■最新のEVのThermal Management
初代日産リーフは電池を液冷していませんでした。
しかし今や電池の液冷は当たり前。
電池を冷やした後の熱にも注目されるようになりました。
この電池や駆動系から出る熱を回収して室内の暖房に使えば、条件によっては電費を10%くらい改善できるらしいですが、昨年くらいから登場の新型車は、そのためにかなり複雑なシステムになりました。
‟リバースエンジニアリング”の大御所サンディー・ムンロ氏がフォード・ムスタングMach-E(日本語だとマッハEですが、マックE、マッキーと発音した方がアメリカンっぽい)をバラシてThermal Management系と動力系を見て卒倒しましたが、動画をご覧ください。
■評論家大絶賛のポルシェタイカンのThermal Managementは?
さて日本でも発売され、評論家の先生方から「スゴイスゴイ」「世界一のEVだ!」と大絶賛のポルシェタイカンですが、その完成度やいかに?
Thermal Management SYSTEMだけに的を絞ってみて見てみます。
タイカンの電池は93.4kWhですが、ポーチセルという銀色の四角い箱が33個、その中には各々12個の電池が入り、トータル396個の電池からなります。
そして写真のポーチセルの下にはFoot Garageという黒い収納フレームがあり、その下にThermal Managementの配管がありますが、見た感じでは、あまり冷却性能が良さそうには見えません。
下図のように電池だけでなくモーターも冷却し、ヒートポンプやコンデンサー、エバポレーター、ラジエターなども一緒の回路になり、熱を無駄に捨てないようにしています。
出典:The battery: Sophisticated thermal management, 800-volt system voltage
■残念ながらレースでは電池の冷却能力不足
そしてその実力は?
一番心配なのは電池の冷却能力ですが、一般走行では実力は見れませんので、EVレースを見てみましょう。
というと車好きの人は「‟ポルシェタイカンはニュルブルクリンク・サーキットで電動4ドアセダンのコースレコードを出したのを知らんのか!”」というでしょうが、8分弱では電池の冷却能力は分かりません。
ところが全日本EVレースでは第1戦、第2戦共に、10分と経たずに中盤で失速し、テスラモデル3に敗れています。
そして第3戦もやはり・・・・・・電池の冷却能力が低く、10分も経たずに電池温度が上がってしまい、カメさんモードとなります。
※フェンダーがオレンジのNo.33の車両がポルシェタイカンです。
名門Gul Racingのチームタイサンからの参戦ですから、チューニングには問題が無いと思います。
EVレースではエンジンが全く別物のガソリン車と違って、レース車の動力性能は一般車と変わりません。違うのはタイヤとサスペンション、ブレーキなど足回りですので、市販車の性能を判断しやすいです。
やはり極限状態になるとEVに対する経験の差が大きいようですが、高度な機械になればなるほど最初から完璧な物など無く、少しずつ不具合を潰しながら向上してゆくものです。
「EVなんて簡単なもの、日本メーカーが作り始めればすぐに追いつける」と思っている人も多いかと思いますが、ポルシェでさえこの状態。
後発が追い付くのは大変だと思います。
■テスラモデルYのThermal Management
Thermal Managementで現在最も進んでいるのはテスラモデルY ですが、その肝となるのが、オクトバルブと呼ばれる8ウェイバルブです。
このオクトバルブが自動的に切り替わり、エアコンや駆動モーターの冷却、電池の温度管理を行います。
しかし作動を説明するだけで、これだけの動画になります。
よくこんなややこしいものを作ったと感心します。
今のままでは日本はEVガラパゴス。
自動車メーカーは国内ではエンジン車を作るでしょうが、欧米や中国ではEVに転換せざるをえません。
そうなると設計部門、製造部門の拠点を、EVガラパゴスの日本から海外に移すようなことになるかも知れません。