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(翔Side)
ルーシスさんの国のことを調べても調べても、2、3行程度の回答文しか出てこなかった。
それもみな、判で押したように当たり障りがない、言い方を変えただけの同じ事しか書かれていない。
この現代においても王政の国はあるけれど、その多くが日本やイギリスのように、君主は国家の象徴として、政治は政治家が治めている。
対して、ルーシスさんの国は、王家が絶対的権力を持ち政治を治めており、、
だからこそ、この情報が溢れ過ぎている世界においても、沈黙を守る国となっている……
頭の中に広げたカラフルな世界地図。かの国の一点だけが、ジワリと漆黒に窪んでいるように見えた。
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事務所のチーフマネージャーに、ルーシスさんと雅紀の件で、混乱していた時の詳細を尋ねたけれど、分からない、教えられない、と繰り返すのみで。
それでも食い下がっていたら、ただ一つだけ、
ルーシスさんは王家としてこの国にはたらきかけたらしく、国が主体となり、事務所に協力要請があったため、事務所としても従うほかなかったのだ、という。
事務所さえ、国さえ抗えない大きな力…
この世に常識とされてきた、正義や理屈など通じない、絶対的な権力。
そんなものが実は、身近でないから気付かぬだけで、世の中を横行していること、
そんなものに目をつけられたが最後、蛇に睨まれた蛙のように、抵抗も何もかも諦め、ジッと、ただ喰われるのを待つだけだってこと、
俺はこれまで生きてきた人生で、初めて知ったんだ。
自分では、自分の人生を歩んでゆく中で、大切な人の1人くらいは、守れるような力を付けれたと思っていた。
けれど、これじゃぁ全然太刀打ちできない。
蛇に睨まれたら、宇宙へロケットを作って飛び出せるくらいの財力とか英智とか、
その位のレベルのものが無ければ、到底敵わない。
抗う術を探せぬまま、1ヶ月の期限まで、ジリジリと近付く。
かぐや姫の物語でさえ、月からの迎えに矢を射って抵抗したってのに!
もはや、事務所だって雅紀を守る盾にさえもならず、
指をくわえて連れてかれるのを見てるだけになりかねない。
だけど、どんな形を取ろうと、
俺と共にいることに幸せを感じてくれている雅紀を、連れて行かせやしない。それは絶対だと決めている。
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5人で集まって、何度も話し合いをした。
抗える術が無いのなら、かわりばんこに連れて逃げる?
でも何処へ?
隠れられたとして、警察に来られたら協力しない訳にはいかないよ?
……国同士の大きな話になると、結局この国の国土に、安全に隠れる場所なんて何処にも無いということになってしまう。
黒服の監視の目が外れたのは、結局そういう事なんだろうな。
どうしたって逃げも隠れも出来ない。
あちら側からしたら、子どもの遊びみたいな、、『花いちもんめ』でもやってるような感覚なのかな?
『あのこがほしい』
って、無邪気に残酷に、繋いだ手を断ち切って、連れ去ろうとしてる。
1ヶ月後の、
約束の日の来る直前に、雅紀と休みを合わせた。
一晩、海釣り用の手漕ぎボートを貸してくれる店をやっと見付けて、雅紀を誘った。
釣りをするつもりは無いけどね
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「こうしてると思い出すなぁ。
でかい折り紙で作ったボート」
「あぁ!あったねぇ」
「あんな華奢な手作りボートで 河を下って海に出ようだなんて、正直無謀な企画すぎだろって思ったけど...
雅紀はさ、最後まで明るく頑張ってて...。随分励まされたっけ。
あん時も俺、雅紀ってすごいなって俺なんか全然かなわないなぁって思ったんだよ」
「え、そうなの?」
「うん。ふふ...気付かなかったでしょ?」
だいぶ岸から離れて、街の灯りも遠くにぼんやりと見えるくらいになった。
…ここまで来れば、後は潮の流れに任せれば良い
「おいで、雅紀」
オールから手を離し、両手を広げて雅紀を呼んだ。
下は海水だから、動いたら揺れるけど...でも、思ってたよりもずっと波は穏やかで安定していた。
「翔ちゃん」
俺の腕の中に入ってくれた雅紀を優しく抱き締めた。
下を覗けば 夜の海は真っ暗な闇。
夜空との境目が分からない。
見上げれば一千億もの無数の星...
俺たちを乗せたボートが、宇宙船になって宇宙空間に浮いてるみたいな、不思議な感覚になった。
天の川銀河規模の宇宙の真っ只中に身を置くと、地球という星にだけ生命が芽生え、人間達が生きて暮らしているということが、奇跡を通り越して強い畏怖を抱いた。
「まさき...寒い?」
腕の中の雅紀が少し震えてる。
「待って、ブランケット...」
手元の灯りを照らし、車の中から持ってきていたブランケットを手繰り寄せ、雅紀に羽織らせると
「ありがと、翔ちゃん」
って微笑んでくれた。
「ねぇ、見上げてみて。星も、すごく綺麗だよ」
「本当だー、凄いね。降ってくるみたい...」
俺にギュッてしがみついたまま、
静かに星を眺めてる。
そして、
「ねぇ、しょーちゃん...。生まれ変わっても...オレたち、また会えるよね?」
真っ直ぐな瞳で俺を見上げて言った。
「うん、必ず、絶対探すから。
今度はきっと、俺達の恋も認められる世界に」
「オレも翔ちゃんを探す。
出会えたら...デートしようね。
しょーちゃん何処に行きたい?」
「そうだなぁ...。
雅紀と普通に街をデートしてみたいな。
俺達が誰なのか、誰も知らない。
手を繋いでても誰も気になんか留めないんだ。
人の作った建物を、街を
風を、光を
そこに行き交う人々と共に感じたい」
「うふふ...なんかしょーちゃんらしいね。...オレはねぇ、オレは...。
しょーちゃんとまた一緒に温泉に旅行したいな!
しょーちゃん...オレなんかの事、また好きになってくれるかな...」
うつむいて涙をポロポロと零して...
「雅紀、当たり前だろ。大好きになるよ?必ず。」
言いながらぎゅうって抱き締めた。
「.....しょう...ちゃん....」
「まさき...やっぱり、...怖いか?」
「......ううん」
って涙を拭ってフルフルと頭を振った。
「翔ちゃんと一緒なら、...怖くないよ」
雅紀は自分のシャツのボタンを外し、ベルトも外して...
身に付けているものを全部外して
一糸まとわぬ姿で俺の前に静かに立った。
月明かりに照らされて
彫刻みたいに。
滑らかな肌が 夜を背に白く浮かび上がる
美しすぎて言葉が出ない。
「翔ちゃん...」
雅紀の声に再び時が動き出す。
そうだね。最後から数えるわずかな時間を
大切な君と分かち合おう。
外気に肌を晒すと、潮風が肌寒い。
少し冷え始めた雅紀の身体を
俺の身体で温めるように 抱き締めた。
慈しむようにキスをして。
膝の上に乗せ、硬く反ったそれで 雅紀の中を拡げてゆくと、
俺を呼ぶ声も苦しげに、短く息を吐く。
狭い雅紀の中に 俺の一部がキュウって包み込まれてて...
気持ち良いのは勿論だけど
胸を満たしてゆくのは
震えるほどの感動
そして少しずつ...雅紀の声に甘さが混じる。
緩急をつけて揺らしてあげると
「あ...あぁ...しょぅちゃあん」
雅紀は白い喉を反らせ...
涙を零しながら甘い声を上げた。
涙を舌で舐め取って
揺らしてみたらもう...制御出来ずに
腰を動かしながら
雅紀の身体をギュッて抱きしめた。
あぁ...人のこころも身体も...
愛する人と交わる事こそが最上の幸せなんだ...。
...おわりが見えてきて分かる
それは いま 生きてるって実感。
きっと今の瞬間が、俺たちのいのちが一番輝いて見えるのだろう。
たとえば線香花火の火が落ちる寸前のように...
たましいは 赤々と燃える。
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