「ふーん…」
ちよっとつまらなさそうにストローを齧りながらテミンが彼をチラリと見遣る。
「そんな目で見るなよ。まさかこの人がお前の愛しの従兄様だとは思いもしなかったんだし」
俺の向かいに座っている彼、シム・チャンミンはそのまま腕を伸ばして俺の眼鏡に触れると眉を寄せる。
「で?これは?」
「代えの眼鏡で…昔使ってたやつなんだけど…」
「昔使ってた?度はあってるんですか?」
「代えの眼鏡で…昔使ってたやつなんだけど…」
「昔使ってた?度はあってるんですか?」
正直これはいわゆる伊達眼鏡ってやつで、全然度の入っていないレンズだったので返事に困っていると大袈裟に溜息を吐かれた。
その様子を見ていたテミンが驚いたように目を瞬かせている。
その様子を見ていたテミンが驚いたように目を瞬かせている。
「ユノヒョン、平気なの?」
「え?何が?」
「だって、今…。まぁ、いいか」
「え?何が?」
「だって、今…。まぁ、いいか」
今度は少し嬉しそうに息を吐き出す。
「いや。僕も失敗したなとは思ってたんですよ。どう見ても自分から連絡してきそうじゃないタイプだなとは思ってたんですけどね。あの時は予約入ってたから急いでたし」
ああ、ほんと失敗した、ため息交じりにまた呟く。
「今日、時間あります?」
「え。あ。ありますけど…」
「え。あ。ありますけど…」
売れない芸人はバイト以外は時間なんてたっぷりある。
「だったら、眼鏡買いに行きましょう。うん。そうしましょう」
「あの。それは、本当にいいんで…。俺、あの時すごく楽しかったし、嬉しかったから」
「嬉しかった?」
「あの。それは、本当にいいんで…。俺、あの時すごく楽しかったし、嬉しかったから」
「嬉しかった?」
意外だといった表情をされて戸惑っていると、テミンが笑う。
「ユノヒョンらしいと言うか…。僕、今日シフト入ってるんだよねぇ、チャンミニヒョン」
「当たり前。お前、うちのナンバーワンだろ」
「うー…。二人にするの嫌だなぁ。チャンミニヒョン。ユノヒョンに変な事しないでね」
「あのな…。お前じゃあるまいし。僕にはそっちの趣味はない。変な心配するんじゃないよ、バカ」
「誰がバカですか」
「あれ、うちの店って…じゃあ、シムさんも…?」
「当たり前。お前、うちのナンバーワンだろ」
「うー…。二人にするの嫌だなぁ。チャンミニヒョン。ユノヒョンに変な事しないでね」
「あのな…。お前じゃあるまいし。僕にはそっちの趣味はない。変な心配するんじゃないよ、バカ」
「誰がバカですか」
「あれ、うちの店って…じゃあ、シムさんも…?」
テミンは歓楽街でも名の知れたホストクラブで働いている。
これだけ綺麗な顔をしているし人あたりもいいのだから、当然人気者で、今では店のナンバーワンの地位を確立していると聞いたことがある。
だったら、シムさんもホストってことか?
これだけ綺麗な顔をしているし人あたりもいいのだから、当然人気者で、今では店のナンバーワンの地位を確立していると聞いたことがある。
だったら、シムさんもホストってことか?
「ああ、でもシムさんもかっこいいですもんね」
飲んでいたコーヒーで咽たのか、咳き込んだシムさんは口元をペーパーナプキンで抑えながら俺に向けた視線をそのままテミンに向けた。
「なんだか…聞いてた以上に強力だな、お前の従兄殿は」
「…テミナ、何か言ったの?」
「別に。僕の従兄のユノヒョンはとっても可愛いとしか言ってません」
「…テミナ、何か言ったの?」
「別に。僕の従兄のユノヒョンはとっても可愛いとしか言ってません」
だから…。
どうしてそういう訳の分からない事を言うのかなぁ、この子は。
どうしてそういう訳の分からない事を言うのかなぁ、この子は。
「…テミナの言ったことは気にしなくていいですから…」
「こいつの言ってる事を気にしてたら付き合っていられませんよ」
「こいつの言ってる事を気にしてたら付き合っていられませんよ」
にこり、と、やっぱり王子様スマイルで。
「それよりテミン。本当に時間ヤバいよ?」
シムさんは腕の高そうな時計の文字盤をテミンに向ける。
「うわっ、本当だ」
椅子を引いて立ち上がると、テミンは俺の肩をポンと叩く。
「眼鏡、買って貰いなよ」
「でも…」
「いいんだよ。チャンミニヒョンはお金なんて腐るほど持ってるんだから。うちの店の人気者に加えて次期オーナーだしねー」
「でも…」
「いいんだよ。チャンミニヒョンはお金なんて腐るほど持ってるんだから。うちの店の人気者に加えて次期オーナーだしねー」
苦く笑ったシムさんは猫でも払うように手を振って
「早く行けよー」
「はぁい」
「はぁい」
それからテミンはいきなり真剣な顔で俺を見る。
「僕が居た方がいいなら後日にしてもらってもいいからね。嫌だったら帰ったって大丈夫だから」
「うん。大丈夫。心配してくれてありがとう」
「うん。大丈夫。心配してくれてありがとう」
テミンは従弟で、いつも兄弟のように傍に居てくれたから、俺がほんの少し前まで酷い対人恐怖症だったのを知っている。
少し笑ってドアを出ていくテミンの背中を見送ってからシムさんは
「腐るほどって…人の汗と涙の結晶を…」とぼやく。
少し笑ってドアを出ていくテミンの背中を見送ってからシムさんは
「腐るほどって…人の汗と涙の結晶を…」とぼやく。
「まぁ、いいか。それ飲み終わったら行きましょうか。えーと…『ユノ』って呼んでも?ずっとテミンから話を聞かされていたから会って2回目って感じがしなくて…」
照れたような笑みを浮かべたシムさん。
テミン…。ほんとに何を話してるんだろう…。
テミン…。ほんとに何を話してるんだろう…。
「僕はチャンミンって呼んでください。さっきからシムさんって言われるたびになんだかくすぐったくて。だからそれ禁句です。呼び捨てにされるとかならまだしも…慣れない」
首を撫でる仕草に笑うと、彼は再び照れ笑いをして「本当なんですって」と続けた。
そして自分の空になった紙コップをくしゃりと握りつぶして彼は立ち上がる。
そして自分の空になった紙コップをくしゃりと握りつぶして彼は立ち上がる。
「じゃあ、行きましょうか?ユノ」
初めて呼ばれる名前はなんだかくすぐったくて、さっき彼が言ってたのはこういう事なのかなぁ、と納得した。
壊れた眼鏡と同じ黒縁の眼鏡を選んでいたら、横からチャンミン(ここに来るまでに敬称を付けるな、とか敬語で喋るなとか散々注意された。自分は敬語なのにって言い返したら僕のはクセみたいなものなのでお気になさらず、となんだか笑えない笑顔付きで返された)が違うものを持ってくる。
「これは?これも似合いそうですけど」
「これで、いいですって」
「これで、いいですって」
ちょっと不機嫌そうな顔をして
「それはそれ。これはこれ。ちょっと掛けてみてください」
恐る恐る彼が持って来たフレームを掛けると、一緒に鏡を覗き込んだチャンミンが嬉しそうに笑った。
「ほら。似合うじゃないですか」
確かにフレームを見ただけの時より掛けてみると大分印象が違っていて、思ったよりもしっくりとくる。
「気に入りませんか?」
「じゃ、なくて。…なんか…慣れない。こういうお洒落な感じのって」
「そんなものですか?」
「じゃ、なくて。…なんか…慣れない。こういうお洒落な感じのって」
「そんなものですか?」
外したフレームを受け取ったチャンミンが俺の顔をじっと見てくる。
「な…なに?」
「いや…綺麗な顔してるなぁと思って。コンタクトとかしないんですか?」
「コンタクトする程、視力が悪いわけじゃないから…」
「いや…綺麗な顔してるなぁと思って。コンタクトとかしないんですか?」
「コンタクトする程、視力が悪いわけじゃないから…」
そうなんだ、と彼の顔が離れてホッとする。
「綺麗な顔してるのに…もったいない」
なんだろう。
テミンにしろチャンミンにしろ。
綺麗な顔をしている人にそういう事を言われるのはからかわれているみたいで困るけれど、こういう時にそういう発言をすると、更に恥ずかしくなるほどの褒め言葉を聞かされるのはテミンで学習したので黙って聞き流すことにする。
曖昧に笑った俺にチャンミンは二つの眼鏡をプレゼントしてくれた。
一つは壊れてしまった眼鏡と同じフレーム。
もう一つはチャンミンの選んだフレーム。
テミンにしろチャンミンにしろ。
綺麗な顔をしている人にそういう事を言われるのはからかわれているみたいで困るけれど、こういう時にそういう発言をすると、更に恥ずかしくなるほどの褒め言葉を聞かされるのはテミンで学習したので黙って聞き流すことにする。
曖昧に笑った俺にチャンミンは二つの眼鏡をプレゼントしてくれた。
一つは壊れてしまった眼鏡と同じフレーム。
もう一つはチャンミンの選んだフレーム。
「こんなにしてもらう理由がない」
そう言うとチャンミンは笑う。
「僕がプレゼントしたいからいいでしょ?理由が必要だと言うなら次会う時までに考えておきます」
そして別れ際に携帯のアドレスと番号を交換した。
前にくれた名詞の番号は「営業用」だったらしい。
前にくれた名詞の番号は「営業用」だったらしい。
「じゃあ、ユノ。また」
そう手を振って。
でもやっぱり俺はまだ「また」なんて言葉を使えないんだ。
でもやっぱり俺はまだ「また」なんて言葉を使えないんだ。