この間もニュースになっていた。小学校教師がSNSでグループを作って小学生の下着姿や着替えの動画を共有していたと。何ともおぞましい。子どもも親も信頼していた先生がそういうことをやるって、もう何を信じればよいのか、わからない。来年にはつむぎだって小学生だ。安心して預けられない。

 

 結花が昨年冬、思い切って園長に伝えたのは間違いではなかったと確信した。

 

 あの時、情報通の翔ママが教えてくれた。

「ねえねえ、この前、翔を早お迎えしたのね。田舎から私の両親が遊びに来ていたのよ。その日はみんなで焼肉行こうとしてて。そしたら達也先生が、つむぎちゃんのオムツ替えてたのよ。いいのかなあ?って思ってさあ。達也先生は良い先生だけど、ホラ、男の先生じゃん?一応伝えておくね」

「えっ?そんなことがあったんだ……教えてくれてありがとう。ちょっと園長先生に言ってみる」

「うん、うん、それがいいよ。だって、隣の市のむらさき保育園、先月問題になったらしいよ」

結花はショックだった。

 

 早速翌日、お迎えの時、結花は職員室を訪れた。

「園長先生、ちょっとお時間よろしいでしょうか?」

「はい、なんでしょう?」

いつも親の立場に立って考えてくれる、子どもにも優しい人気の園長だ。明るい笑顔も少しふくよかなところもその人気の理由かもしれない。結花の顔がシリアスだったのか、何かを感じて、園長はサッと表情を変えた。

 

「先日、私が見たわけではないのですが、つむぎのオムツ替えを達也先生がやっていたらしいのですが、男の先生に女の子のおむつ替えをしてもらうのは、どうかなあ‥‥‥と」

一瞬の間の後、園長は口を開いた。

「あ、申し訳ありません。注意が及びませんで‥‥‥。今後、達也先生はオムツ替えには携わらないようにします。職員間で徹底しますので、今後も何かあったらお知らせくださいね」

園長は深々と頭を下げた。

 

 こんな風に以前からこの保育園には思うところがあった。例えばこの前も、つむぎが、腕に擦り傷を作って帰ってきたことがあった。お風呂で初めて気が付いた。果奈先生からは、なんの報告もない。連絡ノートには

「給食の時、お手伝いをしてくれました。布巾でテーブルを丁寧に拭いてくれました」

と今日の様子があっただけだ。


 「つむぎ、ここ、どうしたの?」

「あ、あ、あ………、きょきょきょうね、かずくんがおにわにおちていたきをひろってね。さっとやったらね、つむぎのここにしゅーっとあたったの」

身振りを交えてつむぎが言った。つむぎは言葉の出だしに難があり、結花は気になるところではあった。が、賢い子なので、人の言葉の意味をすぐに捉える。結花の次の言葉を既に感じているようで、下を向いてしまった。

「で、で、で、でもね、みゆうせんせいがおくすりつけてくれたよ」

いいことを思いついた、というように急いでつむぎが顔を上げて目を見開いた。

「どうして早くママに言わないの?」という言葉を飲み込み、

「よくわかったよ。上手に説明できたね」

結花はつむぎの頭をなでた。

「つつつつつむぎは、せんせいにありがとうもいったよ」

ホッとしたような、誇らしげなつむぎの顔だった。

 

 つむぎが寝てから、連絡ノートを開いた。

「いつもありがとうございます。今日つむぎの腕に引っかき傷を見つけて、本人に聞きましたところ、和斗くんが木の枝を振り回し、それが当たったと聞きました。こういった場合、親への連絡は基本的にどうなっていますか?今後、もしつむぎがお友だちにけがをさせてしまうようなことがあったら、教えていただきたいです。きちんと謝罪したいと思っています」

けがをさせられた子どもの母として文句を言っているように聞こえないよう、ひねり出した文章だった。もし、けがをさせた側であったら、菓子折の1つでも持参して謝るつもりだ。そこを主張した。

 

 夫には内緒にしておこうと結花は思った。

「そんな細かいことで」

と言われるに決まっている。

 

 明日も早い。夫からは今日

「遅くなる」

と言われていた。結花は、夫の帰りを待たずに眠りについた。

「つむぎはやっと授かった子どもだもの」

 

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