「私、この前、やらかしちゃったんだよね」

ママ友仲間5人とのランチ会はいつぶりかな?そうそう、子リス保育園に勤め始めた頃だから、2年が経ったのか。最近は時の流れが速すぎて驚くほどだ。

 

 「なになに?」

皆の目が一斉に輝く。

「星羅が、よく熱を出すのよ。里奈ちゃんから電話があって、『急で申し訳ないんですけど、どうしても仕事を休めないから、お義母さん、星羅を見てもらいたいんです』って」

千加江は、義娘のことを里奈ちゃんと、ちゃん付けで呼んでいた。孫は「ちゃん」がついていないのに。

「え?いくら孫でも発熱時に預かるって荷が重いよね」

「それでそれで?」

 

 「あ、病気の時に預かることは今までほとんどなかったんだけどね。息子も一応イクメン頑張っているらしく、休み取ったりするし……。けど、なんたって星羅がすぐ具合が悪くなるのよ。回数が多いからさすがに息子も里奈ちゃんも仕事休めなくて、こちらにその役目が回ってきたってこと。でさ!その時に『あら!またお熱なの?』って言っちゃったのよ。悪気はなかったんだけど、心配でさぁ。電話口で空気が変わった感じがしてさ。『しまった~』と思ったけど、もう遅し」

 

 「あぁん、いかにも身体が弱いね、って言ったみたいになるね」

「星羅ちゃんミルク?母乳?」

「あ、ミルクだったわ。里奈ちゃんあんまり母乳の出が良くなかったって聞いた」

「そりゃあ、やっちゃったね。千加江がそんなこと指摘してなくても『母乳信者義母』って思われたかも」

「今の世の中、私たち世代で『母乳が1番』なんて言う人、いないようでいて、ある一定数は必ずいるからねぇ」

「娘ならなんてことはないのにさ、こういうところが義理なのよね」

 

 友子に言わせると、病気については『保育園の洗礼』というそうだ。保育園に通い始めた子どもは次から次へと感染症に罹るって。

 

「私らの頃もあったよね。『生後6か月まではお母さんの免疫があるから病気に罹らない』なんて言われてたけど。ウチの子、生後半年経たずに入院したことある」

「あ、ウチも何度も病院通いしたわ」

5人全員が声をそろえて「生後6か月説」に異議を唱えていた。

 

 しかし、それにしても今は昔と違う気がする。星羅だけじゃない。保育園児のなんと病欠の多いことか?インフル、コロナはもちろん、何とかウイルスだの手足口病だの溶連菌だの、りんご病?千加江は、最近になって子どもの病気をだいぶ覚えた。子育てしていた頃、聞いたことのないものばかり。そして、パパママの気の毒な事!そのたびに保育園は行かれない。仕事なんて言ってられない。

 

 近所のクリニック、診療所はいつも子どもでいっぱいだ。病気だからもちろん行くのだが。医療費の支払いがないから親にとって通院は、ハードルが低いのか?心配のあまり、すぐに診療所に駆け込むのか?保育園で「治癒証明書」の提出を求められるから仕方なくクリニックに出向くのか?とにかく混雑している。


 そうそう、コロナ禍にあっては兄弟姉妹が1人でも発熱したら、元気な子もお休みしなくちゃならなかったらしい。そして、コロナの検査を受けたと聞いた。

 

 そんなことで医者に通うことが増え、治りかけた子が、免疫力が落ち、クリニックでまた別の病気をもらってくる。自分たちが子育てしていた頃は微熱程度で元気ならば家でおとなしくしていればよかった。今は親たちも仕事があるから無理をしてでも登園させ、結果病状が悪化したり、他の子に遷したりってことも起こるのかもしれない。。

 

 これこそ、『負の連鎖』だ。こんな大変な思いをして子育てしなくてはならないとは‥‥‥。

 

 あ、それより、里奈ちゃんが気になる。何日かしたら、息子から

「ばあちゃん、余計なことは言わないでくれ」

って電話がありそう。そうだ、星羅が生まれ、言葉をしゃべることができるようになった頃から、息子には「おふくろ」から「ばあちゃん」と呼ばれるようになった。

「私はあんたのばあちゃんじゃないわよ」

 

 千加江は1人憂鬱な気分になった。みんなに聞いてもらってスッキリ、……とはいかなかった。

 

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