2019/10/3追記

2019.7.1施行の改正民法1014条2項により,

遺言執行者が特定財産承継遺言(いわゆる「相続させる」旨の遺言)

による相続登記の申請をすることができることとなり

立法的解決が図られました。

ただし、改正1014条2項は,施行日後に開始した相続であっても

施行日前に作成された遺言書には適用されませんので,ご注意を。

https://ameblo.jp/bourg/entry-12530415558.html

 

改正民法第千十四条

2  遺産の分割の方法の指定として遺産に属する特定の財産を共同相続人の一人又は数人に承継させる旨の遺言(以下「特定財産承継遺言」という。)があったときは、遺言執行者は、当該共同相続人が第八百九十九条の二第一項に規定する対抗要件を備えるために必要な行為をすることができる。

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以下は2019.6.30以前に作成された遺言書の話です

先日、昔お世話になった東京の先輩司法書士から

「遺言書に、遺言執行者が相続登記の申請できるって記載があれば

遺言執行者も相続登記の申請できるよね?」

って聞かれました。

 

普段、私は相続させる旨の遺言の場合、受益相続人から

直接委任を受けてますんで、調べたことがないテーマでした。

直感的には、書いてあればできるんじゃないのって思ったんですが

調べてみると、これを肯定する文献が、なかなか見つからず・・・

平成11年最高裁判決

まずは復習から。

最判平11.12.16は、相続させる旨の遺言の受益相続人に

「当該不動産の所有権移転登記を取得させることは、

民法1012条1項にいう『遺言の執行に必要な行為』に当たり、

遺言執行者の職務権限に属する」

とし抽象的には相続人への所有権移転登記は遺言執行者の

職務権限に属すると認めながらも

「もっとも、登記実務上、相続させる遺言については

不動産登記法二七条(現行法62条)により甲が単独で

登記申請をすることができるとされているから、

当該不動産が被相続人名義である限りは、

遺言執行者の職務は顕在化せず、遺言執行者は

登記手続をすべき権利も義務も有しない」

とし、遺言執行者による相続登記の申請を否定しました。

登記実務

登記実務は、上記最高裁判決より前から

いわゆる香川判決(最判平3.4.19)を受けて

「遺言執行者は、相続を原因とする所有権移転登記の申請をするについての

代理権はない」(登記研究523号140頁)とされてきました。

権限付与の記載がある場合は?

では、遺言書に

「遺言執行者は、本件相続に関する所有権移転登記手続

、、、その他本遺言執行に必要な一切の権限を有する」

旨の記載がある場合にはどうでしょうか?

実際先輩司法書士がもっている公正証書遺言は

こういう文言になってました。

 

上記最判・実例にはこの点は言及されていません。

都市部では遺言執行者が弁護士のケースで、こういう遺言が結構あるようです。

また、近年、私も、受益相続人が重度の引きこもりだったり障害があったりして、

委任状に押印をもらうのが難しいケースも出てきたので

これができると便利だなと思い、調べてみることにしました。

 

うちにある文献にはなかなか記載が見つからず

カウンター相談Ⅲの目次に「相続させる遺言と遺言執行者の権限」

とあったので、調べてもみましたが、上記平成11年最高裁判決の解説だけで

遺言書に相続登記申請の権限付与の記載があるときについての

記述はありませんでした。

 

判例に目をやったみたところ、最高裁判例で

相続させる旨の遺言のあった賃貸中の不動産の引渡、占有管理について

遺言執行者に権限あるか否かの点につき

「遺言書に当該不動産の管理及び相続人への引渡しを遺言執行者の職務とする旨の

記載があるなどの特段の事情のない限り」遺言執行者は管理・引渡義務を負わず

賃借権確認請求訴訟の被告適格は、遺言執行者ではなく相続人が有する

とする判決がありました(最判平10.2.27)。

 

なぜ記載があると権限になるのかという根拠は示してないので

判例の射程が測りずらいですが、根拠はおそらく民法1012②→644でしょうか。

ただ、この判決で法務局を説得できるかといえば、、、無理じゃね?

しかも、この判決のあとに出た上記平成11年最高裁判決は

特段の事情についての言及がないんですよねショボーン

 

先輩司法書士と、ちょっと厳しいですかねーとあきらめかけていたんですが

前々回の投稿

「相続人不存在を回避するために清算型遺贈は使えるのか?」

の調査の際に購入したとっても使える文献

「第2版 家庭裁判所における成年後見・財産管理の実務」

の582頁にこの点について記載がありました。

ちょっと長いですが,そのまま引用します。

 

雨宮則夫「遺言執行者の職務権限について」(判タ1380号35頁)

「遺言事項について、その遺言執行行為と認められる事項について、

遺言者が自己の遺言が円滑に実行されることを願って

遺言執行者に権限を与えることはよくあることであり、

その事項が違法無効なものでない限りは認めてよいと思われる。

したがって、遺言者が遺言執行者に登記権限を与えると記載してある場合には、

受益相続人が単独で登記できることではあるけれども、

遺言執行者も遺言者からの授権により、受益相続人の登記権限と競合併存して

登記することを認めてなんら差し支えはないし、

それこそが遺言者の意思であるということができる。」

 

一応ズバリ「できる」とする文献が見つかりました😊

ただ、登記実務家が見る雑誌じゃなくて、法曹が見る判例タイムズなんですよね。

雨宮則夫さんって方も、元裁判官の弁護士で、特に法務省に影響力のある方って

わけじゃなさそう。

弁護士のツイッターにもあるとおり、裁判官に対しても自分のところの

ルールを曲げない法務局をはたしてこの文献で説得できるかどうか、、、

 

先輩司法書士は法務局に照会かけてみると言ってましたが

照会かけるとだいたい無難な方法を勧められるので

私ならば申請だしちゃうかなニヤリ

申請出さないと、役所は本気で考えないからね。

 

結果報告がきたら、このブログでお知らせします。

また、こういう類の論点の場合、やってる方は

「普段フツーにやってるけど何か?」

って拍子抜けするパターンのような気もします。

どなたか、できてるよ!って方がいらっしゃったら、

この投稿後何年たってても構いませんので、是非コメントください!

 

2018/12/14追記

先輩司法書士から連絡があり

事前照会ではダメとの回答だったとのこと。

まあ、予想された反応ではあります。

法務局名を聞くの忘れましたが

おそらく東京都内のどこかだと思います。

誰かが申請出して突破口を開くしかないですなぁ(笑)

ねぇ、パイセン!