「…暇なんですか?」
「失礼ね。暇ではないわよ」
「失礼ね。暇ではないわよ」
ピシッとしたスーツで腕を組んでギターを仕舞っている俺達を見下ろして苦笑いした彼女にファンの数人が声をかけてくる。
年齢も職業も全然違う彼女たちなのに瞬く間に打ち解けて談笑していた。
相変わらずストリートで歌っている。
固定したファンもついて、ストリートの場所をSNSで発信するとそこに聴きに来てくれる。
足を止めて聴いてくれる人も増えてきた。
スーツの女性は以前コンテストに参加した時に声をかけてくれた音楽事務所の社長だ。
事務所を構えている都心からは離れたこの街まで足しげく通っては俺たちの歌を聴いてくれる。
ありがたいな、と素直に思う。
年齢も職業も全然違う彼女たちなのに瞬く間に打ち解けて談笑していた。
相変わらずストリートで歌っている。
固定したファンもついて、ストリートの場所をSNSで発信するとそこに聴きに来てくれる。
足を止めて聴いてくれる人も増えてきた。
スーツの女性は以前コンテストに参加した時に声をかけてくれた音楽事務所の社長だ。
事務所を構えている都心からは離れたこの街まで足しげく通っては俺たちの歌を聴いてくれる。
ありがたいな、と素直に思う。
「そろそろ返事しなきゃだよな」
真夜中のファストフード店で値段相応の味のコーヒーを飲みながらそう言うとキュヒョンが頷く。
「だよね。返事はいつでもいいって言ってくれたけど」
キュヒョンは窓の外に視線を向ける。
どうやら俺たちがいつものようにファストフード店に入ったのを確認してファンの子達が帰り始めたようだ。
手を振る彼女たちににこやかに手を振って、キュヒョンはミルクティーに口を付ける。
ふっと溜息を吐き出した社長はこちらに気づくと店内に入ってきて俺たちの横のテーブルについた。
手を振る彼女たちににこやかに手を振って、キュヒョンはミルクティーに口を付ける。
ふっと溜息を吐き出した社長はこちらに気づくと店内に入ってきて俺たちの横のテーブルについた。
「今日もいい声だったわね」
「ありがとうございます」
「私、やっぱりあなたたちの曲も声も好きだわー」
「ありがとうございます」
「私、やっぱりあなたたちの曲も声も好きだわー」
ふふっと笑って彼女はコーヒーを飲む。
「…別に返事を急げって催促してるわけじゃないのよ」
「はい」
「だって断られたとしても何度だってくるつもりだもの」
「それは…暇なんですか」
「はい」
「だって断られたとしても何度だってくるつもりだもの」
「それは…暇なんですか」
思わず笑って訊ねると彼女はニヤリと笑う。
「だから暇ではないわよ。…小さい事務所だし不安もあると思うから十分考えて。私もスタッフも出来る限りの事はするし、あなたたちが大きくなってうちじゃ手詰まりになるってことになったら移籍することも厭わないわ。だってもったいないじゃない。こんなに素敵な音をたくさんの人に聞いてもらえないなんて」
ああ、この人は。
本当に俺たちの曲を愛してくれているんだ。
本当に俺たちの曲を愛してくれているんだ。
「キュヒョナ」
名前を呼ぶと、彼は顔を上げて笑って頷く。
「クォン社長。よろしくお願いします」
俺の顔とキュヒョンの顔を驚いたように見て、次の瞬間勝ち誇ったように笑った。
「任せて。契約書類もすぐに用意するわ」
そうして俺達は一歩進むことにした。
キュヒョンは親の説得も大変だったようだ。
それでも一緒に歌ってくれることを選択してくれた。
住み慣れた場所から離れて、事務所が与えてくれたアパートは隣同士で。
正直。仕事もプライベートもずっと一緒ってのはどうなんだろうと思ったけれど、何故だか今までとなんら変わらない感じがする。
それもそうか。
今までだってほぼほぼ一緒に居たんだっけ。
キュヒョンは親の説得も大変だったようだ。
それでも一緒に歌ってくれることを選択してくれた。
住み慣れた場所から離れて、事務所が与えてくれたアパートは隣同士で。
正直。仕事もプライベートもずっと一緒ってのはどうなんだろうと思ったけれど、何故だか今までとなんら変わらない感じがする。
それもそうか。
今までだってほぼほぼ一緒に居たんだっけ。
デビューしたからと言って生活がガラリと変化するわけでもない。
イベントライブやストリートで歌うことも変わらない。
スケジュール管理も諸々の経理も自分たちでやらなくてもよくはなったので、その点では歌うことだけに集中できてありがたい。
イベントやライブで販売させてもらっているCDの手売り販売数は事務所のみならずレコード会社も驚かせているのだと社長が楽しそうに笑った。
イベントライブやストリートで歌うことも変わらない。
スケジュール管理も諸々の経理も自分たちでやらなくてもよくはなったので、その点では歌うことだけに集中できてありがたい。
イベントやライブで販売させてもらっているCDの手売り販売数は事務所のみならずレコード会社も驚かせているのだと社長が楽しそうに笑った。
今日は雨が音もしないような降り方をしていて、とくにライブの予定もなかったから、夕方にはストリートでもやろうかなんて話をしていたけれど流石に中止だ。
事務所で手伝いでもしようかと思ったら社長に次のアルバムの曲でも作りなさいと言われた。
うん、要するに暇だ。
とりあえずギターを鳴らしてはいるけれど、今はメロディーも思いつかない。
窓の方に視線を向けるとキュヒョンが本を読んでいて、雨の様子を窺うふりをしてその横顔を見る。
いつも隣にいるから見慣れているはずなのに、雨のせいか淡く青い部屋に居る彼はどことなく幻想的だ。
そもそも読書するなら自分の部屋でもよさそうなものなのに。
目を閉じる。
キュヒョンがここに居るだけで優しい空気が溢れて、その空気ごと抱きしめられているような温かさにほっと息を吐く。
鼓動や息遣い、それがメロディーになって響いた。
事務所で手伝いでもしようかと思ったら社長に次のアルバムの曲でも作りなさいと言われた。
うん、要するに暇だ。
とりあえずギターを鳴らしてはいるけれど、今はメロディーも思いつかない。
窓の方に視線を向けるとキュヒョンが本を読んでいて、雨の様子を窺うふりをしてその横顔を見る。
いつも隣にいるから見慣れているはずなのに、雨のせいか淡く青い部屋に居る彼はどことなく幻想的だ。
そもそも読書するなら自分の部屋でもよさそうなものなのに。
目を閉じる。
キュヒョンがここに居るだけで優しい空気が溢れて、その空気ごと抱きしめられているような温かさにほっと息を吐く。
鼓動や息遣い、それがメロディーになって響いた。
「シウォナ、今のすっごく綺麗なメロディーだね」
本から視線をこっちに向けるキュヒョンに手招きすると、小首をかしげて隣に来て座る。
「何?」
「何でもないけど、隣にいてくれた方が曲ができそう」
「変なの」
「何でもないけど、隣にいてくれた方が曲ができそう」
「変なの」
クスリと笑ってその呼吸さえ音になる。
「…すっごいラブソングになるよ、これ」
「ラブソングなの?」
「うん」
「へぇ…楽しみ」
「と、いうことで協力して」
「は?…って、ちょっと…」
「ラブソングなの?」
「うん」
「へぇ…楽しみ」
「と、いうことで協力して」
「は?…って、ちょっと…」
その柔らかな唇にも音を響かせて。
多分、人に聴かせるのすらもったいないくらいのラブソングができるはずだ。
多分、人に聴かせるのすらもったいないくらいのラブソングができるはずだ。