NHKスペシャル「認知症の先輩が教えてくれたこと」 | 日々是本日

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bookudakoji の本ブログ

 NHKスペシャル「認知症の先輩が教えてくれたこと」は一年ぐらい前に放送された認知症関連番組である。

 

 録画の整理のついでに観直してみた。

 

※初回放送:2021年9月26日

 

 先日、認知症になった父親とその家族を描いた映画「長いお別れ」という作品の記事を書いたのが思い出された。

 

 この映画は主人公の父親が70歳で認知症になったところから、家族との関りを中心にその後の数年間を描いた作品である。

 

 主人公の認知症を受け入れていく過程も描かれているが、こうした過程はひとそれぞれである部分が大きいし、実際にはなかなか当事者に密着してその実感を聞くというのは難しいものである。

 

 このドキュメンタリー番組では当事者と家族の実感が、認知症の診断後からその後の変化も含めて直接語られていたのが、かなり印象的だった。

 

 またこの番組は、当事者の話を聞くというだけでなく、「認知症の相談員が認知症の患者の相談を受ける」という取り組みをしている病院のドキュメントでもあり、個別のインタビュー以上の内容であった。

 

▼NHKスペシャル「認知症の先輩が教えてくれたこと」5分PR

 

 現在のところ視聴手段がこの5分PRしかないので、以下、ポイントを紹介したいと思う。

 

 この取材の対象となった病院には、認知症の相談員が認知症の患者の相談を受ける相談室がある。

 

 取材に応じたのは78歳の認知症の男性相談員と認知症と診断された68歳の男性の患者である。

 

 68歳の男性はこの相談員に何が辛いのかを度々話し、相談員もまた自分の経験からしんどかったことや認知症と診断されてからできるようになったことなどを話していく。

 

 こうしてこの68歳の男性は、まだ何ができるのかを考えていく。

 

 印象的だったのはこの男性のある日の日記である。

 

認知症になってよかったこと。

妻のやさしさにふれたこと。

友人がふえたこと。

人のいたみがわかったこと。

 

 心の持ち方にこうした変化があるということを当事者の語りで聞くと重みがある。

 

 この男性は趣味でテニスをしているのだが、認知症になってから点数のカウントを間違ったのを友人に指摘されて傷ついたというエピソードがあった。

 

 この出来事を相談員に話すと、認知症であることをテニス仲間に話してみてはどうかとアドバイスされる。

 後日の様子を撮影した映像では、この男性は認知症であることをテニス仲間に話して楽しんでいた。

 

 自分とどう向き合っていくかということに終わりはないと感じた。

 5分PRでは取り上げられていなかったが、本編では74歳の妻が認知症と診断された夫婦も取材されていた。

 認知症になった妻との向き合い方がわからない夫もまた、この相談室で話をしていた。

 

 この男性は妻が認知症と診断された頃に、「認知症の人は敏感だ」ということを聞いたがその頃は意味がわからなかったと話していた。

 

 その後、妻とのやりとりを見つめながら、認知症の人がどういうことを気にしていてどういうことに傷つくかがわかってくると、今では反省していると語っていた。

 他者とどう向き合っていくかということに終わりはないと感じた。

 自分が認知症になるのか、認知症の家族と暮らす方になるのかどうかはわからないが、いずれにせよ大人の末路もなかなか難しい。

 

 認知症については今のところ、MCI(軽度認知障害)と言われる軽度の段階で気づいて進行を遅らせるのが有効であると言われているようである。

 

 あるいは脳トレや運動をするといった現実的な努力は、勿論できるのであるがそれ以上にメンタルの面で、自分と向き合う、他者と向き合うということに今現在から配慮していかねばならないと思わされる番組であった。

 日常生活に密着した取材から感じられたのは、認知症になった自分に対して自分のプライドが邪魔をすることもあるだろうし、認知症になった伴侶の共感できない言動に対して、共感しようとしても自分の心がついてこないこともあるだうという現実であった。
 

 「今現在から『配慮』していかねばならない」と表現したのは、自分と向き合う、他者と向き合うということが特別な出来事があった時によく考えるという意味ではなく、日頃のあり方がどこまでも付きまとうものだということが痛感されたからである。

 

 更にこの番組ではやはり、認知症の相談員と語り合っていくというプロセスが意義深く感じられた。

 

 それは、認知症になったのが自分の場合であっても家族の場合であっても、当事者との語らいによって認知症の受け止め方が変わっていくというのを目の当たりにしたからである。

 

 自分と家族だけの世界で、認知症の受け止め方を変えていくのは相当にしんどいことであると思うのだ。

 

 とは言え、こうした相談室に実際に通えるケースは少ないという現実を考えると、この認知症である相談員とのやりとりの内実を垣間見ることができたという点でも、なかなか貴重なドキュメンタリーであった。

 

 再放送の情報があったら、また一報したいと思う。