私が若かりし頃、大学生の頃だからもう40年以上も前の話だ。その頃、ニュートラ、ハマトラ、なんていうファッションが流行っていて、私もご多分に漏れず、少し張り切りました。ひざ丈前後のスカートで落ち着いたお姉さんっぽいニュートラディショナル。トレーナーとハイソックスが定番のかわいらしい横浜トラディショナル。
背の高い私の後ろ姿は、そこそこのレベルだったと自画自賛している。あくまで個人的に。
その日は友達とのアルコール会で帰りがいつもより遅かった。最寄駅に着いたのは23時頃だった。我が家は駅から徒歩10分ほどのところにあった。
「あれ?」と気づいたのは駅と我が家の中間点くらいのところだ。後ろから明らかに男性の靴音がする。一気に緊張する。すこーしだけ歩く速度を落としてみる。あちらも遅くなる。ちょっとだけ速足にしてみる。相手も速くなる。とにかく一定の距離を保っているのだ。いつもの時間ならば他に帰宅者がいるのに、その日は周りに誰の姿もなかった。
私の心臓はバクバクしてきた。
「さてどうしよう?このまま家にたどり着ければいいが。家までの間に逃げ込めるお宅はあったっけ?」
すごい勢いで頭の中で脳が回転している。周辺は既に静まり返っている。ポツンポツンと存在する商店も固くシャッターが閉じられている。
ここで急に走ったって、あっという間に追いつかれる。そんな私の行動が後ろの男の何かをたきつけるかもしれない‥‥‥。
すると急に足音が速まった。
「来た!」
と思った瞬間私はしゃがみこみ、頭を抱えうずくまっていた。
‥‥‥?
抜かされた。そして振り向きざまに男が言った。
「あぁ、やっと抜かした」
そして、何事もなかったようにすたすたと歩いて行ってしまった。私はからかわれたのだ。が、その恐ろしさは尋常ではなかった。私はしばらく立ち上がれなかった。
あの頃、防犯カメラなどは設置されていなかっただろう。恐怖で男の顔も見ていない私。翌日に交番に行ってもおまわりさんに
「見回りを強化しますね。気を付けてください」
が関の山。私は指1本触れられていないのだから事件にもなりゃしない。
そういう時って、他の人たちはどういう行動をとるのだろう?女性であってもよほど脚力に自信がある人は走り出すのだろう。長距離が得意ならばなおさらのこと、走れるだけ、体力の続く限り、ハイヒールを脱ぎ捨てて走るのか?そして
「キャー」
とか
「助けて~」
とか叫ぶ?が、私はできなかった。声が出ないのだ。少なくとも私は出せなかった。
あ、そうだ。今は、スマホを持っているから、それで緊急連絡をしてもいいのか‥‥‥。
スマホもなく、大声も出せず、足に自信もない私、これ以上に怖い体験は未だかつてない。
