イケメン俊二は優しく家族思いだった為、みこちゃんの両親にも気に入られ交際は順調だった。
しばらくして二人はアパートで同棲を始めることにした。
銭湯に行って彼氏に絵を描いてもらうという、某名曲の歌詞の様な生活だったらしい。
俊二の提案でスナックを経営し生計を立てることとなるが、ボリュームがあり美味しく安いつまみと酒で、店はなかなか繁盛していた。
みこちゃんに少しでも気安くする客がいようものなら、俊二ではなく、客として飲んでいたさお兄が飛んできて、『俺の妹に何する!』と殴りかかるのである。
もうどうしようもない。
ふー子姉もこの店を少し手伝っていた時期があり、そこで二番目の伴侶と知り合うのだ。
その内みこちゃんは妊娠をして、籍を入れ、喜んでさっさと奥に引っ込んだ。
店は上手くやっていたものの、元々酔っぱらいの相手をする水商売が好きではなかったらしい。
いつからだったろうか。
さほど綺麗好きではない俊二が、帰宅してすぐシャワーを浴びる様になったのは。
すぐに感づいた相手は、店で一緒に働いている女性である。
俊二よりも年上で人妻。特に美人ではないがサバサバしていて、車を颯爽と乗りこなすなどみこちゃんにはない大人の魅力があった。
みこちゃんが女性にカマをかけた所、俊二との関係をあっさりと認めたという。
いわゆるダブル不倫だ。
ショックだったのはそれだけではない。
みこちゃんが店の管理を外れた途端、俊二はつまみや酒の値段を一気に引き上げ、客足が遠のき経営不振に陥っていた。
多額の借金を抱えていたことが発覚し、みこちゃんは雪の降る中、臨月の大きなお腹を抱えて金の工面に動き回っていたという。
そんな無茶にも関わらず、元気な女の子が産まれた。
産まれたばかりなのに少しも歪んでいない綺麗な卵型で、窓の雪景色の様に真っ白な顔。
目は両親程大きくないが、鼻も口も形良く揃っていた。
ふー子姉もこの子を見るなり、『綺麗な子』と言ってくれたそうなので、決して誇張して書いている訳ではない。
結局例の女性とは双方の家庭で話し合い、別れるということで話は付いた。
女の子が欲しかった俊二は、産まれた子供を可愛がりよく世話もしていた。
だがみこちゃんの心はあちこち罅が入ったままで、もう形を保っていることは限界だった。
俊二の帰りが少しでも遅ければ、また会っているのかと強い猜疑心に襲われ、帰宅した俊二を責め立てる。
借金も膨らむ一方で、半ばノイローセ状態だった。
ある日突然、産まれたばかりの娘を風呂場に思い切り叩きつけたくなる様な衝動に駆られ、心の底から怖くなり、ああもう無理だと決意したという。
俊二との別れを。
妊娠しても家に引っ込まず、ちゃんと店と俊二を管理していたら。
俊二を信じ、借金も何とか返し、家庭を続けていたなら。
今頃は下の子にも恵まれ、平凡だけど幸せな生活があったのかもしれない。
そうみこちゃんは言っていた。
私も若い頃は、娘のことを第一に考えたら、夫のくだらない浮気の一つや二つくらい水に流して、妻として堂々と家庭を守るべきだった
そんな風に考えていた。
でも少し大人になった今は違う。
そんな当たり前の判断が出来ない位、彼女は潔く人を愛することが出来たのだ。
それにむしろ娘を守る為の決意だったと知り、どうぞどうぞ!別れてくれてありがとうという気持ちさえ抱いている。
あのまま無理に続けていたら、私はこの世に存在していないかもしれないから。
そして父親が違う、私の今の妹にも、出会えなかったから。