私は防空壕なんて見たこともないからわからない。地下に穴を掘って戦禍から逃れるためのもの、くらいは知っているが。NHKの朝ドラなんかで見るレベルだ。

 

 夫は、小学校6年生の時、自宅近くにあった防空壕をさらに掘りに行ったらしい。そこに防空壕があるって、どうして知ったのかもわからないが、友だちと自転車であちこち遊びに出ていて見つけたらしい。だいたいから、そんなものを勝手に掘っていいの?

 

 そこにはいくつかの穴が横に伸びていて、友だち5~6人で

「掘り進めて、繋げよう」

となったらしい。

 

 毎日学校から帰ると、大小さまざまなシャベルやスコップをそれぞれが持ち寄って待ち合わせ、そこに向かう。そのうち、父親が(現在の私にとっての義父)

「毎日何しに出かけているんだ?」

と聞いてきた。夫は正直に

「防空壕を掘りに行ってる」

と答えたらしい。

 

 普通だったらそこで

「勝手にそんなことするな」

とか

「危ないからやめろ」

というのが大人です。ところが義父は

「じゃあ、これを持っていけ」

といくつかのヘルメットを差し出したというのだ。

 

 何日かかったのかは知らないが、ある日、お互いに掘り進めていた防空壕が繋がった。小さなスコップで「カチャッ」っとそれまでにない感覚があり、光が見え、急いで大きく広げ、反対側の友人と握手したという。

「感動したよ。地図も何もないけど、自分たちで『こっちの方向じゃないか』とお互いに決めて掘ったわけよ。そしたら、それぞれの端っこ同士が繋がったんだから。偶然とか奇跡だと思ったよ」

50年以上も前のことなのに、夫の目は輝いていた。私は

「よくぞ怪我なく済んだ」

と半ば呆れながら聞いていた。

 

 ところが、そこから出てきた彼らを待っていたのは警察官だった。パトカーが停まっていた。いきなり

「おまえら、全学連か?」

と聞かれた。そう、昭和40年代半ば、全学連の活動が盛んだった。その意味も知らない彼らは

「全学連ってなんですか?」

と尋ねた。その後、お咎めがあり、両親にも電話があったらしい。

 

 どうやらそれは、近所の人からの通報だった。

「連日ヘルメットを被った人間が集まって何かやっている」

いやいや、小学生です。当時は学生運動が高まりをみせていて、ヘルメットの人間が集っているのを見つけたら、すぐに学生運動と思い、警察に連絡したのだろう。

 

 昨日、夫がその場所を案内してくれた。

「たぶんここの奥だと思う」

その場所は今は施設になっていて、勝手に入ることはできない。興味深い私としてはちょっとお声掛けして、敷地内に入って見てみたい気がする。埋められていて跡形もないだろうけど。