浩一が1番楽しいのは孫との時間だ。自分たち夫婦は男の子に恵まれなかった。だからなのか、怪獣や恐竜のおもちゃや、トミカのミニカーを孫のために買うのは喜びだった。

 

 でも最も楽しかったのは一緒にやる土いじりだった。砂場遊び、ということではない。菜園だ。土を掘れば芋虫が現れた。ダンゴムシのその不思議さに翼は見とれていた。キャベツの葉に付くモンシロチョウの幼虫もかわいがった。翼は臆することなくミミズを触ることができる。

 

 少量ではあったが、夏にはキュウリやナス、トマトを収穫した。汗と泥にまみれた翼の顔を浩一は両手で挟んだ。

「おじいちゃん、痛いよう」

と言いながらも嬉しそうな翼だった。そんなことどれもが浩一の宝となった。

 

 純子が短大を卒業し、子リス保育園を手伝ってくれるとばかり思っていたが、そうことは上手く運ばなかった。浩一は裏切られたなんて思ってはいない。純子には純子の人生がある。自分の決めた通りに歩めばいい。

 

 当初、政子はブツブツ言っていたが

「純子は純子よね」

と、最後は納得した。そして、やっぱり初孫の翼はかわいくて仕方がないようだった。翼が子リス幼稚園に入園した時には

「園児の1人、園児の1人、園児の1人」

とつぶやくから、浩一は最初何のことかと首をかしげたほどだった。理解した時には思わず笑った。

 

 園全体を見るはずの園長が、なんとなく翼のクラスに足を運ぶ。他の教室よりそこに行く回数が無意識に増える。園庭に集まれば、どうしても翼の姿を捜してしまう。

 

 心は熱いが、仕事では沈着冷静な政子がそんなことになろうとは、浩一は孫の力は大きいと思った。。

「人のことは言えない。そして、やっぱり政子もおばあちゃんか‥‥‥」

 

 ただ、それは祖母としての姿だけではなかった。教育者の1人としての姿であったことに浩一は後に気付くことになる。政子はわかっていたのかもしれない。「ツバサという子ども」のことを。

 

 妹たちのわけのわからない愚痴はあるが、そんなのは聞き逃して、こうした生活がいつまでも続くことを浩一は願っていた。政子が幼稚園をしっかり守ってくれること。自分がその支えになること。純子が近くにいてくれていること。翼に会えること。それ以上望むことはなかった。

 

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