゃんこと藤工いさ恵は、それを聞くと笑い出しました。

「ふふふ。佳弥の漢字を前後入れ換えたら弥佳。弥佳は『やよい』と読めるから、結果は『やよい』。だから『弥佳ちゃん』。何か間違ってる?」

「いえ何も間違ってません」

 いさ恵の唾を飛ばしながらの熱弁に、彼女の目の前にいた為に顔中唾まみれになってしまった佳弥でした。


「さぁどうしようかな」

 紗季はどうしたら菜々愛に一泡吹かせられるのか、悩んでいました。

「集会だな」

 紗季の心は決まったようです。
 昼休み。

 口浜佳弥(くちはま かや)が、皓一郎の前に現れました。

「どうするの?」

 佳弥は真剣な顔で聞いてきますが、皓一郎には佳弥がなんでそんな真剣な顔なのかわかりませんでした。

「小紫先輩から告白するなんて思わなかったよね」

(いえいえ僕もビックリですよ)

 佳弥は菜々愛の告白の事を言っていますが、皓一郎はそれどころではありませんでした。

(何て言われるのかわからないから怖い)

 尚も喋ろうとする佳弥を教室に置き去りにすると、皓一郎は生徒会室へと向かいました。


「どうした、少年」

 生徒会室に入った皓一郎の耳に、紗季の声が聞こえました。

「あの、古村先輩。小紫先輩にも告白されたんです。どうしたらいいでしょうか?」

 皓一郎は素直に悩んでいることと、その内容を伝えました。

「あらら、モテモテだね、少年」

 紗季はそれ以上話をしませんでした。

(さすがに悩むかなぁ)

 と皓一郎が思ったそのとき、

「ふふふ。菜々愛めぇ、やるなぁ。菜々愛がクラスメイト全員なら、俺は全校生徒の前でやるよ。ふふふ」

 不敵な笑みを漏らす紗季。

 その様子に思わず後退りする皓一郎でした。