東京・春・音楽祭2024
ショスタコーヴィチの室内楽
ヴァイオリン:周防亮介
ヴィオラ:田原綾子
チェロ:上野通明
ピアノ:北村朋幹
ショスタコーヴィチ:
・チェロ・ソナタ ニ短調 op.40
・ヴァイオリン・ソナタ ト長調 op.134
・ヴィオラ・ソナタ ハ長調 op.147
ぼくの東京春祭幕開けはショスタコーヴィチの室内楽。
ショスタコーヴィチが弦楽器のために書いたソナタは、ヴァイオリン、チェロ、ヴィオラとそれぞれ1曲ずつ。この3曲を並べるという稀有なプログラムで、ちょっと難易度高めですが真っ先に出向いてしまいました。それでも会場はほぼ満員。
きょう1番の貢献者は、言わずもがなピアノの北村さんでしょう。各ソナタともそれぞれの楽器と全く対等の難しさで、それを一気に3曲というから、準備も大変だったことでしょう。
素晴らしいピアノでした。スケルツォなど超絶技巧を要するところなどの切れ味、ラルゴやアダージョでの意味深いタッチなど、それぞれのソリストたちと絶妙のアンサンブルを奏でてくれました。
最初のチェロ・ソナタは、比較的若いころの作品で、きょうのソナタ群の中ではもっとも聴きやすいかも。
上野くんのチェロ、とにかくよく響く。第2楽章スケルツォでの超絶技巧、ピアノとの丁々発止、見事でした。第3楽章のエレジーのようなラルゴでの深い表現力、終楽章でのおどけたようなユニークさなど、素晴らしい演奏でした。
続くヴァイオリン・ソナタは一気に晩年へ。オイストラフ還暦の祝いに作曲したもので昭和43年のこと。この作品は中々に手ごわい。
還暦祝いもなんのその、暗い時代を反映したような鬱々とした作品で、長調とは思えない。
とはいえ、周防さんのヴァイオリンは素晴らしく、朗々としたスケールの大きな演奏で集中力にとんでいました。タタタ・タン・タンといったリズムや、4度の跳躍などいかにもショスタコらしいと言えばらしい。やはり第2楽章のスケルツォが断トツに面白いのもショスタコらしい。
休憩を挟んで、ショスタコーヴィチ最後の作品、死の間際に初演されたヴィオラ・ソナタ。昭和50年のこと(もう最近じゃん)。
ヴァイオリン・ソナタ同様、難解ではあるのですが、田原さんのヴィオラの音色に包まれ至福の35分でした。
ショスタコ自身の過去の作品含め、数々の引用があるのですが、それと分かるのは第1楽章最後の方でのベートーヴェンの運命の動機と、第3楽章で一貫して出てくる月光ソナタの第1楽章くらい。
ショスタコーヴィチもこの最後の作品では裏表なく、本当に素直な気持ちで作り上げたことがよく分かります。
ここではショスタコ独特の暗さも浄化され、澄み切った世界が繰り広げられ、田原さんと北村さんとの渾身の演奏に本当に感動しました。
第2楽章のスケルツォも民俗音楽のようで楽しいことこの上ないのですが、やはり白鳥の歌となった終楽章の音楽は、苦難の生涯を乗り切ったショスタコーヴィチの到達点であり、彼の生涯をあれこれ考えながら聞いているとこみ上げてくるものがあります。
初演を聴いた指揮者のムラヴィンスキーもこれを聴いてむせび泣いたとか。
ヴィオラの響きは本当に耳に優しく、音楽を通じて語りかけられているようで、改めてこの楽器の響きに魅了されました。
大作揃いで終演は21:20ころ。地味なプログラムながら、それぞれ想いのこもった演奏で素敵な一夜となりました。