LP「アビイ・ロード」発売50周年ということで、記念CDやLPも発売され、巷では「アビイ・ロード」の話題でいっぱいです(笑)。発売50周年記念として、このLPジャケット写真に関する記事を報告します。非常に細かい話が出てきますが、最後までお付き合いください(笑)。
93年にポールのCD「ポール・イズ・ライヴ」が発売されました。このCDのジャケットはポールが犬に引っ張られながらアビイ・ロードの横断歩道を渡るというLP「アビイ・ロード」のパロディ・ジャケットとなっています。またCDタイトルや写真に写る自動車ナンバーなど、ポール死亡説に絡んだ小ネタも網羅されていて、発売当時は話題になりました。
このジャケットの写真の背景は93年当時の写真ではなく、LP「アビイ・ロード」のジャケット写真が撮影された69年8月の写真が使用されており、ポールと犬の写真が69年撮影の背景の上に合成されています。ポールと犬が撮影された際の背景も含む実際の写真も公開されており、プロモCDのジャケットに使用されています。93年の写真では、横断歩道の中央線等がジグザグに変更されていることが分かります。
<CD「ポール・イズ・ライヴ」ジャケット写真>
<CD「ポール・イズ・ライヴ・アルバム・サンプラー」ジャケット写真>
では、CD「ポール・イズ・ライヴ」ジャケット写真の背景は、LP「アビイ・ロード」ジャケットに使用された写真の背景が使用されているのでしょうか。2つの写真を見比べると、かなり似ていますが異なる写真であることが分かりました。大きな違いとしては、以下の点です。
<CD「ポール・イズ・ライヴ」写真のLP「アビイ・ロード」写真との大きな相違点>
Ⓐ右の駐車車両右に立っている人がいない
Ⓑ右に駐車している一番手前の車(警察車両)がない
Ⓒ右の手前から2台目の白い停車車両がない
Ⓓ車道の奥に赤い車が走っている
Ⓔ左のフォルクスワーゲン奥に駐車の白い車左の人が1人しかいない
以上が大きな違いで、細かい違いですと、上部の木の枝や枝の間から漏れてくる光の大きさが異なります。それではCDの背景写真はどこから持ってきたのでしょうか。
LPジャケット撮影時、LPジャケットに使用された写真以外に5枚、計6枚撮影されたと言われています。まずここで、この6枚の写真を時系列に並べ番号を付けます。横断歩道を合計3往復していますが、ジャケット写真に使用されたのは5枚目の写真⑤です。
<LP「アビイ・ロード」ジャケット用に撮影された写真6枚>
その6枚の写真とCDジャケット写真を比べても、全く同じ背景の写真はありませんでした。CDの背景写真は6枚の写真と同じ角度で撮影されていますので、同じ写真が存在しないとすると、第7、第8の写真が存在するのでしょうか。
しかし、CD写真とアウトテイク写真5枚を詳細に見比べると、部分的に似通った写真があることが分かりました。まず上半分の、主に木々が写っている部分ですが、この部分は5枚の写真のうち最初に撮影された、左から右へ歩き、ポールが下を向いて歩いている写真①に酷似しています。木の枝の傾きが同じで、特に下記の部分の枝は、他の5枚の写真では水平に伸びていますが、この写真①は下方に向いていてCDと同じ写真であることが分かります。
<写真①>
<木の枝の角度の比較(左から、CD、写真①、写真②、写真⑤)>
その他の箇所もほとんど同じですので、木々の部分はこの写真から使用されたのに間違いはないでしょう。また、右側の歩道の手前付近に壁に寄り掛かったような人がいますが、この部分もこの写真と酷似しています。さらに道路奥の赤っぽい車も同じで駐車している一番手前の警察車両も停車していないところも同じです。
しかし、この写真①がCD写真の背景として使用されたとすると、異なる点がいくつかあります。主な違いを列挙すると以下の点になります。
<写真①のCD「ポール・イズ・ライヴ」写真との大きな相違点>
ⓐ右手前に立っている人がいる
ⓑ左のフォルクスワーゲン左に親子連れが歩いている
ⓒ左奥の停車中の白い車の奥から白い車が道路へ出ている
ⓓ右の停車車両の横に白い車が走っている
ⓔ左のフォルクスワーゲン奥に停車の白い車左に人がいない
ここで、ⓐⓑⓒⓓは元の写真①からデジタル処理で削除することは容易だと思われます。もしくは、人や車が写っていない他の5枚の写真から、同じ部分の写真を切り取って部分的に貼り付けることも可能です。
最後のⓔですが、LPに採用された写真⑤にも同じ人は写っていますが、位置が微妙に異なるようです。写真⑥にも同一人物が写っており、こちら写真のほうがCD写真の位置と類似しています。この写真⑥にはこの人物の横に二人の人物が写っていますが、この二人は削除されたようです。
<白い車の左に立っている人(左から、CD、写真⑥)>
以上のことから、CD「ポール・イズ・ライヴ」ジャケット写真の背景は、アウトテイク写真①をベースに、部分的に他の写真を使用して作成したと推測しています。すなわち、下記の写真①の中央の黄色の横線より上部は写真①をそのまま使用し、丸で囲んだ部分(上記のⓐからⓔ)を削除もしくは別の写真に差し替えて作成したのではないでしょうか。
<写真①背景のCD「ポール・イズ・ライヴ」写真用修正箇所(丸で囲んだ部分)>
ここで、このCD写真と同じ写真で非常に興味ある写真が存在します。USカセットのインデックスに使用されている写真で、この写真ではCDやLPには写っていない、かなり上方の木々が写っているのです。LP写真撮影当時、このような高い場所まで撮影していたのでしょうか。
<USカセット「ポール・イズ・ライヴ」インデックス>
写真が小さくて見づらいですが、この写真の上方部分を詳細に調べると、木々の枝に同じ形状の箇所がいくつかあることが分かりました。以下の部分が同じ箇所ですので一例として示します。黄色丸箇所を反転した部分が赤丸箇所であり、星印も同様で、同じ枝の写真を複数の別の箇所に使用していることが分かります。特に楕円で囲んだ箇所は反転して下方にも使用していることが分かります。また、右上方の茶色い建物の一部も、LPに写っている箇所を切り取って貼り付けたようです。
< USカセット「ポール・イズ・ライヴ」写真修正箇所>
以上のことから、カセット・インデックス写真の上部の木々等は、既存の写真の一部を切り取ったり、他から写真を持ってきたりして新たに作成した写真ではないかと推測しています。縦に長いカセット・インデックスのために苦肉の策として既存の写真の上部まで新たに作成したものと思われますが、ビデオ・パッケージになると製作者も細かい木々の追加作業で疲れ、ついにキレたのか、空や道路上をサイケ模様に塗りたくり、木々の枝もパッケージの周り全体に描くような訳の分からないデザインになっています(笑)。
<ビデオ「ポール・イズ・ライヴ」パッケージ>