時計は午前7時半をまわった。いつもより1時間以上遅れてしまった。数日間強い雨が降り続き、今ようやく上がった。急いで園の周りを掃除しなければ。純子は倉庫から竹ぼうきを取り出した。3日怠っただけで、葉っぱはもちろん、コンビニのおにぎりのフィルムなどが散乱している。風も強かったから飛ばされてきたのかもしれない。中にはタバコの吸い殻も落ちている。愛煙家の方がどんどんと肩身が狭くなっているのは気の毒な気がするが、保育園の周りに平気で吸殻を捨てる人の気が知れない。

 

「おはようございます」

と大きな声が聞こえた。子ども達を連れたパパママが1番慌ただしい時間帯だ。純子も

「おはようございます」

と挨拶をする。

 

「ひまりちゃん、今日はパパと一緒で良いわね。」

「うん!」

「ママが早出の日なんで……」

パパも嬉しそうだ。陽葵ちゃんはパパが大好き。いつもはきれいに編み込んだヘアースタイルが、今日はどことなく散らかったポニーテールだ。それでもにこにこ全開だ。

 

 颯真くん、久しぶりの登園。

「あ~よかった。そうまくん、お熱下がったのね」

「治癒証明、昨日もらったので、持ってきました」

ママはパンツスーツをキリッと着こなしている。

「職員室に有子先生がいますからそちらに提出してください」

 

 やっぱりこの作業は6時半には終えていなければ。子ども達の明るく弾けるような笑顔に魅せられ、なかなか終えるのは大変そう。

 

 それでもこの時間には小中学生のあいさつが聞ける。ここは通学路になっている。いつもの掃除の時間帯はお散歩をするご高齢の方ばかりだから

「おはようございます」

の声は一律に堅い。今日は違うな。ここ『子リス保育園』の卒園生はひときわ大きな声で挨拶をしてくれる。ふと見ると、黒い日傘の女子が1人スーッと通って行った。中学生に日傘が何とも不釣り合いだ。私が中学生の頃は半袖のシャツから真っ黒な腕を出し、数人でギャーギャーと笑いながら登校したものだ。純子はそんなことを思い出しながら、竹ぼうきを握り直した。

 

 雨に濡れて地面に張り付いた葉っぱは竹ぼうきでないとなかなかきれいにならない。中学生の頃、その使い方が不格好だったようで、母に教えられた。

「純子、竹ぼうきぐらい上手に使えるようにしておきなさい」

と言って、母がその握り方から手本を見せてくれた。

 

 高校の時、朝学習の時間を使って近所の清掃のボランティアがあった。

「小林!竹ぼうきの使い方がサマになっているな」

担任の先生に褒められ、嬉しかった。

 

 梅雨のこの時期の晴れ間は貴重だが、気温が急激に上がり、湿気もすごい。既に純子の額には汗が噴き出ていた。子どもたちの熱中症にはくれぐれも気を付けなければ。

 

 今日も『子リス保育園』の1日が始まる。

 

 音符不定期に続きます音符