EUは以前、2035年までに新車販売を温室効果ガスを排出しないゼロエミッション車(ZEV)に限定する目標を掲げました。この方針は実質的に、高い技術力を持つ日本メーカーのハイブリッド車(HV)を市場から締め出す狙いを含んでいました。しかしその後、急成長した安価な中国製EVに市場を席巻される事態となり、EUは自ら重視してきた自由貿易の原則と矛盾する形で、中国製EVに対する追加関税措置の導入に踏み切ることとなりました。
2024年から2025年にかけて伸び悩んでいたEUのEV市場は、2026年に入り一時的な急拡大を見せています。イラン発のエネルギーショックに伴い化石燃料価格が再び高騰したことが引き金となり、2026年上半期のEU新車登録台数ではEVが前年比40.5%増と、ハイブリッド車などを大きく上回る伸びを記録しました。しかし、こうした燃料高騰に依存した「第2次EVブーム」は決して長続きするものではないと考えられています。
市場の動向を最も鋭敏に察知する自動車メーカー各社は、すでに高らかに掲げていたEVシフトの方針修正を進めています。ホンダやメルセデス・ベンツなど、かつて近いうちに新車供給を完全なEVへ移行すると宣言していた主要メーカーであっても、需要の現実や収益性の懸念から計画の撤回や下方修正を余儀なくされているのが現状です。
さらに政策の旗振り役であった各国の動きにも変化が生じています。脱炭素化を強く推進する英国の労働党政権は、2030年までに新車登録に占めるZEVの割合を80%とする目標を掲げていましたが、その大幅な下方修正に向けた協議を開始しました。環境政策を看板に掲げる政権であっても市場や利用条件の現実から目標維持が困難であると判断しており、EVシフトの壁の厚さを如実に物語っています。
根底にある重大な問題は、EVの運用に必要な電力インフラとエネルギー源の不備です。EUが掲げる理想である完璧なカーボンフリーモビリティを実現するには、EVに充電する電力をすべて再生可能エネルギーで賄う必要があります。しかし現在の発電能力ではこれを到底カバーできず、結果としてEUは原子力発電やガス火力発電への依存を容認せざるを得ない状況に陥っています。日本車の排除から中国車への保護主義的関税への転換、そして再エネ不足という多くの課題を抱えた欧州のEV主導政策は、市場の現実とエネルギー基盤の限界によって大きな行き詰まりを迎えています。
そのような状況下で、フォルクスワーゲンは2026年9月3日、2030年までに世界全体で従業員5万人を追加削減する大規模な経営再建計画を正式に決定しました。既に公表済みの計画と合わせ、全従業員の約15%に相当する10万人規模の削減となる見込みです。
EVの台頭により自動車市場のパラダイムシフトはまだまだ加速していくことでしょう。今後EUの自動車政策はどのようになるのでしょうか?日本の自動車政策と日系自動車メーカーの戦略にも大きな影響が出てくることは必至ですね。
