体験記憶の良いはずの私が、中学校の卒業式だけはなぜか、ほとんど記憶にない。中学校生活の後半の思い出したくない出来事に、すべて消し去りたい感情が乗っかって、そうなっているのではないかと推測している。



 

 小学校の卒業式では歌った曲名、校歌以外の2曲も覚えているし、「よびかけ」のせりふも頭にある。在校生の『蛍の光』のリコーダー演奏の中、体育館を退場した。

 

 高校では芳しくない大学受験結果の中の卒業式に、あまりいい思い出はないが、それでもどなたが代表として卒業証書を授与されたかも覚えているし、服装(制服の無い学校だったので)も場所も覚えている。学校の体育館ではなく、近くの公会堂を借りて式を行っていた。

 

 先日、街に出ると、女子学生の袴姿が多くみられた。みんな美しい。というか、キラキラ輝いていた。これから新しい道に進む皆さん、「幸あれ」と私は心の中でつぶやいた。

 

 ところが、その10人くらいの集団の中のお一人、袴が落ちてきていた。まだ本人も気づかないレベル。周りのお友だちはもちろんおしゃべりに夢中で気づくはずもない。私は着物が好きで、少しだけ着付けもおけいこしたからわかる。

 

 袴は簡単に言えば、帯を後ろで結んだときにできる山に、乗せる。後ろ側で帯山に乗せて、ついている紐を前でしっかりと結ぶ。彼女の袴は完全に帯山から外れていて、何分か後には悲惨な状況になるのが目に見えていた。その時既に後ろ側の裾を草履が、踏んでいた。そして、それを直せるお友だち‥‥‥いないだろうなぁ。

 

 思い切ってお声をかけた。勝手にやるのではなく、数人の方にきちんと着付けてある後ろ姿を見せてもらい、他の方に見比べてもらい、説明をしながら、人目に付かないところでお直しした。正式なやり方というより、とりあえず、

「こんな仕組みで袴が落ちてこないようになってるよ」

を伝えた。

 

 「どなたかの袴が落ちてきたら、みんなで今のように直してね。本日は誠におめでとうございます」

と言ったら飛び切りの笑顔で

「ありがとうございました」

と明るい声が返ってきた。

 

 こんな風に役立つとは思ってもいなかった。良いことをした気分と若い方々との交流に、いい日だったと日記に書いた。