酒井雄哉(さかいゆうさい)さんは昨年亡くなられた天台宗のお坊様で、大阿闍梨という尊称を与えられていた方だ。この大阿闍梨というのは千日回峰行と呼ばれる修行を最後までやり通した方にしか与えられない尊称とのことだが、その修行の中身を知って驚いた。

約7年をかけて1000日間、比叡山中を回峰巡拝する天台宗独特の修行で、最初の3年間は深夜から朝にかけ比叡山中を一日30~40キロ、毎年100日歩く。4、5年目は毎年200日歩くので、計700日の回峰を行うことになる。

700日の回峰行を終えると、不動堂に9日間こもって断食、断水、不眠、不臥で不動明王の真言を10万回唱える「堂入り」という行が課せられるそうだが、終盤になると瞳孔が開き死臭が漂うとも言われる過酷なものらしい。聞いただけで私など震えてしまう。

6年目は歩く距離が一日60キロになり、最終年は85キロを歩く。合計すると延べ4万キロになるんだとか。地球を一周歩く計算になるが、酒井さんはこの千日回峰行を2度行なっておられる。そういう方はこの400年で3人しかおられないし、その中で酒井さんは最高齢なんだそうだ。

大阿闍梨

(続く)
勤務先の同僚がコンサートの招待券をくれた。

静岡オペラコンクール

招待券には「第7回 静岡国際オペラコンクール 入賞者記念コンサート」と書かれていた。調べてみたら、静岡県や浜松市、静岡文化芸術大学主催の国際オペラコンクルールで入賞した方々が出演されるコンサートとのこと。入賞者は6名だが、80名を超える方々がコンクールに参加されているから、厳しい競争を勝ち抜いてきた方々だ。

入賞者

オペラには何の知識もなく、辛うじてモーツァルトの「魔笛」、プッチーニの「トゥーランドット」、ヴェルディの「椿姫」そして「オテロ」という曲名を記憶しているくらいだが、演奏はいずれも素晴らしく、その声量には文字通り圧倒された。特に、コンクールで2位になられたユン・キフンさんのバリトンには力強い響きがあり、天井や壁まで振動しているような気がした。

合唱団の先生は「身体が楽器なんです」と常々おっしゃっているが、身体が楽器なら、バイオリンやピアノ同様さまざまな音色で感情を表現することができるようになるのだろうか。ユン・キフンさんも時にささやくように歌ったり、消え入るような声で歌われたら、さぞかし印象深い演奏になりそうだ。入賞した人たちはこれからそういうことを勉強されるのだろうか・・・そんなことを思いながら演奏を聴かせてもらった。
丹羽宇一郎さんは伊藤忠商事で社長、会長を務められ、その後、民間出身では初の中国大使に任ぜられた方だ。しかし、就任3ヶ月後の2010年9月、尖閣諸島沖で中国漁船と海上保安庁の巡視船が衝突事故を起こし、日本国内は騒然となる。更に、2012年4月には石原都知事(当時)が東京都による尖閣諸島の購入計画を発表し、日中間の緊張が一気に高まる。

その尖閣諸島問題に翻弄されながらも中国在住邦人の安全確保や日中関係の正常化に心を砕き、しかし、日本国内では親中派とか中国寄りとまで批判された丹羽さんが書かれた本、それが「中国の大問題」だ。

中国の大問題

その通りだ、と思う丹羽さんの見方やご意見がいくつも出てくる。先ず、前文にあった「資源のない日本は海外との貿易なしに生きてはいけない。いかなる国とも争うことなく友好関係を築く必要がある。日本は世界で最も平和を求めなければならない国なのだ。そして将来を考えたとき、14億人の中国市場を開拓し、フルに利用していかなければ、日本が生き残る道はない」に異論を挟む余地はないように思う。

次に、丹羽さんはウイグル族やチベット族など少数民族問題について「多くの自治区は辺境に位置しているため、何千キロという長い国境を抱えて多くの国々と接している。海に囲まれた日本では想像しにくいが、陸続きの国境は隣国から容易に侵入できるし、地域によってはビザなしで隣国と日常的に行き来しているのが実態だ。中国の地図を見て自分ならどうするかと考えては途方に暮れる」とおっしゃっている。我々の感覚で中国を測るには無理があるのだ。

さて、丹羽さんは習近平国家主席と十数回会っておられるそうだが、習主席は会うたびに「両国は住所変更ができない間柄ですね」と繰り返されたとのこと。その際の印象から、習主席は実は親日家でフェアな人物ではとおっしゃっているが、私はそれが当たっているように思う。しかし、反日教育が行われている手前、日本に対する態度には神経質にならざるを得ないだろうし、私たち自身も忘れているが、先の大戦で日本は敗戦国、中国は戦勝国なのだから、私たちも中国からどう見られているかにもっと神経質になる必要があるように思う。

丹羽さんは本の終章で「日本という大問題」について書いておられるが、耳に痛い話のオンパレードだ。これも、中国や海外から見た日本を理解する上で非常に役立つ指摘だと思う。丹羽さんがあのまま大使を続けておられたら、と思わず想像してしまう本だ。