最初におさらいをしておくと、中国と台湾の関係は昨日書いたように、1971年までは台湾が国連で中国を代表する主権国家でした。
ところがニクソンアメリカと国連が勝手に、中華人民共和国を中国を代表する唯一の国家とし、台湾を排除し、中国の一部としてしまったのです。
ですから 中華民国台湾は、中国の一部などとは認めておらず、「主権独立の民主国家であり台湾の民主選挙によって選ばれた政府のみが、国連体系を含む国際社会において台湾に住む2,350万人の人々を代表する権利を有する」としています。
全く酷い話ですが、‟国連総会第2758号アルバニア決議”をぜひご一読ください。
さて本題に入りますが、台湾有事の大きなキーポイントがTSMCです。
といっても日本ではTSMCという会社を知らない人が殆どで、熊本に工場を作ると言われれば、「ああ、あの会社!」と思う人が多いのではないかと思います。
現在の半導体企業は設計をするファブレスと、ファブレスから注文を受けて製造するファウンドリに分かれますが、TSMCは世界最大かつ他の追随を許さない技術力を誇るファウンドリ企業で、アメリカも中国も喉から手が出るほど欲しい企業です。
半導体というとトランジスターやダイオードのようなものを思い浮かべるかも知れませんが、TMSCが他の追随を許さないのは、下図のSOC(System On a Chip)のような最先端の集積回路です。
出典:【CPU(SoC)編】ARM系CPUが市場を席巻(注:この記事は2011年の記事なので現在は勢力図が塗り替わっています)
現在はSOCをチップと呼ぶ事が多いですが、例えばiPhone のチップはアップルが設計し、TSMCが製造し、中国でiPhoneを組み立てています。
チップの回路幅が狭いほど高集積で高性能かつ低消費電力となりますが、現在日本企業が製造できるのは40ナノメートル(1㎚は10億分の1メートル)程度まで。
そしてTSMCが熊本に工場を建てて製造するのは20㎚で、2世代遅れです。
現在10㎚以下の半導体を製造できるのはTSMCと韓国のサムスンのみで、iPhoneの5㎚のチップを製造できるのはTSMCのみです。
最新のiPhoneのチップのA15Bionicは縦横9㎜くらいの小さなチップですが、150億個のトランジスターからなり、動作速度15.8兆回/秒と、世界最小の回路幅で最高の性能です。
このチップはどのような工場で作られているか?
世界最大のチップ製造工場について、次の動画をご視聴ください。
残念ながら英語ですが、日本語字幕を表示することが出来ますのでご利用ください。
日本語字幕表示方: 設定から次の順にクリックしてください
TSMCの世界シェアは56%ですが、台湾はTSMCだけでなく UMC(聯華電子)などもあり、2022年の予測は66%となります。日本は「その他」の9%の中です。
【半導体受託生産世界シェアの2022年予測】
出典:「台湾の半導体受託生産世界シェア、22年は66%に拡大へ 中国・台湾」
さらにアンドロイドTVやスマホなど家電のSOCで強いのも台湾のメディアテックです。
日本のテレビにもメディアテックのSOCが入っています。
そして半導体をめぐり米中の縄張り争いが続き、その鬩ぎ合いの焦点がTSMCです。
コロナ禍と、さらにロシアのウクライナ侵略で地政学的な軋轢が加わり、台湾有事の危機となっていますが、はたして中国は比類なき台湾企業を破壊する軍事行動をとるだろうか?
‟中国製造2025” でアメリカに対抗できる製造強国、軍事強国を目指す中国にとって、TSMCと台湾半導体企業はぜひとも無傷で欲しいのではないでしょうか。
ですから台湾が早々に降伏するような見通しが無い限り、中国は軍事侵攻しても失うものに比べて得られるものが少なすぎると思います。
またもしそのような事態が起きた場合、世界中の企業が止まってしまうような事が起きるかも知れません。