中恵菜 ヴィオラ・リサイタル
ピアノ:秋元孝介
シューマン:アダージョとアレグロ op.70
加藤昌則:未在の庭
クラーク:ヴィオラとピアノのためのソナタ
ショスタコーヴィチ:ヴィオラ・ソナタ op.147
ヴィオラのリサイタルも初めてのことの上、ショスタコーヴィチの遺作でながら演奏機会がそれほどあるとは言えないヴィオラ・ソナタを2週間ほどの間に続けて聴くというのも稀有なこと。
新日本フィルの首席ヴィオラ奏者、カルテット・アマービレのヴィオラ奏者であるきれいなお姉さん中恵菜さんということで、チケットを購入してしまいました。(残念ながら客入りは寂しい限りでしたが)
ピアノは葵トリオのピアノ奏者、秋元さん。
何でも。昨年のブラームス室内楽マラソンで葵トリオのブラームスを聴いた中さんが、秋元さんのピアノに一目ぼれ。ぜひ共演したい!と迫り、きょう実現したとのこと。
最初にシューマンの「アダージョとアレグロ」と何ともつまらそうな曲名ですが、いかにもシューマンらしいロマンチックな作品で良かったです。
中さんのヴィオラの音色、素晴らしいです。先日、東京春祭での田原綾子さんの音色も良かったですが、適度に中音域のヴィオラは耳当たりがよく、包み込まれるようで癒されます。
1曲目が終わって、中さんがマイクを取って挨拶と簡単な曲目解説。そういえばきょうのプログラムには、曲名しか記載がなく、曲目解説くらい入れて欲しいなと思っていたところ、こうした形での解説でした。
2曲目の加藤昌則氏の「未在の庭」。日本の庭の静けさをイメージした作品とのことですが、確かにヴィオラとピアノで音楽が奏でられながら、なぜか静けさを感じさせる中々秀逸な作品でした。
前半最後は英国の女流作曲家レベッカ・クラークのヴィオラとピアノのためのソナタ。1919年の作品。
レベッカ・クラークって全く知らなかった人ですが、このヴィオラ・ソナタだけはヴィオラ弾きにとっては有名な作品とのこと。
全3楽章、20分くらいですが、全く英国風なところはなく、エキゾチックであったり東洋的であったりと中々に多彩な音楽を聴かせてくれます。ぼくには東欧、ハンガリーの音楽にも聞こえました。
中さんのヴィオラも渾身の演奏でしたが、ピアノの秋元さんもいつもながらの切れ味で素晴らしかったです。
後半はいよいよショスタコーヴィチのソナタ。自ずと先日の東京春祭での田原さんとの比較になってしまいますが、印象としてはどちらも素晴らしい演奏、まさに互角といった感じ。
正直ホールの違い、東京文化会館の小ホールはかなりデッドな響きのところ、きょうは空席の目立つ250席のホールで良く響く。
静の田原さんに、動の中さんと言ったところでしょうか。
中さんは思い入れの深さを感じさせる演奏で、前半以上に没入度が凄かったですし、田原さんよりはアグレッシブでした。
その分、惜別の音楽である第3楽章では、唐突と演奏してその中でショスタコの深い精神性を導き出した田原さんの方が好みだったかも。
いずれにしてもマーラーの第9番アダージョに匹敵するショスタコーヴィチの白鳥の歌には本当に心打たれます。
中盤での死への恐れなのか慟哭のような叫びでの中さんの演奏は鬼気迫るものがあり、心打たれました。
ここからハ長調で静かに浄化されクライマックスを迎えるところは本当に感動的でした。
アンコールは「大作の演奏のあとどうしようかと思ったけどロシアつながりで…」との中さんのコメントを添えラフマニノフのヴォカリーズ。
再びヴィオラの美しい音色に包み込まれ、幸せな気分になりました。