昨年エンゲル係数の上昇が話題になりましたが、1月31日に国会で取り上げられたことにより、また一部で話題になっているようです。
エンゲル係数はよく知られているように「 1世帯ごとの家計の消費支出に占める飲食費の割合(パーセント単位)」です。
この数字の意味するところにはいろいろな要因があるでしょうが、総務省統計局の「よくある質問」に書かれているように一般的にはエンゲル係数が低いほど生活水準が高い、逆にいえばエンゲル係数が高いほど生活水準が低いといわれます。
■総務大臣の答弁.
しかし総務大臣の見解は統計局とは少々異なるようです。
さらに総理は「 食への消費が拡大し景気回復したから 」と捉えているようですが。
■エンゲル係数の推移
総務大臣の見解の是非はさておき、エンゲル係数はどのように推移しているかというと2016年はググっと上って29年ぶりの高水準となりました。(2017年はまだ分かりません)
出典:毎日新聞「エンゲル係数 29年ぶりの高水準 16年25.8%」
実はこの話題が一番盛り上がったのは昨年で、2016年の数値を見て「アベノミクス開始以来、生活水準は低下しているのではないか?」という声があがりました。
それに対して「エンゲル係数上昇は生活水準の低下を意味しているのではない!」という記事がエコノミストやアナリストなどから次々と出されましたが、それらを要約すると次の様な理由になるようです。
(1)円安による輸入食品の値上がりによる
(2)高齢化による世帯構成の変化による
(3)食生活スタイルの変化による
①グルメ化している
②共稼ぎによる総菜増
(4)原油価格の下落などによるガソリンを含む「自動車等維持」や「電気代」の支出減による
(5) 2014年4月の消費税率引き上げに伴う「需要の先食い」による
この(1)から(5)までについては後ほど考えてみますが、その前に見ていただきたいのが「家計貯蓄率」です。
■家計貯蓄率
家計貯蓄率:家計貯蓄(純)÷(家計可処分所得(純)+年金基金年金準備金の変動(受取))
家計可処分所得 : 所得のうち、税金・社会保険料等を除き個人が自由に処分でき、消費や貯蓄に回すことのできる部分
家計貯蓄率は2007年度に一度谷底に落ち、その後2010年度まではリカバーしましたが又さらに落ち込み2013年度にはマイナスまで落ちています。
この間リーマンショック、米国債ショック、東日本大震災、政権交代といろいろありました。
民主党政権のせいだ、アベノミクスのせいだ、いや外的要因のせいだといろいろな意見が有ると思いますが、そういうことはさておいて、これから分かる事は貯蓄のために消費を抑えているのではなく家計収支に余裕が失われている、むしろ貯蓄を抑えるあるいは切り崩して消費しているということです。
下図出典:http://www.garbagenews.net/archives/1325243.html
この家計貯蓄率を前提に上に挙げられたエンゲル係数への影響を考えてみたいと思います。
それでは・・・・・・
■円安による輸入食品の値上がりの影響か?
総務省の消費者物価指数によると、食品全体の価格は2016年は平均で1.7%上昇しました。(NHK NEWS WEB「今なぜ上昇?エンゲル係数」より引用)
確かに食品値上がりによる影響は否定できませんが、全体の民間消費支出を見ると2015年、2016年ともに対前年比で低下しています。
消費が減っている中で食費が増加しているという事は、理由はどうあれ、やはり生活水準は低下したような気がしますが・・・・・・
■高齢化による世帯構成の変化によるものか?
高齢層は消費支出が減りますから相対的にエンゲル係数が増えるかも知れませんが、収入が少ない高齢者にとってはこれが生活実感といって良いかと思います。
それはさておき高齢化の影響はあると思いますが、高齢化ではこの変化率、特に2015年から2016年への急増は説明できません。
■食生活がグルメ化したか?
まず主要国のエンゲル係数をご覧下さい。
出典:http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/0211.html
主要国のエンゲル係数を見て、「食事が美味しいといわれる国ほどエンゲル係数が高い。つまり日本も食事にお金をかけるようになったからエンゲル係数が上昇した」という人もいます。
しかし、2013年頃からの急激な上昇を見るとこの説明は少々無理があるのではないかと思います。
さらに2017年の外食関連業者の倒産件数は過去最高です。
ここ数年苦しい経営が続いたのではないかと思いますが、とてもグルメ化した国とは思えません。
■共稼ぎが増えて総菜が増えたか?
共稼ぎが増えれば家計の収入も消費支出も増え、総菜等による食費の増加をカバーしてお釣りがくるのでは?( 「エンゲル係数(%)=食料費÷消費支出×100」 )
それとも食費の増加に追いつかない賃金で、こういう労働者で雇用率が向上したのでしょうか。
■原油価格下落などによるガソリンを含む「自動車等維持」や「電気代」の支出減によるものか?
確かに自動車関係費や電気代は下図のように推移していますが、貯蓄率の推移を見て分かるように家計に余裕が無く、物価が下がった分だけ消費が減った結果だと思います。
■2014年4月の消費増税に伴う「需要の先食い」か?
これは2016年の増加を説明できないと思います。
確かに単に生活レベルが下がっている以外にも要因はあると思いますが、生活に余裕が無くなっているのは事実だと思いますし、「グルメ化説」や「共稼ぎが増えた説」はちょっとおかしいと思います。
というように考えてみましたが、あなたはどう思いますか?