ヴェルディ「二人のフォスカリ」藤原歌劇団公演 2023-09-10 新国立劇場 | sakagumoのブログ

sakagumoのブログ

会社員です。クラシック音楽と読書と温泉が好きです。あと万年百十の王だけど、楽しくゴルフ⛳をすることが好きです。
最近は筆不精がたたって、読む専門です。

音符ヴェルディ/歌劇「二人のフォスカリ」
指揮     田中祐子
演出     伊香修吾
フランチェスコ・フォスカリ    押川浩士
ヤコポ・フォスカリ    海道弘昭
ルクレツィア・コンタリーニ    西本真子
ヤコポ・ロレダーノ    杉尾真吾
合唱:藤原歌劇団合唱部/新国立劇場合唱団/二期会合唱団
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団

 

ジュゼッペ・ヴェルディ、全26作のオペラのうち6番目に書かれた「二人のフォスカリ」。

日本で上演されるのは今回が2回目(プレトークで総監督の折江さんが言っていた)。初演は20年ほど前、故若杉弘さんがびわ湖ホールで一連のヴェルディ初期作品をプロデュースしていた時のこと。

 

ということで、非常に貴重な実演に接する機会。

あらすじとしては、15世紀のヴェネツィア共和国全盛時代、実在の総督フランチェスコ・フォスカリ晩年の悲劇を扱ったもの。

 

5人生まれた息子で唯一生き残ったヤコボの不祥事(一部は冤罪か、はめられたか)で、十人委員会によって島流しの判決が成される。無実を訴えるヤコボ、それを必死に総督であるフランチェスコに懇願する嫁のコンタリーニ。

 

共和国の統治者としての顔と、父親としての顔と、公私のはざまで苦悩するフランチェスコ。最後には、島流しの船の中でヤコボは死に、十人委員会からは総督(35年も勤め上げた!)の退任を求められると、強烈なストレスに80歳をゆうに超えるフランチェスコは耐え切れず死して終幕と。

 

とにかく救いがなく、真っ暗なオペラ。

だけど、初期ヴェルディの音楽は力強く、筋は暗いけど、音楽を聴いている分にはむしろ高揚感が増してきます。

 

まだ若い時代のヴェルディなので、ロッシーニやドニゼッティの影響が色濃く、各場面ではアリアとカバレッタがセットで演唱されるベルカント様式。

 

プレトークでも説明されてましたが、これがヴェルディに書かせると本当に歌手にとって超絶的に難しい。濃厚で重厚なアリアに続いて、低音から高音まで速いテンポで超絶技巧を要するカバレッタと、歌手泣かせなこと極まりないと。

 

きょうは主役3人は見事な歌いっぷりでした。とくにコンタリーニ役の西本真子さんはヴェルディのソプラノに必要な強靭さと、軽やかに声を転がすアジリタの技術とを見事に両立させていて素晴らしかったです。

 

フランチェスコ役の押川さんは、声は素晴らしいバリトンなのですが、この老け役を演じるにはちょっと若いか。かつらやメイク、猫背で一生懸命演じてましたが、どうしても35年総督を勤めてきた重鎮に見えてこない。

 

実演機会が少ないこの作品ですが、この役に魅了されるバス・バリトン歌手は多いのか、録音や映像では、ピエロ・カップチルリやレナート・ブルゾン、レオ・ヌッチなど錚々たる歌手陣のものを聴いている(いずれも涙を誘う名唱)ので、やる方は大変ですけどね。

 

ヤコボ役の海道さんはよく声が通るテノール。きょう一番声援をかっさらってました(…団の後輩連中のサクラっぽかったけど)。

 

伊香氏の演出は、プログラムにあれこれ書いてありましたが、「ヴェネツィア共和国が今日まで存在していると仮定して」なんて書いてあって不吉な予感もしたのですが、取り立てて音楽を邪魔するようなものでなく平凡でしたが、第2幕クライマックスでの判決の場面での、フランチェスコの演説に、今風の演台とマイク(3本)を設置したり、第3幕冒頭サン・マルコ広場での若い連中たちが記念撮影をセルフタイマーでカメラに収まるなど、小手先で現代を見せるさまは鼻白みました。

 

田中祐子さん指揮の東京フィルが熱演。若きヴェルディの力強い音楽を見事に体現していて、所々冗長になりかねないこのオペラを弛緩させず牽引してました。藤原・二期会・新国の混成チームによる合唱も良かったです。

 

ヴェルディ初期の珍しいオペラを(一部演出のしょぼさはありましたが)きちんとした形で実演に接することができ、本当に良かったです。