4月15日に放送されたNHK映像の世紀バタフライエフェクト「史上最大の作戦 ノルマンディー上陸」を観た。
【再放送】4月25日(木)午後11:50~
※【NHKオンデマンド】単品:220円(税込み) 購入期限:2025年4月12日
「砂浜には兵士の死体の他は何もなく、眼鏡を捜してはい回る従軍牧師がいるだけだった」、これはノルマンディー上陸作戦で兵士として戦った作家サリンジャーの未発表作品の一節。この作戦には15万の兵員が投入され、初めて戦場を経験する者も数多くいた。船の扉が開いた瞬間、ドイツ軍の銃弾が襲う。身を守る物などない中、兵士たちは恐怖を押さえつけ陸地に向け飛び出していく。連合軍を勝利に導いた名もなき人々の犠牲の記録。
※上記の公式サイトより引用
NHK映像の世紀バタフライエフェクトは2022年4月からスタートした、映像の世紀シリーズの新企画番組である。
新企画であるバタフライエフェクトの趣旨は、個々の出来事の連鎖が予期しない結果をもたらすという観点で、起こった後だからこそ関連していたことがわかる個々の出来事を取り上げるというものである。
この番組は歴史的事実を中心とした内容なのでこのブログでは殆ど取り上げないのだが、前回の記事「巨大事故 夢と安全のジレンマ」に続いて、またこの番組の記事になった。
その理由は、ノルマンディー上陸作戦の歴史的事実について映像が一通り流れた後での最後の4分間の内容インパクトがあったからである。
ノルマンディー上陸作戦の歴史的事実について物申す訳ではないので、今回も本文は短い筈である。(笑)
以下、本題
ノルマンディー上陸作戦は第二次大戦において、連合軍がドイツ軍の占領下にあったフランス北部のノルマンディー海岸にイギリスから上陸する作戦であり、その作戦規模の大きさから史上最大の作戦と呼ばれている。
前述の通り歴史的事実について物申す訳ではないので、ノルマンディー上陸作戦についてはこれ以上、触れない。
この番組で取り上げられている歴史的事実としては、ノルマンディー上陸作戦を指揮したアイゼンハワーが1953年に大統領に就任したところまで含まれており、ここまでで全体45分の内の40分強が経過している。
最後の4分間の内容は二つあった。
一つ目はノルマンディー上陸作戦に従軍した作家・サリンジャーの話であり、もう一つは
上陸作戦に参加したフランス兵の最後の存命者であったレオン・ゴーティエさんの話である。
サリンジャーはノルマンディー上陸作戦に従軍しただけでなく、その後はドイツまで進軍し、ドイツ降伏まで戦い続けたという。
番組で紹介されたのはノルマンディー上陸の一か月後、「サンデー・イブニング・ポスト」(1944年7月15日号)に掲載された短編小説、「最後の休暇の最後の日」(Last Day of the Last Furlough)であった。
この作品の主人公は出征直前の兵士であり、第一次世界大戦の思い出を誇らしげに語る父親に対して、主人公が反論する以下のセリフが引用される。
父さん、生意気なようだけど、僕は戦争が終わったら、口を閉ざして絶対何も語らない。
それがこの戦争に参加した全員の義務だと思う。
死者を英雄にまつり上げては駄目なんだ。
僕らが帰還して、ヒロイズムだのゴキブリだの塹壕だの血だのと、話して書いて絵にして映画にしたら、次の世代は未来のヒトラーに従うことになるだろう。
ドイツの若者がみんな暴力を軽蔑していたら、ヒトラーだって自分の野心をひとりで温めるしかなかったんだから。
作品中のセリフであるから、これがそのままサリンジャーの考えであると受け取るのは危険なので、ここではサリンジャーの真意ではなく番組がこの部分だけを引用した意図を考えたい。
それは、歴史的事実としてノルマンディー上陸作戦を指揮したアイゼンハワーが大統領に就任したということ、つまり、戦争の英雄を大衆が支持したということへのアンチテーゼであろう。
ここで昨年2月に放送されたNHKスペシャルが思い出された。
この番組の内容はウクライナ戦争の特集であり、この中に14歳の男子生徒と戦地で戦っている父親とのビデオ電話の映像がある。
以下に再掲する。
息子「パパが戦っているのは、敵に対する憎しみからでしょう?」
父親「ロシア人に対する?」
息子「うん、彼らに対する憎しみをどう考えているの?」
父親「答えは簡単ではないな。これだけは言える。私はおまえたちに戦争を見せたくないから戦っている。それだけだ。ロシア人を憎んでいるわけではない。ロシア人にも良い奴はいる。いろんな人がいるからね。」
息子「でも、良い人が別の国に来て、こんな戦争を起こすなんてあり得ないじゃないか。」
父親「戦争とはこういうものだ。私はもうすぐ帰る。」
息子「待ってるよ、寂しいけど、ずっと待ってるよ。」
戦争になれば多くの若者が、敵を憎み血気逸るのである。
番組の最後の4分間の内の二つ目に取り上げられたのは、上陸作戦に参加したフランス兵の最後の存命者であったレオン・ゴーティエさんの話である。
まず流れたのは、ゴーティエさんの2023年7月の葬儀の映像であった。
この葬儀はノルマンディーの砂浜で執り行われ、フランス大統領および軍関係者が参列している。
享年100歳であった。
戦後は平和活動家になったというゴーティエさんの、2021年のインタビュー映像の内容はこうであった。
今こそ平和を守るために警戒せねばなりません。
兵士は平和な時に奉仕できるほうがはるかに良いのです。
私の言葉を信じてほしい。
平和はすばらしい。
そして戦争は最大の不幸です。
そして、番組は現在のノルマンディーの海岸を遠目に映しながら終わった。
この最後の4分間を見直してから、再度、番組の大半を占める歴史的事実としてのノルマンディー上陸作戦を振り返ってみた。
この作戦は成功するとは限らなかったのである。
そして、この作戦が失敗していれば、これ以降の戦局もどうなっていたかはわからないのである。
この前提でもう一度、戦争が起こった後の顛末を考えると、最大の教訓は、起こってからでは遅いということであるように思われた。
番組の構成としては、なかなかの練り具合である。
しかし、物事はそう単純ではない。
そもそもバタフライエフェクトの趣旨は、個々の出来事の連鎖が予期しない結果をもたらすという観点で、起こった後だからこそ関連していたことがわかる個々の出来事を取り上げるというものである。
歴史は常に、物事が予想に反して進んでいくことを示している。
ということは、戦争が起こらないためには物事が想定に反して進んでいくブレを吸収するものが、事前に必要であるということになる。
結果的に勝利した側で従軍したサリンジャーは戦争を美談として語るべきではないと作品中に書き、ゴーティエさんも戦後は平和活動家になって戦争は不幸だと言っている。
従軍している時は勝利の為に戦っているが、たとえ戦争には勝っても、後から振り返ればそれは美談ではなく不幸なだけなのである。
物事の意味はある時点を境に、全く別のものになり得る。
ここで更に思い出されたのが、先日観た映画「オッペンハイマー」である。
原爆の父と呼ばれた物理学者・オッペンハイマーもまた、原爆の破壊力を知っていながら実戦で使用された後に愕然とするのである。
戦争においてもその意味は、ある時点を境に全く別のものになり得る。
それ故、物事が想定に反して進んでいくブレを吸収するものとは、前後する時間における両面を感じ取ることであると思うのである。
「戦争反対」と言うだけでは、この両面の意味を感じるのには足りないのではないだうろか。
平和な間に、戦争は後から振り返れば美談はなく不幸なだけなのだ、と今思う感性で心の舵取りをしておく必要を感じる最後の4分間であった。
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