最近立て続けに起きている大型車のタイヤ脱落事故。
じつは大型車のタイヤの取付方法(ネジ方式)にはJIS方式と新ISO(ISOは昔はInternal Standard Orderといいましたが、現在は International Organization for Standardization といいます。要するに国際標準規格です) 方式があり、新ISO方式に切り替わった2010年の翌々年から脱落事故が増加しています。
さらに脱落の96%が左後輪で起きています。
これを見るとJIS方式から新ISO方式への変更が脱落に何らかの因果関係がありそうに見えますが、その原因として疑われているのがネジ方式の変更です。
図は新ISO方式。出典:新・ISO方式ホイール 取扱いガイド取扱いガイド
JIS方式では左側タイヤのホイールナットは逆ネジ(左ネジ)でしたが、新ISO方式では左右とも同じ右ネジとなっており、左車輪のホイールナットにはタイヤの回転により緩む方向の力がかかるのではないかという意見があります。
例えば扇風機のファンは前から見て時計方向に回りますので、ファンの抵抗力は反時計方向に働きます。従ってファンを固定するナットが右ネジだと緩める方向に力が作用するので、逆ネジ(左ネジ)となっています。
そして左タイヤは走行時反時計方向に回転しますが、JIS方式では回転で緩まないように左ネジとなっているという意見がもっともらしく聞こえますが、私はそれは理屈に合わない話だと思います。
- レースカーのように車輪の中心の1個のナットで固定するセンターロックホイールならそれも言えますが、大型車のタイヤのようにハブに10本ものスタッドボルトで取りついているタイヤのホイールナットに、走行により特定の方向に回転力がかかるとは思えません。
- さらに言えばレースカーのセンターロックホイールだって駆動時を優先して考えるか、制動時を優先して考えるかで結果は逆になり、右車輪が逆ネジの車両もあれば、左車輪が逆ネジの車両もあります。
この車両は右輪が左ネジです。
車輪の回転方向を考えると逆じゃないかと思うでしょうが、後輪の駆動力を考えると扇風機の左ネジと同じ原理になるということでしょうか。
逆に制動時に働く力を考えると左輪が左ネジとなるようです。
ではJIS式はなぜ左車輪が逆ネジかと、調べてみましたが答えは見つかりませんでした。
またなぜ左後輪ばかりが脱落するのかも分かりませんが、国交省は次のように考えているようです。
- 右折時は、比較的高い速度を保ったまま旋回するため、遠心力により積み荷の荷重が左輪に大きく働く。
- 左折時は、低い速度であるが、左後輪がほとんど回転しない状態で旋回するため、回転方向に対して垂直にタイヤがよじれるように力が働く。
- 道路は中心部が高く作られている場合が多いことから、車両が左(路肩側)に傾き、左輪により大きな荷重がかかる。
新ISO方式が原因かも含めて調査中ですので、調査結果を待ちたいと思います。
原因の究明は国交省に任せるとして、ホイールナットの緩み防止策に注目してみます。
ホイールナットの緩みと脱落といっても、10個のホイールナットがいっぺんに緩んで外れるような事はありません。
一個、また一個と順に緩み、最終的に全てのナットが緩んで落ちるのです。
ですから緩み始めや進行中に発見できれば、タイヤ脱落事故は防げます。
そしてこちらは改善すべき点がいくつかあるように思います。
まずこのような点検方法を運転前に毎回運転手さんに行えというのは非現実的でしょう。
それよりはこのようにスリッページマークを義務付け、一目で緩みが分かるようにした方が良いでしょう。ナットに規定トルクをかけた後、このようにマーキングをします。
これなら毎仕業前にも、またサービスエリアで休憩した後などでも、簡単にチェックできます。
またボルトやナットの緩み防止策は何種類もあります。
もう少し工夫したらどうかと思います。
緩み止めの代表的な方法としては、ダブルナット、セーフティワイヤー、カッターピンなどがありますが、作業性を考えるとこれらは難しいでしょう。
あまり手間のかからないものではセルフロックナットという、緩み防止機構の付いたナットがあります。
これなら少なくとも1輪に10個ほどのナットが、全て一度に緩んで脱落して、タイヤ外れるような事はあり得ません。
さらに緩み止めの座金(ワッシャー)もあります。
これは ノルトロックワッシャーといって、スウェーデンのノルトロックグループ(NORD-LOCK GROUP)AB社および同社現地法人が製造販売する緩み止め用の平座金です。
全世界で使用されていますが、その製造はマットマルというスウェーデン北部の街のみで行われています。ノルトロックワッシャーそれぞれにシリアルナンバーがレーザーで刻印されていて、そのコントロール番号からロットが特定できるのでトレーサビリティにも優れています。
2枚が一組ですが、使い方は一般の平座金と同様にとても簡単です。
また潤滑油を使用した箇所でも緩み止めの性能は変わらないとの事です。
タイヤ交換ではボルト、ナット、ナットとワッシャーの間にオイルを塗布しますが、ナットが緩みやすくなることは十分考えられます。
しかしこのナットならオイルがついても緩み止め効果が変わりません。
精神論のような対策だけでなく、脱落防止のために実効性のある対策を講じたらいかがかと思います。