どうしていつもこうなんだろう。
座ったまま、リュクサックを抱えて思う。
昔から引きは弱かった。
外れくじばかり引いていて、当たりなんて一度も見た記憶がない。
唯一の当たりは先日エントリーした漫才のコンテストで見事に優勝を手に入れたことくらい。
あれだって相方だったボアのお蔭だ。
どうせ俺なんて…。
そう思うことが間違いだとボアにも散々教えられたけど、やっぱり今の状況じゃそう思うしかない。
やっぱり俺なんて…。
そう思ったところで怒鳴り声が聞こえた。
座ったまま、リュクサックを抱えて思う。
昔から引きは弱かった。
外れくじばかり引いていて、当たりなんて一度も見た記憶がない。
唯一の当たりは先日エントリーした漫才のコンテストで見事に優勝を手に入れたことくらい。
あれだって相方だったボアのお蔭だ。
どうせ俺なんて…。
そう思うことが間違いだとボアにも散々教えられたけど、やっぱり今の状況じゃそう思うしかない。
やっぱり俺なんて…。
そう思ったところで怒鳴り声が聞こえた。
「聞いてるのか!この野郎!!」
今は今で電車の中で酔っ払いに絡まれている最中だ。
最初はつまらないことだったのに、今は俺の態度が気に食わないだとか集中攻撃だ。
小さく溜息を吐く。
絡まれ始めてかれこれ5分程経っていて、同じ車両に乗り合わせた乗客も、離れた場所から見ているだけだ。
まあ、自分が逆の立場でも助けるかと聞かれると困るので、その人たちに文句を言うつもりは毛頭ない。
暖簾に腕押し
糠に釘
そんな感じで俺が何の反応も示さないのに腹を立てたのか、酔っ払いのおじさんが腕をあげた。
ヤバい!
きゅっと目を閉じて、首をすくめる。
…あれ?
予想していた衝撃が一向に来なくて恐る恐る目を開けると、時間が止まったかのように同じ体制の相手がいた。
最初はつまらないことだったのに、今は俺の態度が気に食わないだとか集中攻撃だ。
小さく溜息を吐く。
絡まれ始めてかれこれ5分程経っていて、同じ車両に乗り合わせた乗客も、離れた場所から見ているだけだ。
まあ、自分が逆の立場でも助けるかと聞かれると困るので、その人たちに文句を言うつもりは毛頭ない。
暖簾に腕押し
糠に釘
そんな感じで俺が何の反応も示さないのに腹を立てたのか、酔っ払いのおじさんが腕をあげた。
ヤバい!
きゅっと目を閉じて、首をすくめる。
…あれ?
予想していた衝撃が一向に来なくて恐る恐る目を開けると、時間が止まったかのように同じ体制の相手がいた。
「え…?」
よくよく観察すると振り上げた手を背後から誰かに掴まれている。
ああ。そのせいで動けないのか。
ああ。そのせいで動けないのか。
「もう、いい加減にしたらどうですか?」
少しばかり呆れたような声。
振り返ったおじさんは頬をひくりと引き攣らせた。
そりゃあ、そうだ。気持ちはわかる。
自分よりも遥かに身長の高い男に見下ろされたらそうもなるだろう。
しかもとてつもない男前だ。
ヒーローっていうのはこういう人なんだろうなって思った。
振り返ったおじさんは頬をひくりと引き攣らせた。
そりゃあ、そうだ。気持ちはわかる。
自分よりも遥かに身長の高い男に見下ろされたらそうもなるだろう。
しかもとてつもない男前だ。
ヒーローっていうのはこういう人なんだろうなって思った。
「離せ!」
わたわたと手足をバタつかせるけれど、その人は腕を掴んだままでびくともしない。
そして俺に視線を向けて一言「立て」と命令口調で言われて、つい体が反応した。
そして俺に視線を向けて一言「立て」と命令口調で言われて、つい体が反応した。
「あなたも、こういう時は…」
おじさんの手を離すと同時に反対の手で手首を掴まれ、ひっぱられる。
「さっさと逃げればいいんです」
手を引かれるままに走って、そのまま閉まる寸前のドアからホームに飛び降りる。
その瞬間、自分の視界が少しぼやけた。
あ…メガネ…。
背後でドアが閉じる空気音。
振り返ると走り出した電車の中で呆然としたおじさんと苦笑いした乗客たち。
ホームではにこやかに電車に手を振る男前。
そしてくるりと振り返った男前は真剣な顔でアドバイスを始める。
その瞬間、自分の視界が少しぼやけた。
あ…メガネ…。
背後でドアが閉じる空気音。
振り返ると走り出した電車の中で呆然としたおじさんと苦笑いした乗客たち。
ホームではにこやかに電車に手を振る男前。
そしてくるりと振り返った男前は真剣な顔でアドバイスを始める。
「あのですね。僕が言うことではないと思いますが、ああいう人は酒で気が大きくなってるせいで自分が大将だと思い込んでるんです。黙って話を聞いていたら家来が出来たと勘違いするんですよ。だからあんなのに捕まったらさっさと逃げてください。いいですね?」
「分かっては…いるんだけど…」
「分かっては…いるんだけど…」
手の中の眼鏡をぎゅっと握る。
それが出来れば苦労はないのだ。
それより。
俺は自分を助けてくれた彼にお礼を言ってないことに気がついた。
それが出来れば苦労はないのだ。
それより。
俺は自分を助けてくれた彼にお礼を言ってないことに気がついた。
「あ…あの。ありがとうございました」
頭を下げると、相手は少しばかり驚いた顔をして、その後にっこりと微笑んだ。
すごい。
これが少女マンガやアニメなら彼の背後には間違いなく真っ白なバラの花が咲きくるっているに違いないってくらいの王子様スマイルだ。
よっぽどのアホ面で眺めていたのだろうか。
相手も逆にじっとこちらの顔を見つめてくる。
頭を下げると、相手は少しばかり驚いた顔をして、その後にっこりと微笑んだ。
すごい。
これが少女マンガやアニメなら彼の背後には間違いなく真っ白なバラの花が咲きくるっているに違いないってくらいの王子様スマイルだ。
よっぽどのアホ面で眺めていたのだろうか。
相手も逆にじっとこちらの顔を見つめてくる。
「あれ…?眼鏡は?」
「あー…」
「あー…」
握っていた手を慌てて広げる。
さっきホームに飛び降りた衝撃で外れた眼鏡は、まるで見透かされていたかのように誰かに踏まれていた。
俺は絶対世界一引きが弱いと思う。
フレームは歪んで、レンズには見事にひびが入っていた。
さっきホームに飛び降りた衝撃で外れた眼鏡は、まるで見透かされていたかのように誰かに踏まれていた。
俺は絶対世界一引きが弱いと思う。
フレームは歪んで、レンズには見事にひびが入っていた。
「あーぁ。すみません。僕のせいですね」
予想外の台詞に慌てて相手の顔を見る。
「違いますよ。俺がドジったから」
そう言うと相手は眉を寄せて視線をきつくした。
「違うでしょ。僕が無理矢理引っ張り出したからだ。眼鏡の代えかコンタクトありますか?」
「あー。無い、です」
「見えるんですか?」
「大丈夫。そんなに視力は悪くないから…」
「だったらよかった…。ちゃんと弁償しますから」
「あー。無い、です」
「見えるんですか?」
「大丈夫。そんなに視力は悪くないから…」
「だったらよかった…。ちゃんと弁償しますから」
予想外を通り越した。
どうしてこの人が俺の眼鏡の弁償をしてくれるなんて言っているのか理解できない。
だって助けてくれたのに。
あまりのことに言葉も出てこなくて首を横に振って意思表示すると笑って
どうしてこの人が俺の眼鏡の弁償をしてくれるなんて言っているのか理解できない。
だって助けてくれたのに。
あまりのことに言葉も出てこなくて首を横に振って意思表示すると笑って
「そんなに頭を振った眩暈をおこしますよ」
って言われて。
本当にちょっとふらついた。
本当にちょっとふらついた。
「あー。でも、すみません。僕、今日の仕事どうしても遅れられないんで…」
慌てたようにジャケットの胸ポケットを探った彼は紙切れを一枚取り出すとペンで何やら書き殴って俺の手に押し付けた。
「いつでもいいのでその番号に連絡してください。弁償しますから。本当にすみません」
片手で拝むように手を挙げた彼は雑踏の中を泳ぐようにしなやかに消えて行った。
どこまでもヒーローだなぁ。
手の中において行かれたのは彼の名詞で。
でも、その時には眼鏡のことで連絡する気なんてさらさらなかった。
きっと今日は引きの弱い俺を見かねて、神様がひとつくらいは…といい事をプレゼントしてくれたに違いない。
そう思っただけだった。
どこまでもヒーローだなぁ。
手の中において行かれたのは彼の名詞で。
でも、その時には眼鏡のことで連絡する気なんてさらさらなかった。
きっと今日は引きの弱い俺を見かねて、神様がひとつくらいは…といい事をプレゼントしてくれたに違いない。
そう思っただけだった。
「少女マンガみたいな話ね」
「だよね。これで助けられたのが女の子だったらの話だけど」
「だよね。これで助けられたのが女の子だったらの話だけど」
クレープ生地からはみ出した生クリームと苺を口に入れて咀嚼しているとボアが楽しそうな口ぶりで顔を寄せてくる。
あ。ボアは先日の漫才コンテストで優勝した時の相方だ。
別に彼女はお笑いを目指しているとか、そういう人じゃない。
ただ努力するひとを黙ってみていられない、世話好きタイプの見目も可愛い女の子。
俺がこの公園でひとりで練習をしているのを見られてから、なにかと世話を焼いてくれた。
彼女はこの公園のクレープ屋の看板娘で、おしゃべりが上手で人当たりもよくて、そのトーク力はあまりに惚れ惚れするほどで、あのコンテストの時もこっちがかなり無理を言って一度きりと相方になってもらったんだけど。
俺にお笑いにだって努力が必要だと教えてくれた。
その生き方も俺なんかよりずっとしっかりしている。
出来れば相方として漫才をやっていけたらいいなと思ったけどボアはボアで忙しい。
それに彼女は俺に自信を少しだけどくれたから、俺は自分だけでもなんとかお笑いの道を進んでみようと思っている。
あ。ボアは先日の漫才コンテストで優勝した時の相方だ。
別に彼女はお笑いを目指しているとか、そういう人じゃない。
ただ努力するひとを黙ってみていられない、世話好きタイプの見目も可愛い女の子。
俺がこの公園でひとりで練習をしているのを見られてから、なにかと世話を焼いてくれた。
彼女はこの公園のクレープ屋の看板娘で、おしゃべりが上手で人当たりもよくて、そのトーク力はあまりに惚れ惚れするほどで、あのコンテストの時もこっちがかなり無理を言って一度きりと相方になってもらったんだけど。
俺にお笑いにだって努力が必要だと教えてくれた。
その生き方も俺なんかよりずっとしっかりしている。
出来れば相方として漫才をやっていけたらいいなと思ったけどボアはボアで忙しい。
それに彼女は俺に自信を少しだけどくれたから、俺は自分だけでもなんとかお笑いの道を進んでみようと思っている。
「それで?ユノはときめかなかったの?」
「や、だから。相手は男の人だよ?」
「そんなの関係ないわよ。ときめいたか、ときめかなかったのかを聞いてるの」
「や、だから。相手は男の人だよ?」
「そんなの関係ないわよ。ときめいたか、ときめかなかったのかを聞いてるの」
いや、だから、関係なくはないと思うんだけど…。
でもボアに口で勝てるとは思っていないから、美味しいクレープを食べつつ首を傾げる。
ときめいたというのとは違う気もするんだけど…。
でもカッコイイなぁ、と思ったのは事実だ。
でもボアに口で勝てるとは思っていないから、美味しいクレープを食べつつ首を傾げる。
ときめいたというのとは違う気もするんだけど…。
でもカッコイイなぁ、と思ったのは事実だ。
「ドキドキしなかったの?」
「それは、したよ」
「じゃあ、ときめいてるじゃないの」
「それは、したよ」
「じゃあ、ときめいてるじゃないの」
相変わらず楽しそうなボアは銅版の上の生地を綺麗に焼き上げながらそんなことを言ってくるけど、やっぱり違うんじゃない?
そんな事を考えながら、最後の一口を口に放り込んだ瞬間。
聞きたくない声が耳に届く。
そんな事を考えながら、最後の一口を口に放り込んだ瞬間。
聞きたくない声が耳に届く。
「ユノくん見ぃつけた♪」
「ぶはっ!」
「うわぁ…まだ諦めてなかったの、その人」
「ぶはっ!」
「うわぁ…まだ諦めてなかったの、その人」
ニコニコと近づいてくるのは俺の以前の相方だった奴の現在の相方。
あの漫才コンテスト後どこから聞いたのか知らないが、ボアと俺がその場だけのコンビだったことを聞きつけて以来ずっとコンビを組んでくれと迫られている。
正直、とんでもなく迷惑だ。
俺がボアに相方になってくれと頼んだ時もこんな感じだったのかと思うと、今更ながらに申し訳ない気分になってくる。
あの漫才コンテスト後どこから聞いたのか知らないが、ボアと俺がその場だけのコンビだったことを聞きつけて以来ずっとコンビを組んでくれと迫られている。
正直、とんでもなく迷惑だ。
俺がボアに相方になってくれと頼んだ時もこんな感じだったのかと思うと、今更ながらに申し訳ない気分になってくる。
「だから、何度も言ってるけど俺は君とやる気はないっ!大体君の相方はジェジュンだろ!?」
「あいつとはコンビ解消したんだって。君のお笑いにかける情熱は素晴らしいよ!僕たちなら絶対世界一!いや!宇宙一のコンビになれるっ!」
「無理っ!大体僕も君もボケ担当じゃないかぁぁっ!!」
「ノープロブレム!そんな心配はいらない。僕が突っ込みに転向すればいいだけだ」
「そんな簡単な事じゃないだろっ!」
「あいつとはコンビ解消したんだって。君のお笑いにかける情熱は素晴らしいよ!僕たちなら絶対世界一!いや!宇宙一のコンビになれるっ!」
「無理っ!大体僕も君もボケ担当じゃないかぁぁっ!!」
「ノープロブレム!そんな心配はいらない。僕が突っ込みに転向すればいいだけだ」
「そんな簡単な事じゃないだろっ!」
ボアが横から「お笑いなめんじゃないわよ」と厳しい助言をしてくれるものの、聞く耳持たずといった感じだ。
ダメだぁ…。
この人相変わらず人の言う事わかってない。
手に持っていた空になった紙コップをボアに預けるとボアはにんまりと笑う。
ダメだぁ…。
この人相変わらず人の言う事わかってない。
手に持っていた空になった紙コップをボアに預けるとボアはにんまりと笑う。
「頑張れ」
「うん」
「うん」
そして俺は猛ダッシュで走り出した。
とりあえず逃げるに限る。
とりあえず逃げるに限る。
「ユノくんっ!」
「着いてくるなぁぁぁぁっ!」
そう言ったところで簡単に諦めてくれるならここ一か月、この人から逃げる事もなかったのだろうけど。
「着いてくるなぁぁぁぁっ!」
そう言ったところで簡単に諦めてくれるならここ一か月、この人から逃げる事もなかったのだろうけど。
「ユノヒョン!?」
いきなり呼ばれてそちらを向く。
「テミナ!」
「何してるの!?」
「逃げてんだよーっ!」
「何してるの!?」
「逃げてんだよーっ!」
何かに納得したかのように頷いたテミンはスニーカーの爪先でトンっとアスファルトをノックするように軽く蹴ると、次にそのまま地面を蹴ってこちらに走り出した。
「ユノヒョンに触るんじゃねぇっ!!」
そして追いかけてきていた相手に見事なとび蹴りを一発お見舞いした。
「ぐぇ」
まるで蛙が踏みつぶされたかのような声を出して倒れた男を見下ろして、指を鳴らしながら睨みを利かせる。
「僕のユノヒョンに手をだすなっての!」
あ…。
今、またとんでもないセリフを口にしたなぁ、こいつ。
ちょっとだけ頭を抱えたくなる。
今、またとんでもないセリフを口にしたなぁ、こいつ。
ちょっとだけ頭を抱えたくなる。
「それでユノヒョン。なんで追われてたわけ?」
普通理由を聞くのが先だよ、テミン…。
「その人…俺と…コンビ、組んで…くれって」
ぜいぜいと上がった呼吸のまま言葉を繋ぐと、あちゃ、とテミンがばつの悪そうな表情を作った。
「じゃあ、僕、悪いことしちゃったのかな?」
「えっと…正直、助かった」
「だったらいいや」
「えっと…正直、助かった」
「だったらいいや」
にっこり笑ったテミンはとても従弟とは思えないくらいに綺麗な顔をしていて、倒れている男もぼんやりと見惚れている。
そんな彼の前にしゃがみこんだテミンはまるで子供を諭すような口調で。
そんな彼の前にしゃがみこんだテミンはまるで子供を諭すような口調で。
「あのさ。あんたがユノヒョンと組みたいって気持ちはとってもよぉぉぉぉく解るけど、ユノヒョンにその気がないんだから諦めなよ。しつこい男は嫌われるよ?」
ね?と肩を叩かれた彼はこくこくと壊れたおもちゃのように頷くと、慌ててその場から逃げだした。
「一体、何がどうなってんの?」
テミンの後ろからひょっこり顔を覗かせた人物に思わず人差し指を向けてしまう。
「あっ…」
「あーっ!!眼鏡さんっ」
「え?二人とも知り合い?」
「あーっ!!眼鏡さんっ」
「え?二人とも知り合い?」
テミンが相手の顔と俺を見比べるように視線をむけてぽつりと呟く。
「知り合いって言うか…。この前この人に助けてもらった」
「その眼鏡、自分で買ったとか言わないでしょうね!?弁償するって言ったのに連絡してこなかったでしょ!?」
「だーかーらーっ!とりあえず僕に分かるように説明してっ!」
「その眼鏡、自分で買ったとか言わないでしょうね!?弁償するって言ったのに連絡してこなかったでしょ!?」
「だーかーらーっ!とりあえず僕に分かるように説明してっ!」
そうしてあの日の事を今日二回目に話すことになったのだ。