二人の姉に続く、8歳上の長男のまさおは、家族大好き身内大好きの温かい兄である。

たった一人の妹であるみこちゃんをとても可愛り、みこちゃんも「さおにい、さおにい」と姉達に対するそれとは違った甘え方をしていた。

兄達の中で、青春時代など一番付き合いが深かったのはこのまさおである。

 

4歳上の次男くにおは頭が良く、少々理屈っぽい所はあるが優しく大人だった。

 

そしてみこちゃんが消えちゃえばいいのに!と念じていたくらい嫌いだったのが、

2歳上の三男けいじである。

昔からけいじは、みこちゃんをとことん苛め抜いていたのだ。

 

一番許せなかったというのが、鮒殺害事件である。

小学生の頃、みこちゃんは川で捕ってきた鮒を水槽に入れ、アキラと名付けてそれそれは可愛がっていた。

ある日気づくと、元気だったそのアキラがプカーっと汚れた水槽に浮かんでいた。

━━犯人はもちろんけいじ。

みこちゃんが悲しみ怒る姿を見たいが為に、罪のないアキラに大量の洗剤を与えたらしい。

 

青春時代もけいじはワガママで、家族に威張り散らしていたという。

働き出すと「お前は働いてないんだから偉そうにするな」と、年下のみこちゃんへの態度は特にひどいものだった。

ある日けいじが使っていたステレオを友達に譲ると言い出した。それは前からみこちゃんが欲しがっていた物で、要らなくなったら買い取りたいと約束していた物だったのに。

鮒の時と同じで、妹が落胆する姿がただ見たかったのだろう。

くにお兄はそれを聞き、「俺だったら妹になんか真っ先にタダで譲ってやるのに」と言ってくれたそうだ。

 

 

 

「兄弟なのに本気で思ってたの?」

「うん本気!もー消えちゃえばいいのにって毎日の様に思ってた!」

と言い切っていたから、余程だったのだろう。

もしかしたら末っ子で女の子で、可愛がられているみこちゃんへの嫉妬の気持ちからだったのかもしれない。

 

 

40も超え近くに住む様になった頃、けいじ兄はみこちゃんのお城の、くたびれたふすまを修理にしに来てくれたことがある。タダで。

颯爽と直し、颯爽と帰っていった。

その何年後か、みこちゃんより6年先に、けいじ兄は肺癌でこの世を去った。

 

「私が昔ずっと消えちゃえって思ってたからかな。今更そんなこと叶えてくれなくていいのに。」

みこちゃんは泣いた。そして、

「人が死ぬのってたまらなく寂しいね。世界中のどこにも居ないんだもん。

滅多に会えなくても、会わなくても、何処かに居てくれてるのとでは全然違うよ。

ついこの間このふすまを直してくれたのに、今はもう何処にもいなくなっちゃった。」と。

 

うん今すごく分かる。

ついこの間ここで料理をしてくれたのに、今はもう何処にもいなくなっちゃったって。

自分がそう娘に思われるなんて、この時のみこちゃんはまだ考えてもいなかっただろうね。