実家に行った日には午後から1人で街に出る。凛は好きなように過ごせるおばあちゃんとの時間が嬉しいらしい。
「ママ、大丈夫だからゆっくりしてきていいよ」
5歳にもなると1人前の言葉を覚える。特に凛は大人ばかりに囲まれて育っている。兄弟姉妹はいない。従兄弟姉妹もいない。保育園でのお友だちとの交流がすべてだ。
「ハイハイ、ありがとう」
母も満足げに
「気を付けて行ってらっしゃい」
と恵を見送ってくれた。
保育園での他の 家庭の様子を見てみると、定期的に飲み会を開いたりして交流があるようだ。年に1度の懇親会は必ず夫と参加するようにはしている。が、恵はなるべく仕事が休みの日は夫と3人の時間を大切にしたい。凛も
「 ○○ちゃんと遊びたい」
と言うこともあるが、なだめてきた。土曜日はスイミングとピアノのお稽古の日で1日が終わるし。
今後の凛の教育費のために、今は節約の時だ。今後、凛が興味を持ったことはなるべくやらせたい。都会に出ても自分のものは極力我慢する。お洒落なお洋服も小物にも目を向けない。ただ、ついつい、子ども服売り場にだけは足が向いてしまう。大したお出かけもないし、保育園の毎日は、西松屋がありがたい。ユニクロやGAPもある。何も買うつもりはなく、ただ覗くだけだ。
冬のアウターとして買ったユニクロのダウンは確か愛梨ちゃんとオソロだったわ。それもみんな保育園アルアルだ。結局フラフラするだけで、スタバでお茶することにした。恵はいつもこの時間が大好きだ。ボーっとして一番の気分転換になる。
ソイラテを飲みながら1人ガラスを通して街ゆく人を眺めていた。すると後ろの席から気になるおしゃべりが耳に入ってきた。振り向けないのがもどかしい。どうも自分と同じくらいの女性2人組らしい。
「‥‥‥で、再婚なわけよ。まぁ、‥‥‥も理解しているようでまだ幼いし‥‥‥。見せかけ離婚生活も‥‥‥」
えっ?見せかけの離婚?何のこと?
恵は急いでバッグの中からスマホを取り出し、YouTubeを見ているふりをした。画面なんか目に入ってこない。全神経は耳に集中。
「でもさ、これでやっと安心して‥‥‥よかったね。私なんてバレたら……だろうと心配‥‥‥」
「役所の‥‥‥何とかなった‥‥‥」
「……『保育園落ちた!日本死ね!』……なったじゃない?ホント、やってられないよ。‥‥‥の辺りはいいよね。……区はすっごく大変。……私が、……1番頭使ったかも」
どうも保育園に子どもを入園させる保活のために偽装離婚をしたような話だ。ひとり親世帯は入園に於いて優遇されるとは恵も聞いていた。だからと言って、そこまでするの?バレないの?
時計は4時を回っていた。気になる会話だが、恵は空のカップを持って立ち上がった。スカートのすそを気にする素振りでチラッと後ろを見た。ショートカットの髪に真っ赤なピアスが揺れていた。真っ白い歯を見せた笑顔が印象的な女性だった。それだけしかわからなかった。
早く戻らなくちゃ。凛が待っている。いつもより長居してしまった。
不定期に続きます![]()
