「みこは若い頃、おにぎりを一度に10個も食べたんだよ!」
と兄弟達が証言する様に(本人は否定しているが)、みこちゃんは昔から食いしん坊だった。
畑仕事の合間に出る味噌おにぎり、結婚式の後に父親が持って帰る甘い砂糖菓子、甘酸っぱいグミの実、小麦粉のお団子、運動会の日のいなり寿司、ふー子姉の手作りハンバーグ。
どれも大好物だった。
「食べ物を我慢すると惨めな気持ちになるの。」と言って、お金に困っている時も食費だけは絶対に削らなかった為、我が家のエンゲル係数は異様に高かった。
そんな食いしん坊のみこちゃんが、食べたくてもどうしても食べられなかったものがある。
それは遠足の日のお弁当だ。
車に酔いやすいみこちゃんは毎回遠足のバスに酔い、お昼の時間にはぐったりで母親の折角のご馳走を一口も食べられなかったのである。
「みこちゃんの隣に座るの嫌だなーだって私まで気持ち悪くなるんだもん」
そんな話し声も聞こえ、余計に悲しくなるのだった。
青ざめた顔で家に帰ると、母親は「おかえり」と優しく迎えてくれた。
全く手を付けられなかったお弁当を申し訳ない気持ちでボソボソと食べていると、普段はほうきで子供を追いかけまわしている母親が、何も言わずただにこにことみこちゃんを見つめていたという。
服も地味だわお弁当も食べられないわで、みこちゃんにとって遠足は憂鬱だっただろうけど、悪い思い出にはならなかったのだと思う。
私が遠足に行く時、いつもみこちゃんは山盛りのお弁当を作ってくれた。
友達はみんなお菓子が食べたいからと言ってお弁当を残していたが、私はお菓子は食べられなくてもお弁当は頑張って全部食べた。
朝早くから嬉しそうに作って送り出してくれるみこちゃんが愛おしく、空っぽのお弁当箱を見せたかったからだ。
そしてみこちゃんにとってはそんな娘の姿が何より愛おしかった。
いつの時代も親は、子供が無事に帰ってきてくれるだけで嬉しいのだろう。
野菜たっぷりの健康的な食生活をしていて、お酒もほとんど飲まないし煙草も吸わなかったのに、みこちゃんは癌になった。
ストレスとか低体温とか医学的にはそういうことが原因かもしれないけど、もっとざっくりいうなら、もう結局は運命なのだろう。
定められたのか選んだのか、私は後者だと思う。