「どうされたのですか?」

 女性の後ろに控えていた侍女が、彼女の変化に気づき声を掛けました。

「あっ、あれを」

 女性が指差した方向を侍女が見ました。

「!」

 口を押さえ、固まる侍女。

 皓一郎と紗季も何があるのかと、女性が指差した方向に目をやりました。

 悠斗の体の右側の床には金属バットがあり、菜々愛の頭には小さい赤色回転灯があります。

 人間は彼女の外観と一緒の為すぐに納得できたようですが、金属バットと赤色回転灯は全く見たことがないようです。

「あの二人は、どんな高度な魔法を使えるの?」

 女性は金属バットと赤色回転灯を、魔法のステッキと勘違いしているようです。

「いや魔法なんて」

 と皓一郎が言いかけたときに、悠斗が目を覚ましました。

「なっなんだ」

 悠斗は倒れている菜々愛、床に座る皓一郎と紗季、そして立っている二つの触角を持ち、周りにキューブを浮かべた女性を次々見ていきました。

「冨樫君、その方がそれを魔法のステッキと勘違いしているみたいなんだよね」

「魔法なんか出来ないし」

 悠斗は金属バットを持ち、感触を確かめるかのように、おもいっきり振りました。

 と次の瞬間、白い壁に大きな穴が開きました。

 どうやらバット振ったときに空気が凝縮されて大砲の弾みたいになり、それが白い壁に当たりそこに穴を開けたようです。
「ん?」

 皓一郎は誰かに揺さぶられました。

「少年、起きろ」

 この声はまさしく生徒会長の古村紗季です。

 体を起こしてみると生徒会副会長の小紫菜々愛と野球部の冨樫悠斗が横になっています。

「こっ、ここは……」

 辺りを見渡してみても白い壁が見えるだけで、ドアや窓といった類いのものは全くありません。

「全く分からない」

 紗季は皓一郎の呟きに答えるように言いました。


 ガチャリ。

 そんな音がした直後、白い壁の一角が手前に開いて、誰かが入ってきました。

「あなた達、いったいどこから来たの?」

 最初に入ってきた方が女性の声で問いかけてきました。

 見れば普通の女性のようなのですが、頭から生えた二本の触角と宙に浮いた複数の正四面体(キューブ)が普段見る人間とは違う人種を物語っています。

「ここは……?」

「マジカルキューブよ」

「えっ!」

 女性から聞かされた聞きなれない言葉に、皓一郎と紗季は驚きを隠せませんでした。


 マジカルキューブ。

 キューブと呼ばれる正四面体や、ダイスと呼ばれるサイコロを一つから複数操る、数ある魔法世界の中の一つ。


「あの二人も仲間ですか?」

 女性が指差した方向には、悠斗と菜々愛がそれぞれ床にうつ伏せで倒れています。

「はい」

「あの二人、本当にあなたの仲間なの?」

 女性は明らかに、何かに怯えたように言いました。
「?」

 黙々と金属バットで素振りをしていた人物が、皓一郎に気づきました。

 花咲学園高校は野球部が数ある部の中でも一番成績が良く、春と夏の高校野球の出場常連校となっているのは意外と知られていない事実。

「やぁ転校生君。君も甲子園を目指してみないか」

 冨樫悠斗と名乗った少年は、皓一郎にそんなことを言いました。


(集会、集会)

 古村紗季は、明日の全校集会での段取りを考えながら帰路についていました。


「さぁ帰ろ」

 小紫菜々愛も帰路についていました。


 急速に辺りが暗くなりました。

 見上げれば上空を積乱雲と呼ばれる低い雲が、立ち込めています。

 雨が降る、と思うより先に雷鳴が轟き、間髪入れず雷光が瞬きました。

 皓一郎、悠斗、紗季、菜々愛はそれをまともに見てしまい、揃って目を両手で覆いました。

 次の瞬間、大地を揺るがす大爆音が辺り一体に響き渡りました。

 稲妻は中箔寺の境内にある樹齢何百年かの大木に落ち、それが爆発したようです。

「あれ?」

 気づけば、大木の周囲にいた男女四人がありませんでした。