親は心のどこかでいつも親らしくありたいと願い、子供もまた親は親であって欲しいと願うものだと思う。
みこちゃんが話してくれたあれこれは、きっと彼女の中で、親としての威厳を保てるギリギリのラインで留めていた様な気がする。
特に恋愛に関しては。
恋愛ほどに醜く、浅はかで、愚かな病気はないからだ。
そして自分が親になった今、やはり娘には全てを語らない、語れないと思っている。
初恋は17歳。その人は20歳だった。
大人であまり相手にしてもらえなかったが、ファーストキスだけは許してもらえたという。
女性になったのは19歳。
写真で見たところ素朴で可愛らしい男性だが、面食いのみこちゃんにとっては押されて付き合った、全く好みではない人だった。
外では威勢を張るが、二人きりになると年上のみこちゃんの言いなり。
唯一スポーツ万能な所は認めていたらしい。
その彼との交際中、さお兄に連れられ遊んでいた麻雀の席で、一人の男性と出会う。
はっきりとした目鼻立ち、逆三角形の逞しい肩、スラッと伸びた長身の年上。
大きな瞳を細め、煙草の煙を吐き出すその仕草が何ともセクシーで。
ユーモアセンスもあり、器用で話も面白かった。
まさにみこちゃん好みのイケメンである。
彼は美大を中退したかとかで絵が上手く、長く綺麗な指でみこちゃんの似顔絵も描いてくれたという。
みこちゃんの逞しい腕まで忠実に再現してくれたので、やや不満だったらしいが。
自分に何の取り柄もないと感じていたみこちゃんは、彼のそんな才能にも憧れた。
もうこうなったらみこちゃんの中でスポーツ万能しか魅力のない彼氏は、あっという間に心から追い出され、遠くへ消えた。
『好きな人が出来たから別れたい』
みこちゃんがそう告げた時の彼の荒れようは可哀想な位酷いものだった。
みこちゃんにあげたプレゼントを一つ残らず叩き壊し、泣き喚いた。
挙句に、みこちゃんの方が振られたと勘違いしたさお兄から『うちの妹を泣かせやがって』といきなり殴られ、踏んだり蹴ったりである。
それでも諦めきれず、しばらく家の周りを申し訳なさそうにウロウロしていたが、その内居なくなったという。
この人がその後どうなったかは知らないが、幸せな結婚をして、今頃は子供や孫に囲まれ幸せな日々を送っていて欲しいと願って止まない。
何の罪もない彼氏を振り、晴れて自由の身となったみこちゃんは、惚れたあのイケメンと付き合いだす。
これが彼女の人生の大きな分岐点となる、私の父との出会いである。