小学校5年生の時の授業で時々テストの採点を私たち自らやることがあった。丸つけが簡単なものの時、先生はテストの後に

「はい、それでは、隣の人と交換して、丸つけしましょう」

と言う。そしてその後テストは、きちんと集められて先生の手に渡る。

 

 ある学期の私の隣の席はH美ちゃんだった。彼女はそれほど成績が良い方ではなかった。そりゃあ私だって人のことは言えない。大した勉強もせず、親もいちいちテストの点数を気にすることもなくなっていたから、点数は良くなかった。覚えればいい歴史も地理もなぁんにもやらなかった。

 

 放課後、友だちと隠し持って行った『マーガレット』や『りぼん』を交換して読みふけっていたり、ドッチボールなどをやっていた。点数は偶然が重なっても50~60点がいいとこだった。小学校入学直後から両親にやらされた勉強に疲れ、やっと自由になったとばかりに遊びに夢中だった。

 

 

 ある日のことだった。

「はい、では隣の人とテストを交換しましょう」

の先生の合図で、採点していた時のことだった。隣のH美ちゃんが肘で私の腕をつついてきた。私は何かと思って彼女の方をみると‥‥‥。彼女が私の答案の間違った箇所を指さし、消しゴムで消して正しい答えを書き、赤鉛筆で丸をしたのだ。

 

 「えっ?それは不正でしょ」

と思ったけれど、その場で声を出すこともできず、じっとしていたら、彼女はもう一度私をつついてきた。

「私の答案も直して丸を付けてよ!」

彼女の目が、そのように訴えていた。私も同じようにした。先生に見つかるのではないかとドキドキした。彼女は満足げに頷き、正面を向いて先生の話を聞き始めた。それは、採点のたびごとに繰り返された。

 

 そんなの1個くらい直したところで、たかだか5点。そして、何の意味もないと思った。普段の授業やノートを見れば、先生だってわかるよ、その子がどれだけ理解しているか。そう思っても私は何も言えなかった。彼女とはそれほど仲良しでもなく、休み時間におしゃべりすることもなく、私はただただ早く席替えをして、彼女と離れたかった。

 

 小学校高学年、

「勉強って何だろう?」

「成績って何?」

って盛んに思った時期だった。